第76話 DDRパフォーマンス大会 その5
「ま、待て!待ってくれ!後生だ!もう一度!もう一度チャンスを!」
「残念ですが、パフォーマンスは一発勝負なのです・・・それでは皆さん得点をどうぞ!」
強面に詰め寄られるロクドーであるが、全く気にした様子もなく各国の審査員に採点を促す。
そして、発表された得点は・・・
「ををっとこれはぁー!!!左から 5点、6点、5点、4点、7点! 合計27点!」
ワァァーーーッと歓声が上がり盛り上がるが現時点では最下位の得点である。
ガックリと脱力するギルドマスターと門下生であるがロクドーが続けて宣言した!
「イベントの最後に俺は彼等のパフォーマンスを最後まで是非見たいと思う!だからその時間を設けるので期待していてくれ!」
それはロクドー也の心遣いであった。
EDITを用いて作られたパフォーマンスを純粋に最後まで見たいと言うのもあるが、時間を掛けて作った彼等への気配りであったのだ。
「さぁ、最後を締めくくる素晴らしい演舞に期待してますよ」
「あぁ・・・ロクドー殿・・・感謝いたします」
門下生一同もギルドマスターと共に頭を下げ感謝を示す。
その姿に肉体だけでなく心まで鍛えられるのだと理解し後に入門する者が増えたのは言うまでもないだろう・・・
「そ、それでは続きましてエントリーナンバー5番! えっと・・・発狂地団駄マシーンさん?」
本当にこれで良いのかと疑問に思いながら読み上げられた名前、そしてスッと立ち上がって前に出た男が1人・・・
まるで重力がそこだけ存在していないかのような足取りで歩くその姿は何処か不思議な感じが漂っていた。
人間は歩く際に足に交互に体重を掛けるのだが、その重心移動が余りにもスムーズ過ぎて逆に違和感を感じさせるのだ。
歩行法としても踵を僅かに浮かせたまま足先だけを地面に付けて歩いているその踏み方にDDR上級者達は気付いた。
「あいつ・・・かなりの猛者だな・・・」
「あぁ・・・とんでもない逸材のようだ・・・」
そんな会話が小さく行なわれている中、筐体の上に上がったその男はメモリーカードを手にしてロクドーを指射した!
「俺の名はポポロ!帝国から来たのだが、この町最強の音ゲープレイヤーロクドー氏に決闘を申し込みたい!」
大きく放たれたその宣言に場の歓声が割れんばかりに上がった!
音ゲープレイヤーにとって神とも言える存在のロクドー、しかしその実力は一部の者しか知らなかった。
ロクドーの実力を知る一部の強者は口を揃えてこう語る・・・
『あの方は我々を超越している』
そう、全ての音ゲーの殆どの曲で理論値を叩き出すその実力は最早人間とは思えないレベルであった。
それを知ってか知らずか、挑戦状を叩き付けたのだ!
話半分にロクドーの実力を知っている人々が沸くのは仕方ないだろう、噂の神プレイが見れるかもしれないからだ。
「いいでしょう、勝負方法はEDITですか?」
「あぁ、だが内容は至ってシンプルだ」
同じく筐体の上に上がったロクドーと向かい合い言葉を交わす二人。
ポポロから語られた勝負内容を耳にした人々は口を開けたまま固まってしまった・・・
「このEDIT、曲は『PARANOiA MAX ~DIRTY MIX~』で内容は延々と最初から最後まで16分で左右の交互連打だ!」
一体何を言っているのだコイツは・・・誰もがそう考えるのも無理はない・・・
この曲の速度はBPM190、中距離走の陸上選手が走る速度で足を動かすのがこれの8分くらいの速度なのだ。
それの実に2倍の速度で交互に延々と2分近く踏み続ける譜面で勝負だと言っているのだ。
そんなもの・・・できる訳がない!
誰もがそう考えていた。
だが・・・
「分かった!バー持ちは?」
「あぁ、勿論有りだ!」
二人は口元を歪めながらも楽しそうに語り合う。
近くに居た数名は驚きに包まれていた、いつもは死んだ魚の様な目をしたロクドーの目が輝いていたのだ。
「そ、それではどうぞ!始めて下さい!」
1Pにポポロ、2Pにロクドーが立ち、共に後ろのバーに両手を乗せて体重を預け曲がスタートした!
そしていきなりやってくる←と→の繋がった矢印のビーム!
だが全く焦った様子もない二人は最初の第一歩を踏み出した!
「あ・・・ありえない・・・」
「しゅ・・・しゅごぉーい!」
「なんじゃ・・・あれは・・・」
「神だ・・・神はここに居た・・・」
絶句、人は凄すぎるものを見た時に言葉を失う・・・
共にバーを握り足を物凄い速度で交互に動かし続ける二人の男がそこに居た。
BPM190の16分、それは1分間に190回4分のリズムが刻まれる速度の実に4倍!
つまり1秒間に12.6回パネルを踏んでいる計算となる。
実を言うとこれ自体はそれほどとんでもない事ではなかった。
実際に行なってみれば分かるが1秒間に片足で6回~7回踏むと言う行為は頑張れば出来ない事は無いのである。
問題なのはこれをリズムに合わせて速度を維持したまま続けるという事なのである!
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
固唾を呑んで見守る・・・
その言葉通りの光景が広がっていた。
先程まで歓声で掻き消されていた曲だけがその場に流れ二人の余りにも静かな足音が僅かに聞こえる・・・
まるで示し合わせてかのように二人の踏み方は酷似していた。
パネルから足先を外して踵でしばらく踏んだら今度は僅かに踏む位置を後ろにずらして爪先で踏む・・・
そうして極力体力を温存しながらも踏み続ける二人は既に汗だくであった。
だが曲が後半に突入し始める頃には互いに疲労が溜まってきたのか精度が荒れ始めて来た。
コンボが40に到達する前にミスをして何度もコンボが切れ始めたのだ。
DDR2ndに置いてはこのコンボボーナスが非常に大きな役割を果たしている。
即ち、全てパーフェクトで最後の1歩をミスするのとフルコンボで半分がグレート判定なのでは後者の方が得点が高くなるのだ。
その為、二人は極力コンボを繋ごうと意識を集中させているのだが・・・
((くそっ意味の無い16分を踏むのはキツイ・・・))
((せめて・・・せめて・・・倍速が・・・あれば・・・))
必死な状態で思い浮かんだのは二人共同じ内容であった。
特にポポロは気付かない、それは数シリーズ後の追加オプションで現在は知るはずも無い事実だという事に・・・
「ぅぅぅぅうううおおおおおおお!!!」
「ぁぁぁぁあああがああああああ!!!」
先程まで静かだった二人の足音が徐々に大きくなりラストスパートに突入しているのだ見て取れた!
ここまでスコアは一進一退、交互に追い抜き返している状況が続いていたがここに来て僅かにポポロがリードしていたのだ!
理由は先程も述べた通り、MAXコンボがポポロの方が3多かったからである!
(よし!このまま行けば勝てる!)
そう、その時ポポロは油断をしてしまったのだ。
EDITデータをこの国に来て慌てて作ったので本人も自覚していなかったのだ。
ただただ左右交互踏みの16分譜面を作って、コピーしてペーストしただけだったから仕方ないだろう・・・
カーン!
(あっ・・・)
それはパラノイアMAXの最後の音。
その1歩を踏んだ時にポポロの集中力は切れてしまったのだ。
正しく譜面を作った本人だったからこそしてしまった大きなミス。
本来であればそこで譜面は終了する、だがポポロもまた譜面を最終確認する事無く作るだけ作ってそのまま持ってきていたのだ。
だから知らなかった・・・
自分の作ったEDITデータが曲終了後も僅かに続いていた事を・・・
「「「「「ぅ・・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
再起動したように一斉に沸き上がる歓声の濁流がその場を支配した!
僅か2歩、その最後の2歩をポポロはミスってしまったのだ。
直前までリードをし続けていたポポロであったが最後の最後でロクドーが逆転勝利を収めたのであった!
歓声と共にバーに体重を預けながらズルズルと体を滑らしながら座り込む二人。
肩で大きく息をしながらもその表情は共に満足気であった。
「へっ」
「ちっ」
へラッと笑うロクドーと小さく舌打ちしながらも嬉しそうなポポロ。
沸き上がる会場に惜しみない拍手が送られるのであった・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます