第5話物の怪の正体は?
〈餡は国王の胸に手を当てる〉
「何をしているのです?」
「ヒーリングです」
「う…うぅ…」
「ごめんなさい…痛みを和らげて差し上げる事しか出来なくて」
「良い…のだ…余はもう…永くは無いと…わかっている…」
「(死にゆく人をヒーリングで引き止めてはいけないの。ごめんなさい…ごめんなさい)」
「少し…楽になった…眠りたい」
「もう少しヒーリングしていますから、どうぞお休みになってください」
「信じられません。騎士隊長様、この方はいったい、どれほどの名医なのです?」
「自分は医者ではないと申していた」
「え?お医者様ではないのですか?」
「お休みになられたわ。戻りましょう」
【フィナンシェ姫の部屋】
〈フィナンシェ姫の様子をじっと見守る光の神〉
美しき姫よ、もう少しの辛抱だ。
そなたは必ず助ける。
「物の怪め、こんなに可愛い姫様に取り付くにゃんて許せにゃいニャ。とっとと出て来やがれ」
「お前だって物の怪の癖に、何を言っている」
「もう一度言ってご覧なさい。これ以上私の仲間を侮辱したら許さないわよ」
「もうお前は外に出ていろ!」
「くっ」
〈ツカツカと部屋を出る騎士〉
「戻って来たか。国王はどうだったニャ?」
「少し楽になられたようで、今は眠っていらっしゃるわ」
「そうか、良かったニャ」
「さあ、始めますか。危ないから騎士さん達は外に出て頂こうかしら。指揮官さんも出ていてくださいね」
「私もか?」
「ええ、そうです」
〈苦痛でフィナンシェ姫の顔が歪む〉
「大丈夫ニャ。大丈夫にゃからニャ」
「ほらほら騎士さん達。早く外へ」
「危険だから、我々が居た方が良いのでは?」
「いいえ、危険だから出ていてほしいんです。フィナンシェ姫様の病の原因は物の怪。普通の人間の手に追える相手ではありません」
「しかし」
「心配するニャ。その為に俺が呼ばれたみたいにゃからニャ」
「みたいとは」
「そうよ。騎士さん達が急かすし、猫魔君にひどい事言うから、説明するの忘れてたわ」
「猫魔君?今、猫魔君て言ったニャ。猫まんまって言わなかったのニャ」
「あら、本当ね」
「この者達に任せておいて大丈夫なのでしょうか?」
「ここは餡どのの言う通り、我々は外で待っているしかあるまい」
〈指揮官に促されて騎士達が部屋を出て行く〉
「誰の生霊かしら?苦しくなって来たでしょう?霊の嫌いなお香だからね。観念してフィナンシェ姫の御体から出なさい」
「この物の怪、中々しぶといニャ」
「もう少し待ちますか。ねえ、猫まんまちゃん。退屈しのぎに身の上話でも聞かせてくれない?」
「また、猫まんまに戻ってるニャ」
「猫まんまちゃんは、光君のペットなの?」
「地上の光(ひかる)じゃにゃくて、天上界の光の神(ひかりのかみ)のペットニャ」
「ややこしいわね。魂は光の神でも、地上では光君の身体を借りてるんだから、光で統一して話してよ」
「わかったニャ。でも神様ニャ。だから他の人が居にゃい時は神様って言うニャ」
「まあ良いわ。じゃあ天上界では、光の神と猫まんまちゃんはどんなだったの?」
〈光の神は、じっとフィナンシェ姫の様子を見ている〉
「俺のママは、妖猫」
「ママ?」
「父親は、神狼なのニャ。でもそれは、他の妖魔には決して話してはいけにゃい事実。皆んにゃと姿が違う俺は、いつも虐められてたニャ」
「虐めって、やられっぱなしなの?」
「ママが「お前が本気になれば、きっと皆んなを殺してしまう。だから、決して喧嘩をしてはいけないよ」って言うのニャ」
「それで?」
「ある日、妖魔界のボスにボコボコにやられて、瀕死になってた俺を助けてくれたのが光の神なのニャ。俺は意識を無くして気がついたら天使界の光の天使の所に居たのニャ」
「あの食いしん坊の天使ちゃんね」
「何日も意識が戻らなくて、死んじゃうかと思ったわよ」
「光の天使。いつから居たのニャ?」
「あの時は、ずっと光の神が猫魔のそばについて介抱してたのよ」
「でも俺が動けるようになったら、居なくなったのニャ。俺は探したニャ。神様だなんて知らなくて探したニャ。そして、神様だとわかって、会いに行ったのニャ」
「それで、会えたの?」
「会えなかったニャ。そして、大人になった俺は、女神様にお願いしたのニャ。女神様は、聖域に入れてくれたニャ。そこには光の神が居たのニャ」
「会えたんだ」
「光の神は、俺の子供の時の姿しか知らにゃいから、女神様に子供の姿にしてもらったのニャ。皆んなが恐ろしがる大人の姿で会うのは嫌だったのニャ」
「それからどうしたの?」
「それからの俺は、まるで里親が見つかった保護猫みたいに幸せだったニャ。でも、ある日光の神が言ったのニャ「母親が心配しているであろう、妖魔界に帰りなさい」って」
「そうよね」
「俺は妖魔ニャ、聖域にずっと居られない事はわかってたニャ。泣く泣く妖魔界に帰ったニャ」
「それから光君…光の神とは会って無いの?」
「突然大神様が引退宣言して天界は大変な騒ぎになったニャ。俺は何か手伝える事がにゃいかと光の神の所へ行ったニャ。でも、俺が聖域に着いた時には既に光の神が地上に降りて行った後だったのニャ」
「あの日ね」
「俺はまた女神様にお願いしたニャ「人間界に行かせてください」って」
「そしたら?」
【過去の女神の泉】
「自分でははわかっていないでしょうけれど、大人になった貴方は、おそらく妖魔界で一番強いでしょう。その力は、貴方が自分でコントロール出来ないほどの大きな力です。それはとても危険です」
「そんにゃの知らにゃいニャ。俺は本気で喧嘩した事は無いニャ」
「本気で無くて、今までどれほど戦い、どれほどの力で妖魔界を治めて来たのです?」
「本気で戦わなくても勝てたのニャ」
「そんな貴方が、怒りに任せて戦った時はどうなりますか?」
「それは…」
「今人間界は、光と闇のバランスを崩して、物の怪が現れ人々を苦しめています。貴方は光の神の手助けをするのですよ」
「じゃあ、行っても良いにょですか?」
「一つだけ約束してください。子供の姿で行きなさい。そして、普段はその姿で居るのですよ。どうしても強い力が必要な時だけ大人の姿になりなさい。でも、気を付けるのですよ。自分を見失わないように」
「はいニャ!」
【現在のフィナンシェ姫の部屋】
「なるほどね、七都ちゃん達が言ってた、猫まんまちゃんの変身て、そういう事だったのね」
「あ、私そろそろ天使界に戻らないと」
「え?帰るの?」
「こう見えて忙しいのよ。遊んでいられないの。また来るわねー」
〈一筋の紫色の光が天に昇って行く〉
「神出鬼没だわね」
「うっ…ううう!」
「餡先生!動き出したぞ!」
「来たわね、始めましょう。猫魔君、頼りにしてるわよ」
「任せるニャ!」
〈フィナンシェ姫の顔が苦痛に歪む〉
「く、苦しい…何だ…これは…誰が私を!」
〈フィナンシェ姫の声が段々と変わって行く〉
「苦しいでしょう?その身体から離れなさい」
「ううっ、うおおぉぉぉーーー!!」
「男の霊のようだな」
「ええ、生霊ね」
「お前はいったい誰なのニャ?」
「私は…この国の…王になる…のだ」
「王にね。それでフィナンシェ姫に取り憑いてるの?」
「うっ、ぐあぁぁぁ!」
「苦しいでしょう?早く出た方が良いわよ」
「もっと香を焚くぞ」
「く、苦しい、苦しい苦しい苦しい!おのれ!!!」
「やっと離れたわね」
〈フィナンシェ姫の身体から物の怪が抜け出ると姫の表情が変わる。そして、気を失う〉
「私はこの国の王になるのだ」
「王様は、ちゃんと居るニャ」
「国王は、じきに死ぬ」
「まだ生きてるニャ」
「この小娘は邪魔だ。殺す。殺す。殺す」
「霊って、簡単に「殺す」って言うのよね」
「安心しろ、フィナンシェ一人で逝かせはしない。お前達も一緒にあの世に送ってやる。そして私は全てを手にするのだ。フハハハハハハハ」
「あら、そんなに簡単に貴方の思い通りになるかしら?この猫ちゃん強いわよ」
「俺が相手になるニャ」
「お前のような化け猫、一捻りで捻り潰してくれるわ!」
「何にゃ…この臭いは?」
「オホッ、オホツ、薬品みたいね。うぅぅ…強烈に鼻を突く臭いだわ」
「何も無いにょに、どこから臭うのニャ?」
「霊は、どこからか臭いを出して来るのよ」
「ゲホッ、ゲホッ…」
〈咳き込む猫魔に物の怪が攻撃して来る〉
「うわっ」
「猫まんまちゃん、チャッチャと変身して片付けちゃいなさいよ」
「それが、そんにゃに簡単にはいかにゃいのニャ」
「確か「もう許さないニャ」って言って変身したって聞いたわよ」
「そうニャ」
「じや、言ってみたら?」
「はニャ?」
「早く」
「わ、わかったニャ。えーい、もう許さないニャ!」
「猫まんまちゃん」
「どうニャ?変身したにょか?」
〈呆れて首を横に振る餡。猫魔は自分の姿を見て確かめる〉
「あニャ…ダメにゃのニャ」
「どうした?かかって来ぬならこちらから行くぞ」
私にこの剣が使えたなら…
こんな時に、光の天使は天使界に戻ったのか。
地上での私は、こんなにも無力なのか…
「この国の全てを手に入れるのだ、邪魔する者は殺す!」
「うわぁ」
「口ほどにも無いのう。フハハハハハ」
「「悪い奴ほどよく笑う」って、良く言ったものね」
「黙れ、小賢しい!えーーーい!!」
「キャア」
「餡先生、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよ。光君も剣術大会の優勝者らしく戦いなさいよね」
「光の神は餡先生を守っててくれニャ。俺はもう怒ったニャ。お前だけは絶対に許さないニャ。うおおぉぉぉ!!」
「あら、変身したわね」
「覚悟しろ!お前のような奴は、天の神様が許してもこの俺が許さないぞ」
「あら「ニャ」はどこ行ったの?」
「そこは突っ込まないでやってくれ」
「光君。そんなに抱き締めたら苦しいわ」
「すまぬが、我慢してくれ」
「良いわよ。ちょっと嬉しいから」
「こんな時に…」
「ウフフ」
「秘技、温泉饅頭!!」
「ぐわあぁーーー!!」
「あら、やっつけちゃったわ」
「そこの二人。いつまでくっついてるニャ」
「気にしない、気にしない」
「気にするニャ」
「そんな事より猫魔君、元の猫まんまちゃんの姿に戻ってるわよ」
「戦いが終わると、勝手に戻るニャ」
「もしかして、怒りが頂点に達したら変身するとか?」
「そうにゃのか?」
「でも、どうして必殺技が温泉饅頭なの?」
「ここへ来る前に、猫茶屋で食べておったな」
「そうなのニャ。千代子婆ちゃんの饅頭は最高に美味いニャ」
「猫魔さん」
「フィナンシェ姫。もう大丈夫にゃのか?」
「ええ」
「良かったニャ」
「あの、わたくし、何とお礼を言ったら良いか…」
「お礼にゃんて良いニャ。早く元気ににゃれば良いニャ」
「ありがとう…あの…あの方は神様なのですか?」
「あニャ?!そ、それは…」
「意識が朦朧とする中、聞こえてしまったのです」
「気、気のせいニャ」(大汗)
「猫まんまちゃん、一生懸命誤魔化してるけど」
「ま、まあ、肯定していなければ良いのではないか?」
「二人とも嘘は下手よね。それより、さっきの物の怪って」
「心当たりが有ります。確かな証拠が無いので、滅多な事は言えませんけれど…わたくしの知る者に、科学者が…」
「さっきの薬品の臭い…そういう事なのね」
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