第18話黒いドラゴン

【ヴェネツィーの街】


「満!満!どこだ?!!」


〈狂ったように満を探し回る光の神〉


「満!どこだ?!満!!(そなたにもしもの事が有ったら兄の光に申し訳が立たぬ…いや、私は…私は…)」


〈街の中を狂ったように満を探し歩き回る光の神〉


「満!!どこだ?!満!!」


「おお、居たな。光」


「満…満…」


「あん?光、しっかりしろ!ここには満は居ねえよ」


【北の城門近く】


〈馬で城門に向かう騎士隊長。城門を見上げる〉


「うん?(何故見張りの者が居らんのだ?)」


【北の城門】


「見張りはどうした?何をしておる?!」


〈その時門が開く〉


「見張りなら、金をやったら寝返った」


「何?!」


「騎士が一人来た所で我々を止められまい」


「それはどうかな?」


「面白い、やってしまえ!」


「こら!勝手なまねは、まだ命令は出してないわよ」


「この期に及んで」


「女の命令なんざ待ってられるかよ!」


「あら、私に逆らって死にたくないんじゃなかった?」


「俺はそんな事言った覚えはねえよ」


「やっちまえ!」


「おー!!」


【闘技場】


〈猫魔は黒いドラゴンと戦っている〉


「中々しぶといニャ(弱点はどこニャ?)」


〈空中からドラゴンが仕掛けて来る。猫魔は転がって避ける〉


「降りて来い!(空を飛んでたら攻撃出来ないニャ)」


【天上界の神殿】


「大神様はここに居るのか?」


〈扉の前に立つ紫月光〉


「開いたりして」


〈押してみる…びくともしない。引いてみる…びくともしない〉


「鍵がかかってるのか?」


〈扉を良く見ると…〉


「何だこりゃ?ははん、パズルなら得意だぜ」


【ヴェネツィーの街】


「光、落ち着けって」


「満がどこにも居らんのだ、これが落ち着いて居られるか?!」


「まさか、街を出たりしてねえよな?」


「街を出てどこに行くと言うのだ?」


「わかんねえけどよ、行ってみようぜ」


【天上界の神殿の扉前】


「これをこうやって、こうやって、えーっと…」


〈カチャカチャとパズルになっている石を動かす光〉


「そんでこいつをこっちに…」


【ヴェネツィーの北の城門】


〈ザッハトルテ軍の兵士達と戦う騎士隊長〉


「くそう、騎士一人に手こずるとは」


「隊長はどうした?」


「さっきの娘と向こうへ行ったぜ」


【天上界の神殿の扉前】


〈カチャカチャ、カチャカチャ〉


「もう少しだ」


〈カチャッ、カチャカチャ〉


「こいつはどこに持ってくんだ?」


【ヴェネツィーの北の城門】


〈ザッハトルテ軍の兵士達と戦う騎士隊長〉


「くそう!全員でかかれ!」


〈兵士達が騎士隊長を取り囲む〉


「何人来ようと同じ事だ。まとめて料理してくれる」


〈その時騎士隊長の背中の傷が痛む〉


「うっ…」


「今だ!やっちまえ!」


「馬から引きずり下ろせ!」


〈バサッと大きな音を立てて騎士隊長が馬から落ちる〉


「殺せ!殺せ!」


「やっちまえ!」


「待ちやがれ!」


〈栗金団が剣を抜いて構える。光の神も剣を抜く〉


「つぇーい!」


〈栗金団の剣からファイヤーボールが飛び出す〉


「うわー!」


〈兵士達が怯んだ隙に騎士隊長が起き上がり剣を振り回す〉


「助っ人か、すまぬな」


「良いって事よ」


【天上界の神殿の扉前】


〈カチャカチャ、カチャカチャ、カチーン〉


「おおっ!やったか?」


〈紫月光は神殿の重い扉を押してみる。ギーーー〉


「ふぅー開いたぜ」


〈恐る恐る神殿の中に入る光〉


【神殿の中】


「すげー…さすがに神聖な場所って感じだぜ…爺さんはどこだ?」


〈キョロキョロしながら進む光〉


「起こしたら怒られるかな?「無礼者!」とか言ってよう。けど、緊急事態なんだ。そんなもんビビってられっかよ!」


〈紫月光は足早に奥へ進む〉


「爺さんの部屋、爺さんの部屋…」


〈大神様の部屋を探して進む光〉


「あ、あの部屋、一番奥で大層な飾りが有るな、きっとあそこだ」


【一番奥の部屋】


〈光は扉を押してみる…〉


「そんなに簡単に開くわけねえか」


〈今度は力一杯引いてみる〉


「うわっ」


〈光は尻餅をつく〉


「痛てててて、何だよ、簡単に開きやがった」


〈部屋の奥を見るとベッドに誰か眠っているようだ〉


「爺さんか?」


〈光は立ち上がりベッドの所に行ってみる。そこには白い立派な髭を蓄えたお爺さんが眠っていた〉


「この爺さんが大神様か?神殿のこんな立派な部屋で寝てんだ。きっとそうだ。おい、大神様」


「スー…」


「起きてくださいよ、大神様」


「スースー」


「爺さん起きてくれよ」


「スーむにゃむにゃ」


「起きろじじい!!」


「う、うーん」


〈大神様はゆっくりと目を開く〉


「おおっ!起きたか?!」


「ふぁ~っ」


〈大神様は大きなあくびをした〉


「ワシは…いったいどれほどの時間眠って居ったのじゃ?」


「呑気な事言ってねえで助けてくれよ。人間界が大変な事になってんだよ」


「そなたは誰じゃ?」


「俺は紫月光。死んじまったんだが、光の神に体貸してて、って、そんな説明は後で良いだろ!?とにかく俺と一緒に来てくれよ」


【神殿の扉】


〈紫月光が大神様を引っ張って出て来る〉


「もう少し早く歩けねえのかな?急いでくれよ」


「そのように急かすでない」


「ああ、もう!おぶってやる!」


【女神の泉】


「ああ、もう!私が人間界に行ければ良いんですけど」


「あなたにはこの天界でしてもらわなくてはならない仕事が有るのですから」


「そうですよね、私が行ったところでアレが復活したらどうにもなりませんけど、でも、少しでも光の神や猫魔の力になりたい」


「おーい!連れて来たぜ」


「連れて来たって誰を?って、えーーー?!大神様?」


「ああ、重っ…も、もう限界だ。下ろすぜ」


「スマンの」


「爺さん早く、早く歩いてくれよ」


「ちょ、ちょっと!大神様に向かって何て失礼な口の利き方?!」


「あ、わりぃ。怒られたってしょうがねえ。俺はこんなものの言い方しか出来ねえんだよ」


〈そんな事を言いながら光は大神様を泉の所まで引っ張って行く〉


「あー、やれやれ。フー…いやいや、ワシはそのぐらいの事で怒りはせんよ。フォッフォッフォッ」


「呑気に笑ってねえで頼むよ。女神さんよう、爺さん、じゃねえ、大神様に地上の様子を見せてやってくれよ」


「いったいどうしたと言うのじゃ?」


〈光の天使はこれまでの事を大神様に話す。女神は水面に人間界の様子を映し出す〉


「そうか、アレが復活するか」


「ほら、見てくれ!猫魔が黒いドラゴンと戦ってる。このままじゃ食われちまう。何とかしてくれよ!」


「光の神が天に居る時と同じ力を使えたら良いのよ。そしたらあんなドラゴンなんて怖くないわ」


「そうか、良しわかった。人間の身体を借りていても本来の力を使えるようにしてやろう」


「そんな事が出来るのか?」


「誰に言ってるのよ?大神様よ。お出来にならない事なんて無いわよ」


「なら、とっととやってくれよ」


【ヴェネツィーの街】


〈光の神と栗金団と騎士隊長は敵の大軍と戦っている〉


「くそう、いったいどんだけ出て来やがんだ?」


〈その時天から一筋の光が光線のように光の神に向かって来る。そして光の神の身体が光に包まれる〉


「ま、眩しい…いったい何が起こってんだ?」


「(父上が、目覚められたか)」


〈その凄まじい光に敵軍が一瞬怯む。光は光の神の身体に吸収され消えて行く〉


「何だったんだ?今の」


「(では手始めに)稲妻よ!」


〈光の神がそう言うと敵兵達は天からの稲妻に打たれ倒れる〉


「何だ何だぁ?お前魔法が使えるようになったのか?」


「魔法と言う物は「悪」私は使わんよ」


「だって、今の」


〈小倉杏が満を連れて来る〉


「満!」


「お兄ちゃん」


「ほら、行きなさい」


〈満は走って光の神の腕に飛び込む。それを見届けると小倉杏は急いで門を出る〉


「騎士隊長殿!!」


〈騎士隊が馬で来る〉


「ここは彼らに任せよう。参るぞ」


【宮中】


〈光の神は餡先生にこれまでの事を話した〉


「そう…騎士隊長さんあんな身体で無茶して」


「満を頼む」


「ええ、大丈夫よ」


【闘技場】


〈光の神と栗金団が来る。中から炎が上がっているのが見える〉


「急ごう」


【闘技場の中】


〈猛り狂うドラゴンが炎を吐く。燃え盛る炎の中戦っている猫魔〉


「猫魔が丸焼けになっちまう」


「雨よ!」


〈光の神がそう言うと豪雨が降り注ぐ〉


「うわっ、物凄え雨だな。こういう雨が降ると「神様が天でバケツをひっくり返したんじゃねえか?」って言ったもんだぜ」


「そうかも知れんな」


〈しばらくすると火は消えドラゴンが下りて来る〉


「やっと下りて来たニャ」


「ええーーい!」


〈栗金団のファイヤーボール〉


「くそう、びくともしねえ」


〈ドラゴンは尻尾を地面に叩きつける〉


「うわっ!」


〈栗金団が吹っ飛ぶ〉


「団!しっかりしろ!」


「うっ…大丈夫だ。ちと…油断した」


「よくも、よくもくりきんとんを!よくも俺の友達を!」


「ははあ、友達だ友達。猫魔の奴体の毛逆立てて怒ってやがる」


「許さない、許さない!天の神様が許してもこの俺が許さない!お前だけは絶対に許さないぞ!!」


「って変身しやがった「ニャ」って言わねえし」


〈猫魔はぴょんぴょんとドラゴンの体を登って行く。そして頭の上へ〉


「必殺!葛桜ーーー!!!」


「ギャーーー!!」


〈桜の花びら舞い散る中ドスン!!!と大きな音を立ててドラゴンの巨体が倒れる。猫魔はドラゴンの頭から飛び降りる〉


「もう、元の姿に戻ってやがる」


「くりきんとん、怪我はにゃいか?」


「ああ、大したことねえ。それにしてもまた今日の必殺技は、ハハハ、婆ちゃんの菓子、葛桜だったもんな」


「神様、力が戻ったのニャ?」


「神様だって?」


「あにゃ、それは…えっと」


【天上界の女神の泉】


「猫魔の奴、やりやがった」


「これでひとまず安心…でも、アレの所に負のエネルギーが集まってる。時間の問題だわ」


「ンなもん爺さんがやっつけてくれるだろ?」


「そんなに簡単にはいかないのよ」


「だってお前さっき「大神様にお出来にならない事なんて無い」って言ったじゃねえかよ」


「アレと戦うのは光の神じゃ」


「でもあの方はお優し過ぎる。今度ばかりは改心したら許そうなどと思われないで、徹底的に叩かないと」


【ヴェネツィーの北の城門】


〈ザッハトルテ軍の兵士達が倒れている。騎士達は馬に乗る〉


「ここはひとまず片付いたが、今のうちにフィナンシェ様を古城にお連れせねば、また何時敵が攻めて来るやも知れん」


【王宮のフィナンシェの部屋】


「わかりました。古城に移動します。市民達も連れて行きます」


「フィナンシェ様は抜け道を通って、敵に気づかれぬように街をお出にならなければなりません」


「では、市民達は?市民達はどうなるのです?」


「逃がします」


「私の大切な市民です。古城へ連れて行きます」


「わかりました。必ず後から連れて行きますので、フィナンシェ様は先にヴェネツィーをお出になってください」


「頼みましたよ。必ず、必ず市民を」


「はっ、お任せ下さい!」


【抜け道】


「古城か、楽しみだな」


「くりきんとん、遊びに行くんじゃないんだよ」


「だってよう、このメンバーだぜ」


「騎士隊長さんが「フィナンシェ様には変装して頂くゆえ、宜しく頼む」って」


「今までも変装して街に出てたのバレてたのかな?」


「とーっくに知ってたニャ」


「餡先生どうしたのだ?」


「あ…(薬は置いて来たけど、あの身体で無理して…)」


「腹減ったニャ」


「魚が獲れる場所が有ったら獲ったげる」


「シイラちゃん漁師に変身?」


「途中川が有るはずです。城には湖も」


「母ちゃんが来たら、美味いもん作ってやるぜ」


「ごめんなさい、一緒に連れて来られなくて…ごめんなさい…」


「心配すんなって、俺の母ちゃんだ、殺されたって死にゃあしねえよ」


「大丈夫だよ。騎士隊長さんが約束してくれたもん」


「きっと皆んな無事に来れるわ」


「水の音が聞こえるニャ。ニャは、川ニャ、近くに川が有るニャ」


「え、聞こえないよ」


〈猫魔が走り出す〉


「おーい、早く来るニャ!」


「うわー、本当に川だ」


「綺麗な水ね」


「良ーし、魚釣るよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る