第4話フィナンシェ姫
〈間合いを取って睨み合う光の神と小倉杏〉
「(どうしたの?かかって来なさいよ)」
やはり強そうだな、隙が無い。
「(来ないならこっちから行くわよ)えーい!」
「くっ」
〈鍔迫り合いになる〉
「最近は、魔法石を使って剣に色々な力を加えられるの。炎や雷は良く見るけど貴方のは光なのね、初めて見たわ」
〈顔を寄せて小声で話す小倉杏〉
こんな時に余裕だな、この人は。
「でも、魔法石をつけると通常攻撃がパワーダウンするのが悩みどころなのよ」
「そういうものなのか?」
「え?貴方、魔法石使って無いの?あら本当、石が付いてない。じゃあ、その剣はいったい…」
「これ!何をブツブツ言っておるのだ!真面目に戦わんか!」
「ふっ!」
〈バックステップする杏と同時に剣を振り下ろす光の神〉
「っえーい!」
「(しまった!)ああーっ!」
〈光の剣が空を切る。杏は後ろに飛ばされ転がる〉
「うっ(何て力なの?あの剣はいったい何?)」
「それまで!勝者紫月光!」
ワー!!キャー!
「光の奴、勝ちやがった」
「本大会の優勝者紫月光には、次の武術トーナメントの出場権を与える。剣の腕を磨いておくように。以上!姫様に礼!!」
〈フィナンシェ姫を見上げている光の神〉
ほんに美しい姫君だ。
「負けちゃったわ。修行が足りないわね。貴方以外と強いじゃない」
〈姫に見とれる光の神に話しかける杏〉
「え?あ、いや私は…」
〈歩きながら話す2人〉
「武術トーナメント頑張ってね」
「武術トーナメントとは?」
「今度の相手は剣だけじゃないわよ。腕に覚えの有る強者達が国中から集まるのが武術トーナメント。皆んな予選を勝ち抜いて来てるから強いわよ」
【エントランス】
「餡先生と杏さんて、名前の字が反対だったら面白かったのに」
「だから、お前が言うか、って」
「そこ、誰かが突っ込むと思ったわよ」
「初めて会った時、そう言って笑ったの。それで仲良くなったのよね?」
「そうだっけ?」
「もう、杏ちゃんたら、忘れたの?」
【療養所】
〈光の神が剣を抜いて眺めている〉
剣の腕を磨いておけと言われたけれど…
「武術トーナメントも光君が優勝したりして」
「………」
「どうしたの?」
「私は、戦いは好かぬ」
「光君は好きだったよ」
「私は彼ではない」
「杏が聞いたらがっかりするわね。あの子、貴方に負けたのが悔しくて、また修行に行ったのよ」
【王宮】
「姫様、どうなされました?姫様、姫様!」
「侍従長様、いかがなさいました?」
「誰か!医者を、医者を、早く!」
〈ソファでぐったりしているフィナンシェ姫を見て驚く女官〉
「は、はい!」
【猫茶屋】
「小さい頃ね、大人になったらお兄ちゃんのお嫁さんになるんだって、思ってたの。でも「兄妹は結婚出来ないんだよ」って言われて沢山泣いたわ。大きくなって、血が繋がってないってわかったの。そしてお兄ちゃんに言ったら「何言ってるんだ、それでも兄妹だろ」って怒られちゃった」
「そうにゃのか(満のお兄ちゃんは死んだのニャ。魂は天に昇ったのニャ。今は違う魂だにゃんて、俺にはとても言えにゃいニャ)」
【療養所】
「あら杵さん、どうしたの?」
「最近剣の注文が立て込んでて、うっかり火傷しちまった」
「はい、ちょっと見せて」
「うっ、ててて」
「ラベンダーの精油で湿布しとくわね」
「ところで先生よ、王室が国中の名医を呼び寄せてるって噂耳にしたんだけどな、いったい何が有ったのかねえ?」
「さあね、きっと身分の高い人が病気にでもなったんじゃないかしら?」
「先生は行かないのかい?」
「私は行ってもどうせ信じてもらえないわよ。切ったり貼ったりする医者じゃないからね」
「切ったり貼ったりしねえで治せちまうんだから、名医なんじゃねえですか」
「はい、良いわよ。しばらくは毎日来てね」
「へいへい。俺は餡先生が国一番の名医だと思うんだけどな」
「ウフフ、ありがとね」
【王宮】
「姫様のご容体は?まだ意識が戻られないのか?」
「騎士隊長様。それが、原因がわかりません事にはどうにも手の施しようが有りません」
「もう下がって良い。次の医者を連れて参れ!」
「申し訳ございません」
【猫茶屋】
「ミミさん、ご飯の時間ニャ」
「ミャー(お腹空いたわ、早くちょうだい)」
〈猫達にご飯を運ぶ猫魔〉
「猫魔、保護猫じゃなくて、すっかりスタッフだね」
「保護猫?」
「ここの猫達は、皆んな保護猫だよ。里親さんが見つかったら貰ってもらうの」
「そうにゃのか、皆んな里親が見つかると良いニャ、って!ミミさんもか?!」
「ミミちゃんは気難しいからどうかな?このままここに居る気がする」
「ホッ….」
「猫魔、今ホッとしたでしょ?」
「そういうところは、突っ込むニャ!」
【療養所】
〈数日後〉
「光君、杵さんの火傷のところにヒーリングして」
「了解した」
「おいおい、光で大丈夫か?」
「大丈夫よ、私が伝授したんだもの。やればやるほどパワーアップするから、ほら、自信持ってやりなさい」
〈光の神は杵の腕の湿布を取ってヒーリングを始める〉
「温かくなって来た。餡先生の時と同じだ。光、ちゃんと出来てるぞ」
「跡が残らないで治りそうね」
〈向こうで声がする〉
「越野餡殿はおられるか?!」
「はい。何か?」
「失礼する」
〈騎士達が入って来る〉
「汚い所だ。本当に医者なのか?」
「わっ、何だってんだ?」
「杵さん、もう少しで終わるから動かんでほしいのだが」
〈騎士達の様子を窺う杵。構わず続ける光の神〉
「構わぬ、続けられよ」
「それで、貴方方はいったい…私に何の御用ですか?」
「そのような治療法で治るのか?」
「ええ、もう後3日ほど続ければ綺麗に治りそうですね」
「噂に聞いて参ったのだが、これが本当なら…うーん、すぐに城へ来て頂きたい」
「お城ですか?ああ、国中から医者達が集まってると噂で聞きましたけど、私はそういう医者とは違いますよ」
「構わぬ。藁にもすがる思いなのだ」
「(何か、よほどの事情が有りそうね)そうですね、私でお力になれるなら」
「有り難い!すぐに出られるか?」
「ええ…」
〈杵の施術が終わったのを確かめて〉
「構いませんよ。ちょっと待って」
〈目を閉じて霊視をする〉
「(これは…)光君も支度をして頂戴」
「その者も連れて行くのか?」
「彼の力が必要です」
「わかった、良いだろう」
「もう一人」
「まだ居るのか?」
「私の自由にやらせて頂けないのなら、お断りしますわ」
「わかった、もう一人でも二人目でも連れて行け」
【猫茶屋】
「七都ちゃん、猫まんまちゃん居る?」
「居るよ、ちょっと待ってて。猫魔!」
「はいニャ!」
「餡先生が用事が有るって」
「今行くニャ」
〈饅頭を食べながら猫魔が来る〉
「すっかりここの子になったわね。ごめんね、うちに置いてあげられなくて」
「気にしにゃくて良いニャ。俺はここが気に入ってるニャ」
「七都ちゃん、猫まんまちゃん借りるわね」
「だから、俺は猫まんまじゃにゃいニャ」
「もう一人の連れというのはどこに居る?」
「この子よ」
「うぬ!おのれ物の怪!」
〈剣を抜く〉
「私の仲間に剣を向けないで!」
「仲間が聞いて呆れるわ。物の怪ではないか!」
「嫌なら良いのよ。お城には行きませんから」
「剣を納めろ!越野殿の機嫌を損ねてはいかん」
「はっ」
「失礼致した。お急ぎください」
「にゃはは、仲間か。にゃんだか良い響きにゃニャ」
「そうよ、大切な仲間」
「でも家には置いてくれにゃいのニャ」
「ごめんね、光君と二人っ切りになりたくて」
「え?」
「冗談よ。お部屋が無いの」
「良いニャ、良いニャ。ちょっと言ってみただけニャ。猫茶屋は楽しいニャ。皆んな家族みたいなのニャ」
「良かったわね」
【宮中】
〈ウロウロと歩き回り落ち着かない侍従長〉
「女、女官長、姫様のご様態は?」
「侍従長様、少し落ち着いてください。そうウロウロと歩かれては、姫様が」
「これが落ち着いていられますか!ああ、フィナンシェ姫様…」
「私にも原因が掴めません。これではどのような治療をすれば良いのやら」
「もう良いです。下がりなさい」
「はい、申し訳ございません」
「騎士達はまだ戻らないのですかね?いったい何をモタモタしているのでしょう」
「侍従長様、ハポネ村の医者と仰いましたけど、信用出来るのでしょうか?」
「医者ではないようですが、腕は確かだという事ですよ」
「医者ではないですって?」
「ヒーラーだそうですが、今はそんな事はどうでも良いでしょう。とにかく姫様が助かりさえすればその者の身分など」
【城門前】
「うわーお城ニャ」
「そこの物の怪、宮中では粗相の無いようにな」
「物の怪、物の怪って、俺にだってちゃんと名前が有るニャ」
「そんな物には興味無い」
【宮中】
「侍従長様、騎士達が戻りました」
「そうですか。それで、医者は連れて来ましたか?」
「はい」
「すぐに通しなさい」
「承知致しました」
【廊下】
〈ふと立ち止まり目を閉じる餡〉
「(苦しいのでしょう?)」
「何をしている、早く歩け」
「国王陛下」
「陛下が何だと?」
「痛みを堪えていらっしゃるようです」
「陛下でしたら、先程医師が処方した薬を飲まれて眠っていらっしゃるはずですよ」
「待って(痛いのですね?苦しいのですか?)」
「ええい、早く来い!」
〈一人の騎士が餡の腕を掴む〉
「痛っ」
「おやめなさい。この国の騎士は、ご婦人に乱暴なのですね」
「貴様、平民の分際で生意気な!」
〈腰の剣に手をかける騎士〉
「光君」
「やめないか!この者の言う通りだぞ。失礼致した。こちらが姫様の部屋だ。入られよ」
【フィナンシェ姫の部屋】
〈ベッドに横たわるフィナンシェ姫の意識は無い〉
「どうだ。助けられそうか?いや、どんなにしても助けてもらわねばならぬ」
「やっぱりだわ。物の怪に憑かれてる」
「物の怪だと?」
「光君、お香を焚くわよ」
「了解した」
「フン、そんな物が何になるんだ?」
「浄霊には物の怪の嫌がる香りを使うんです」
「どうも信用出来んな」
「じゃあ、やめましょうか?」
「いや、続けてくれ。お前は余計な事を言って餡殿の機嫌を損ねるな」
「も、申し訳有りません」
「これで良いわ。しばらく待ちましょう…貴方」
〈騎士にぐっと近づく餡〉
「指揮官さん?」
「そ、そうだが?」
「私、国王陛下のお部屋に行きたいの」
「国王陛下の?何故だ?」
「痛みで苦しんでいらっしゃるから」
「何故そのような事がわかる?」
「霊視したんです」
「しかし、陛下は眠っておられると…うーん…良いだろう。付いて来るが良い」
「うん?お前は確か…」
〈じっと光の神の顔を見る指揮官〉
「思い出したぞ。ヴェネツィーの降臨祭の日の、剣術大会の優勝者」
「光君は、フィナンシェ姫をお願い。私は国王陛下の所へ行って来るわ」
「了解した」
「この者に任せておいて良いのか?」
「貴方も見たでしょう?療養所で、彼が火傷の患者にヒーリングしてたの」
「だが、あんな物はまやかしだろう」
「指揮官さん、この人何とかならないかしら?」
「お前は、余計な口を挟むなと、何度言ったらわかるのだ」
「はあ、申し訳有りません」
「さあ、行きましょう。国王陛下が苦しんでいらっしゃるわ」
【国王の部屋】
「うっ…ううっ…」
「ああ、陛下。どうして差し上げれば宜しいのでしょう?」
「目を覚まされたのか?」
「騎士隊長様。いいえ、痛みでお休みになれないのです」
「医者が処方した薬で眠っておられたのではないのか?」
「もう、どんなに強い薬も効きません」
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