第81話 DDRパフォーマンス大会 その10

「お待たせしました、それでは結果発表です!」


動のパフォーマンスに対して静のパフォーマンスを披露したウィズ、不動プレイとはまた違ったその評価の結果は・・・


「ただ今の得点・・・9点、8点、10点、7点、7点! 合計41点!こ・・・これはまさに見事!」


ミスターMの44点には及ばなかったが暫定2位の位置に付いた評価。

惜しみない拍手は既にこの場に居ないウィズ選手へ向かって贈られる。

場の賑わいは決して落ち着く事無く受付嬢が次の選手の名前を読み上げる!


「続きまして・・・おおっと!ここで遂にこの人の出番だ!今回このイベントを開催する理由となったあの人・・・」


その言葉で数名は誰か気付いた。

理解した人の視線に誘導されるように周囲の人間の視線もそこへ注がれる。


「魔族の3柱の一人にして魔王の名を受け継ぐこの人・・・魔王サタンさんです!」


歓声が一気に沸き上がる!

魔族との戦争で人間に協力したという事もありサタンの名は誰もが知るものとなっていた。

一見すると人間にしか見えない外見ではあるが普通の人間とは次元そのものが違う魔力を保持する強者である。

だがロクドーの生み出した音ゲーをプレイしている人々にとっては少し自分達よりも強い人物と言う認識でしかなかった。

それも仕方ないだろう、いくら魔王サタンといえどもロクドーと比較すれば桁そのものが違いすぎるのだから・・・


「遂に私の出番か!」


空を黒いマントが風に飛ばされたように移動し、筐体の横に落下すると共にマントの中から実体が現れた。

青紫のスーツに身を包んだその姿はこれから女性をエスコートして踊りだしそうな雰囲気をかもし出す。

そのまま一歩前に出て観客席の最前列に小さな椅子を何処からとも無く用意した。


「すまない、この場所を我が妻であるシレーヌに使わせてもらう」


最前列に居た人物にそう断りを入れてサタンは頭を下げる。

オールバックに固められた頭部をたかが人間に向けると言うこと自体が異様、審査員席の魔獣王ライオルも驚きに包まれる。

そうしている間に観客の間を抜けてマイン達がシレーヌの手を引いて前に出てきた。


「ようそこシレーヌ、今日は私のパフォーマンスを君に送らせて貰うよ」

「えっ・・・いや、でも・・・」


意味が全く理解できないシレーヌは困惑しながらも娘達によって最前列の座席に座らされる。

そして、サタンは筐体に足を運んだ。

ゲームをスタートし曲をその曲に合わせて振り向く。

一度頷きロクドーに合図を送りロクドーが立ち上がって観客に説明を始める。


「皆さん、この曲名である『LOVE』とは違う世界の『愛』を意味する言葉です。彼がそれを奥さんであるシレーヌさんへ送る為に磨き上げたパフォーマンス!是非御堪能下さいませ!」


その言葉と共にサタンは決定ボタンを押して曲がスタートした!


LOVE

女性ボーカルのゆったりとした曲調のリンクバージョンで追加された新曲。

BPMは129と遅めで曲名でもある『LOVE』を数回歌うポイントが印象的な良曲♪

sonic dreamの歌うこの曲、実はMANIAC譜面よりもDAMDDRのANOTHERの方が難しいと言うのを知っている人は少ないだろう。

何故ならば・・・音に合っていないからであゲフンゲフン



軽やかなテンポに合わせて音楽が流れ始めサタンはバーに体を預けて誰かを待つような姿勢を作る。

そして、何かに気付いたかのように慌てて胸ポケットからハンカチを取り出し何かを拾い上げるような仕草をする・・・


「あっ・・・」


その動作を見てシレーヌの口から声が漏れる。

続いてサタンが何かを差し出そうとして少し悲しそうな表情でそれをハンカチで包んで胸ポッケに仕舞う。

自然と動きに合わせたかのように上がってきた矢印はサタンの動きに合わせて消えていく・・・


その後も少し異様なサタンの1人芝居は続き・・・それはやって来た!

マイクを持ったロクドーが立ち上がり声を上げる!


「皆さん御一緒に!L!O!V!E!ラーブ!」


突然のロクドーの言動に驚く面々。

それに合わせてサタンが腕文字でLOVEを描く!

曲を知っているプレイヤー達はそれが何を意味するのか直ぐに理解した。

後数回、同じポイントが在る事と共に・・・


「うそっ・・・覚えていて・・・くれたの・・・」


そんな中、サタンの1人芝居を見て両手で口元を挟み込むように覆って驚くシレーヌ。

そう、サタンが演じているのはシレーヌとの思い出のワンシーンなのだ。

その後も二人だけが知っている二人だけの寸劇が続けられる。

驚く事に知らない者が見てもその動きはダンスのワンシーンに見え、矢印がまるでその動きに合わせて上がってくるように感じられた。

そして・・・


「皆さん御一緒に!」

「「「「「「L!」」」」」」

「「「「「「O!」」」」」」

「「「「「「V!」」」」」」

「「「「「「E!」」」」」」

「「「「「「ラーブ!!!」」」」」」


サタンの腕の動きがゲーム画面に表示されている4文字を表しているのを理解した人々はそれを真似て動く!

ダンスが進み、理解した人達が身を乗り出して最後のボイスに合わせた!!


「皆さん御一緒に!」

「「「「「「「「「L!」」」」」」」」」

「「「「「「「「「O!」」」」」」」」」

「「「「「「「「「V!」」」」」」」」」

「「「「「「「「「E!」」」」」」」」」

「「「「「「「「「ラーブ!!!」」」」」」」」」


最後の一歩を踏み終えた流れでそのままサタンは自然な動作でシレーヌの前に方膝を着いて手にしたそれを開いた。

小さな箱、開かれたそこに在ったのは見事な輝く宝石のついた指輪であった。


「ワシは一時たりともお前の事を忘れたくはない、だからこれからもずっと共に歩んでくれ」

「っ?!!!」


それはサタンが過去に一度だけシレーヌに告げたプロポーズの時の言葉。

それを再び本心だと伝える為にシレーヌに伝えたのだ。

今までの踊りもそう、シレーヌとの出会いから今日までの二人の想い出に残るワンシーンを全て再現していたのだ。

ペンダントの片割れを見ればもう片方の形状が予想出来る様に、シレーヌの目にはサタンのパフォーマンスの中には自分が映っていたのだ。


「はいっ・・・ずっと側に居ますから一生守って下さいね・・・っ?!」


そこまで昔の返事をそのまま伝えてシレーヌは思い出す。

サタンのプロポーズに対して自ら側に居ると宣言したのにも関わらず疑って疑心暗鬼になっていた事を・・・

だがそんなシレーヌの手を取ってサタンは指輪を通す。

そして、告げる・・・


「何があっても俺はお前を信じて愛している、だから何も心配しなくても良いんだ」

「あなた・・・」


涙を流しながらサタンに抱き付くシレーヌ。

それを優しく抱き返すサタン。

場の盛り上がりは最高潮であった。

拍手と歓声で割れんばかりの歓声が響き審査員達も惜しみない拍手を送っていた。

そんな中、誰にも気付かれない事が一つ・・・

ゲーム画面に表示されているフルコンボを表す『SS』のクリアランクだけが寂しく輝いているのであった・・・

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