第78話 DDRパフォーマンス大会 その7
困惑する審査員達であったが、一人が決定したのを切欠に次々と得点が記載されていく。
そして、集計を受付嬢が回収し発表する。
「ただ今の得点!6点、7点、8点、4点、5点! 合計30点です!」
歓声が上がる中、腕を上げたまま筐体から去っていくズー。
少し寂しそうな感じがするが、元々無口な彼はを知っている人々はその背中に拍手を送る。
「さて、次々行きましょう!続きましては・・・バンガさん!どうぞ前でお越し下さい」
聞き覚えの無い名前が呼ばれ、濃いヒゲが特徴の男が筐体に上がる。
服装からして樵だろうか、斧が似合いそうな雰囲気に会場の視線が集まる。
「バンガさんですね、何か一言ありますか?」
「自分はこのゲームを余りプレイした事が無いが出来る限り頑張る!」
「はい、ありがとうございました!それでは曲が決まりましたら始めちゃって下さい!」
バンガが選曲したのは初代の『ハブユーネバービーンメロン』であった。
初代DDRプレイヤーの誰もが最初に選んだであろうこの曲をバンガは選んだのだ。
先程までのハイレベルなパフォーマンスが続いていた事もあって観客のテンションが一気に下がってしまうのが見て取れた。
しかし、そんな周りの雰囲気を気にもせずにバンガは踏み始めたのだ!
「おおっとバンガ選手どうやらあまりDDRプレイ経験はないようだ~」
司会の娘がマイクで告げる内容、バンガのプレイを暖かい目で見つめる観客達。
結構ガッチリした男性がこうやって真面目にDDRをプレイしている姿というのも悪く無い物である。
しかし、この時・・・誰一人として彼のパフォーマンスにロクドー以外気付く者は居なかった。
「おっと今度はBOO!バンガ選手クリアなるでしょうか?!」
野次が飛んできそうな内容であるがバンガは真剣な表情で一歩一歩上がってくる矢印を踏みつける!
そして、ゲージが僅かに残った状態で見事にクリア!
誰もが最初はこうだったとばかりに暖かい拍手が送られるのだが、ロクドーがバンガの元へ駆け寄り拍手を送る!
「お見事!ブラボー!」
一体ロクドーが何を言っているのか分からない周囲の人達であるがロクドーが指射した画面を見て驚いた。
そう、バンガは全ての譜面をGOOD以下の判定のみでクリアしたのだ!
クリア画面のリザルトに表示された得点は何と0点!
俗に言われるロースコアアタックを本番で成功させたのである!
※当時のDDRではGOOD判定は得点が入らない代わりにゲージ回復も無い。
「・・・ま、マジか?!」
「・・・すげぇ・・・すげぇぜあんた!!」
「うぉおおおおお!!凄いものを見たぁあああ!!!」
一定数以上ミスが続けばスタート時の少ないゲージなんて直ぐになくなってしまう。
それを理解しているからこそ観客は驚きに包まれていた!
いくら一番簡単な曲だとは言え、それを実戦で成し遂げた事への賞賛は凄かった!
「お見事でした!そして審査員の方々もどうやら得点を書き直している様子、おっと集計が終わったようです!」
誰にも気付かれずそれを成し遂げたバンガに更に大きな拍手が送られ少し照れているバンガ。
そして、読み上げられる得点は・・・
「発表します!ただ今の得点!7点、5点、5点、8点、4点! 合計29点です!」
沸き上がる歓声!先程までの空気は一転し彼を称える拍手で満ちていた!
しかし、それを遮り司会の娘は大きな声で発する!
「それでは続きまして!エルーフの二人組みよろしくお願いします!」
エルーフ、その発生に誰もが耳を奪われた。
それはそうだろう、エルフであれば普通にそう呼べば良いのである。
だが登録名にその名を書いたという事は・・・
「ようやくうちらの出番やねんな!よし行くで」
「おうさ」
とても大きな金属の物体を担いだ二人組みが筐体の上に上がる。
その容姿を見て名前の由来に誰もが気付いた。
そう、エルフとドワーフの二人組みだからエルーフなのである。
「お二人でエルーフなのですか?」
「そうや!私はシビア、こっちはドワーフのブインや」
「今日はワシ等の開発したこれを使ってパフォーマンスするから期待してくれよ!」
ブインの言葉に沸き上がる歓声!
観客の声が最後まで持つのか心配になるほどの歓声、そんな中二人は準備をしていく。
金属で出来た巨大な道具を二人掛かりで担いで筐体の1P側に二人共が立って準備が完了した。
「す、すまんけど曲選んで決定してくれんか?レベルはこのままでええから。それとこれ持って見せてて欲しいんや」
「あっはい分かりました」
エルーフの二人が指示したとおりに司会の娘が選曲を完了し決定ボタンを押す!
曲はリンクバージョンからの新曲『El Ritmo Tropical』
そして、曲がスタートしてロクドーすらも驚きに包まれる!
「ブバァババパパー!ブバァバパパパー!パパパパーパパーパパーパパー!」
荒い、確かに非常に荒いが二人が担いでいるそれから聞こえたその音。
それは間違い無く現在DDRから流れているEl Ritmo Tropicalと同じ音であった。
「そ・・・そんな・・・嘘だろ・・・まさかトロンボーンを自作したっていうのか?!」
トロンボーンとは金管楽器の一種で大きなトランペットと言う事からその名が付いている楽器である。
見た目はロクドーの知る楽器とは全く似ても似つかないが、そこから聞こえる音は間違い無くトロンボーンそのものであった。
ただ楽器としての完成度は非常に低く口から息を吹いて演奏する物ではなく、アコーディオンの様に動かす事で空気を出し入れして鳴らす為に音が大雑把であった。
だが、この世界に存在しない楽器をこの短期間で試行錯誤して作り上げた事は凄まじい限りであった。
そして、演奏しながらもシビアとブインの二人で4つのパネルを処理してクリアを目指していた。
この場の誰にも知られていなかったのだが、司会の娘に持たせている板には楽譜ではなくDDRの矢印がカンニングの為に描かれていた・・・
先程までの歓声が静まり返り、DDRからではなく人の手で流れる音楽に誰もが耳を傾ける中、無事に最後まで二人は踏み切りクリアするのであった・・・
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