第80話 DDRパフォーマンス大会 その9

静まり返る会場・・・

先程とは真逆のその光景だが誰一人声を上げる者は居ない。

マス・・・ミスターMがパフォーマンスで完成させた5つのカクテルを手にした審査員の感想を待っているのだ。


「一つだけ言わせて貰う、これはDDRのパフォーマンスの審査だ。これを飲んだところで君の評価は変化しないがそれでも?」

「・・・」


コンマイ国王の言葉に礼をしながら頷くマス・・・ミスターM。

それを見て他の審査員達も手にしたカクテルを口元へ移動させる。


ごくり・・・


それは観客達の生唾を飲み込む音であった。

ミスターMが用意した5つのカクテルはこのイベントで即興で作られた全く新しいカクテル。

ミスターMの招待を知る人々はその価値を理解していた。

あの音ゲーが並ぶバーのメニュー欄に記載された『マスターのお勧め』というカクテルが正に今並んでいるのだ。

しかも注文したとしても何が出てくるのかは誰にも分からないそのカクテル、初めて目にした物もあるのだ。


「ふむ・・・これは深いな・・・」


帝国皇帝が口にした・・・

それを皮切りに他の物もそれぞれの感想を述べる。

美味いとは誰一人として言わない、だがその表情は決して不満がある様子ではない。

むしろ誰も味わった事のない全く新しい世界を垣間見た様子であったのだ。


「そ・・・それではそろそろ皆さん得点を宜しくお願いします」


受付嬢が恐る恐る声を掛ける。

それも仕方ないだろう、各国のTOPが満喫している瞬間を邪魔するのだ。

だがこのままでは時間が押してしまう、止むを得ないのである。

渋々と言った感じではあるが、誰もがそれを理解しているのかグラスを置いて紙に得点を記載していく・・・


「お待たせしました、ただ今の得点は・・・えぇっ!?」


受付嬢が驚きで声を上げる、だがそこはプロ根性で直ぐに軌道修正し発表を続けた。


「ただ今の得点・・・9点、10点、8点、9点、8点! 合計44点!み・・・見事暫定1位獲得です!」


割れんばかりの拍手と歓声が一気に押し寄せた!

文句のつけようが無い見事なパフォーマンス、僅かに満点に及ばなかったのはスコアと足の動きが少なかったからである。

だがそれでもTOPに躍り出たのは間違いなかった。


「ありがとうございました!それでは続きまして・・・ウィズさんどうぞ!」


歓声が落ち着くのを待つ事無くそのまま受付嬢は進めた。

本当であればロクドーの感想を聞きたいところではあったのだが時間が押していたのだ。

そして、歓声が落ち着く頃に1人の青年が筐体の横に震えながら近寄っていった。


「ウィズさん、何か一言ありますか?」

「い・・・いえ・・・別に・・・」

「そ、そうですか・・・それでは早速どうぞ!」


正直誰もがミスターMのパフォーマンスを見た事で期待は一切していなかった。

例えウィズと名乗る普段芸戦で余り見かけない青年がメモリーカードを刺しても冷め始めていた。

今回のイベントもマス・・・ミスターMの1人勝ちだろうと考えていたからだ。

しかし、誰もが予想もしていなかった・・・

これから始まるウィズのパフォーマンス内容に!


「えっと・・・どうぞ始めて下さい」


そう受付嬢が告げる、だがそれは仕方ないだろう、ウィズは筐体の横に立っていたからだ。

曲は既にセットされており筐体からは『MAKE A JAM!』が流れていた。


MAKE A JAM!

御存知家庭用初代DDRで一番最初に解禁される隠し曲。

最初に流れてくる譜面がコンマイコマンドである↑↑↓↓←→←→だと言うのは余りにも有名な曲・・・

だが曲の速度も控えめで譜面的にもコレと言った特徴が無い曲である。


誰もがえっ?あれで何をやるの?と言いたそうな顔をしていた。

それでも今まで良い意味で期待を裏切られる事が続いた観客達は決して見下したりはしなかった。

それが逆に良かった、実は緊張で心臓がバクバク言っているウィズは罵声を掛けられたら逃げ出していたからである。

それでも彼は勇気を出して左手を伸ばして決定ボタンを押した!


「それでは宜しくお願いします!ウィズさんでMAKE A JAM!ですどうぞ!」


軽やかな曲が流れ出し筐体横に立ったウィズは何故か画面ではなく正面を見詰めていた。

その状態から一体何が始まるのか誰もが見守る中、画面に矢印が1つ上がってきた。

『←』である。

ウィズはそれを右足で踏んで筐体に上がった。

続けて左足も筐体の上に上げ踏んで・・・右足を筐体から下ろし元の位置へ戻った。


「・・・はっ?」


一体何をやっているのか理解が出来ない人々は首を傾けて困惑した。

だが再び上がってきた『←』をウィズが踏んだ事で気付いた!


「ま・・・まさか・・・まさかこれは・・・!!!!」


声を上げたのはロクドー、そして気付いた観客も互いに顔を見合わせて頷き合う。

一般人でも国が推奨する健康診断を受けた事のある者は沢山居た。

だからこそ知っているのである!

だがまさかそれをDDRで再現するなどとは一体誰が思っただろうか・・・

そう、ウィズが今目の前で行なっている行為・・・

それは・・・


『踏み台昇降運動』である!


延々と上がっては降りてを繰り返すウィズ・・・

発想、それがどれ程の価値を持っているのかこの場に居る誰もが理解していた。

誰も気付かなかった誰にでも出来るパフォーマンス、それがどれ程凄いかと言うのを理解しているのだ!


「お・・・おぉ・・・おおおおおおおおおお!!!!!」


最初に歓声を上げたのはコンマイ国王である、国を挙げて国民の健康を考えて推奨していたそれをDDRで再現した事を高く評価したのだ!

そして、きっかり1分間上がり降りを繰り返したウィズは反転しパネルの上に座って・・・

自らの左手首に右手の親指を添えた!


「み・・・脈計ってる?!」


一斉に大爆笑が会場を包み込んだ!

ミスターMが動く事で観客を魅了したのに対し、ウィズは動かない事で観客を魅了したと言っても過言ではない!

踏み台昇降運動を行なった後には必ず脈拍測定が付き物なのだ!

そして、そのまま左手首を押さえたまま曲が終了しリザルトが画面に表示される・・・

だがそれを見向きもせずにウィズはそのまま立ち上がって歩いて去っていく・・・

耳まで真っ赤に染まった状態だが最後までやり切った彼に再び割れんばかりの拍手が送られた!

余りにも異質、余りにも常識外れ、だがそれすらも有りなのがDDRなのだ!


「ウィズさんでした!ありがとうございましたー!それでは審査員の皆様、得点をどうぞ!」


受付嬢が押している時間を巻き返す為に審査員を煽った。

ロクドーが解説をしようと立ち上がって手を差し出した状態のまま固まっているのに観客達が気付き、再び大爆笑に会場が包まれるのであった・・・

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