第77話 DDRパフォーマンス大会 その6
「「「「「わぁあああああああああああああ!!!!」」」」」
割れんばかりに会場は拍手と歓声に包まれていた。
誰も知らない帝国のポポロという人物の底力をマジマジと見せ付けられたのだ。
更に噂でしか聞いた事の無かったロクドーの実力も披露されて会場は大いに持ち上がり捲くっていた!
「それでは審査員の皆様!得点をどうぞ!」
司会の女性がロクドーから預かったマイクで高らかに宣言する。
その言葉で審査員達も慌てて思案を始めた。
しかし、その手が中々動く事は無かった・・・
それも仕方ないだろう、パフォーマンスとして見ればとんでもない物を見たのは確かである・・・
だが実際にやった事といえば後ろのバーを掴んだまま交互に左右を踏んだだけなのだ。
その様子を見ていたロクドーは肩で息をしながら隣のポポロを見詰める・・・
(あの踏み方・・・やはり転生者か・・・)
爪先でリズム良く踏むのは誰でも出来るが、踵を使ってリズム良く踏むと言うのは慣れが必要である。
ベタ踏みと呼ばれる極力足を動かす範囲を小さくする踏み方が主流となるのはもっと後の作品である。
しかもそれを後ろのバーを掴んだまま行なうと言うのが何よりの証拠であった。
「ん?どうした?」
「いや、あんたとはまた勝負したいと思ってな」
「ははっ光栄なことだ」
そんな何気ない会話を行なっている間に採点が完了したようで、それが読み上げられる!
「お待たせしました!ただ今の得点!9点、9点、4点、7点、8点! 合計37点!暫定2位です!」
惜しくも2位になった理由は簡単であった。
帝国の皇帝が自国のポポロが敗北した事に低評価を入れたからであった。
しかし、それはポポロの優勝を自ら逃すこととなった事に彼はまだ気付いていない・・・
「さぁ!続きまして・・・おおっと!ズー選手だぁああ!!」
ヌッと観客の中から立ち上がったズー、その横にはお腹の大きくなったナーヤ。
まさか妊婦に踏ませるのかと誰もが固唾を飲みながら見守っていると・・・
「ほらっここにこうやって刺すのよ」
「あぁ、すまないな・・・」
どうやらズーはメモリーカードのEDITの使い方がイマイチ分かっていない様で、補助に出てきたナーヤに観客は一安心。
ズーがカーソルを合わせた曲は可愛い悪魔の異名を持つ『Little Bitch』であった!
それを見た司会の女性は決定される前に近付いてマイクを向ける。
「初代からの猛者として有名なズーさん、今日はどういったパフォーマンスを見せていただけるのですか?」
「俺は魅せるパフォーマンスは出来ない、だからこんな物を用意してみたんだ」
「あっ・・・」
「ぬっ?・・・解せぬ・・・」
そう告げるズーはナーヤが刺したメモリーカードを抜いて掲げる。
勿論、EDITデータは抜かれた段階で解除されて曲の上に表示されていたマークが消える。
呆れた顔でナーヤが戻ってきてメモリーカードを回収して刺し直し事なきを得た。
DDR2ndでは選曲画面でもメモリーカード読み込みが出来るのが幸いした瞬間であった。
「そ、それではどうぞ始めて下さい!」
「おぅっ!」
簡単なコントを見せられた困惑した観客であったがズーが曲をスタートして画面を見て驚いた!
筐体の上に居るのはズー1人、だが矢印は8つ在るのだ。
しかも中央が離れている、つまりダブルではなくカップルプレイ!
「まさか、TMPか?」
TMP、Twin Mix Playの略でテンプとも呼ばれる御存知一人で両方の譜面をプレイするスタイル。
同時押しが入ってくると3つ、4つの同時押しが必要になってくるので2枚抜きと言われる片足で2パネルを踏むか手を使う必要があるプレイスタイル。
「いや、まてなんだあれは?!」
「うげぇっ?!」
見ていた観客達が驚くのも無理は無い、Little BitchはBPM158とそれなりに速い曲である。
その曲が始まって1P側の下から上がってきたのは16分リズムで同時押しで埋め尽くされた矢印の塊であったのだ。
勿論そんなものを普通に踏めるわけは無い、誰もが一体それをどうやって踏むのかとズーへと視線を移したら・・・
「うっし!」
まるでこれから頑張るぞっと言う感じでその矢印の塊をスルーするズーの姿。
全く意味の分からない光景に唖然とする一同。
そして、ワンツーのボイスと共に通過していく矢印の塊・・・
一瞬にして1P側のゲージは0にまで振り切れた。
そして、塊の後から8分で繋がった矢印が上がってきた・・・
「えっと・・・」
司会の女性が困惑する中、普通にズーは踏み始めたのだがそれと時を同じくして2P側に矢印の塊が上がってきたのだ。
まさに壁!隙間無く埋め尽くされた矢印の塊は一気に2P側のゲージも抹消した。
これでゲームオーバーだ。
誰もがそう考えたのだが・・・
「あれっ?閉店しない?」
誰かがそう口にして誰もがその異様な光景に気付く。
ゲージが共に0になれば即ゲームが終了するのがDDRのルールである。
だがしかし、ズーは何事も無かったかのように普通に踏んでいるのだ。
そして、そのまま1Pから2P側へ交互に踏みながら移動すると今度は1P側に矢印の塊が上がってきた!
「なんで・・・なんで終わらないの?!」
司会の女性が声を上げるのも無理は無い、しかし目の前で起こっている事は事実である。
誰もがズーが1P側と2P側を交互に踏みながら移動している光景に困惑したままその見事なプレイを見守る。
そう、ダブルプレイとは違い1人カップルプレイでは画面の矢印の中央が離れている、それを見ながらプレイするとなると自然とパネルを踏み外してしまうものなのだ。
だがズーは問題が無いと言った感じで交互に延々と踏み続ける・・・
「上手い事作ったもんだなぁ~」
そう口に出したロクドーの言葉に誰もが目を向けた。
明らかに死んでいる筈なのに死んでいない理由、ロクドーが小さく笑いながら司会の女性のマイクを受け取る。
この短時間で呼吸を整えた事にも驚きなのだが、今は目の前の現象の理由が知りたい彼女は口に出さない。
そうしている間にズーが1Pと2Pを行き来し続けながら曲は遂にラストへと突入していた。
そして、フィニッシュ!『ワン、ツー!』
誰もが困惑している中、拳を上げたズーにナーヤが拍手を送る。
それに気付いた周囲の人も徐々に拍手を送り出した!
「うぉおおお!!なんか分からんが凄いぞー!!」
「一体どういうことなのー?!」
次々と声が上がる中、ロクドーが説明を開始した!
「お見事でした!今のパフォーマンスを解説させて頂きます!今のパフォーマンスは1ミスも許されないフルコン必須のEDITプレイでした!」
「・・・ま・・・まさか・・・」
「そう、今の塊でゲージは必ず0にまで持っていかれる、ですがカップルプレイに限っては0になっても一定数譜面を踏めばゲージが再び回復するのです!」
それは実際にカップルプレイを行なって死んだ事がある人しか知らない事実。
つまり今のパフォーマンスはダブル譜面を1ミスもする事無く踏む事でゲージを僅かにだけ回復させて生き残る事が出来るEDITプレイだったのである。
それを知った観客達は一斉に拍手を上げた!
今目の前でズーが踏んだ譜面は明らかにかなり複雑な踏み方を要求する配置だったのだ。
考え尽くされた捻りと踏み換えを駆使した配置を1ミスする事無く踏み切った実力に惜しみない拍手が送られた!
「お見事でした!それでは審査員の皆さん、採点をお願いします!」
高らかに宣言された言葉であるが、再び審査員の面々は採点の得点に悩むのであった・・・
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