第69話 ロクドーサタンの相談に乗る

「ようこそダーリン上がって上がって!」

「あ・・・あぁお邪魔するよマイン」


魔族の町を巡って音ゲーを設置していたロクドーは一通りの町を巡り終わり魔王サタンの自宅へやってきていた。

サタンから直々に魔王城ではなく実家の方へ呼びされた時に魔王城はサタンの職場と言う事を知って驚いたのは言うまでもないだろう。

週休2日の8時間労働がサタンの魔王城でのルールなのであった。

人間界と意外と似た様なホワイトな体系なのに苦笑いを浮かべながら音ゲー設置巡りの最中に話されたのを思い出しながらロクドーはサタン宅へ上がる。


「おっ来たな心の友よ!」

「サタンさん・・・歌が下手になるのでその言葉は止めた方が良いですよ」

「?」


ロクドーが何を言っているのかイマイチ理解できない魔王サタンは首をかしげながらもロクドーの来訪を嬉しそうに迎え入れていた。

そこへ無表情の女性が飲み物をテーブルへ置いて一礼し去っていく。


「お母さん・・・」


魔王サタンの妻である妖鳥シレーヌである。

日常生活では人間に擬態している為に羽は無いので一見普通の女性にしか見えないのであった。

あの戦争以降魔王サタンと共に元の暮らしに戻った二人ではあるがその関係は元通りとは行かなかった。

明るい昔の家庭に戻りたいと願うのは3人の娘だけではなく魔王サタンもなのだが、シレーヌが完全に心を閉ざしていた。

それも仕方あるまい、シレーヌ自身が魔王サタンを疑い3人の娘を捨てて戦争に加担したのだから。

正確には彼女のせいではないのだがシレーヌ自身が魔王サタンの事を信じられなくなっていたのだ。

本当は自分は完全に見限られており3人の娘が居るから魔王サタンは自分に前と同じ様に接しようと演じてくれていると勘違いしていたのだ。


「っでだ、ロクドーよ。お前には感謝してもしたり無いのだが・・・あれなんとかならんかな・・・」

「とりあえず自分の奥さんをあれ呼ばわりは止めた方がいいかもですね・・・」


そう、魔王サタンには心を許せる友と呼べる存在が今まで居なかった。

それは仕方あるまい、3柱と呼ばれる獣王ライオルとベルゼブブだけが肩を並べる存在であったが互いに心を許せる関係ではなかったのだ。

だからこそ魔王サタンにとってロクドーは種族を超えた親友とも呼べる親しい存在でありたいと思っていたのだ。


「お母さん・・・お父さんの気持ちが信じられないみたいなの・・・」

「本心を伝える方法か・・・」


悲しそうな表情のマインの頭にポンッと手を置いてロクドーは彼女を慰める。

だがロクドー自身も恋しているアリスとの関係がこじれにこじれている為に参考になるような事はとても言えなかった。

エミ、アイ、マイ、マインの4人から言い寄られハーレム主人公状態になりつつあるロクドーではあるが、彼の心は前からアリス一筋なのだ。


「俺に出来る事なんて・・・音ゲーぐらいしか・・・」


そこまで言ってロクドーは離れた場所で寂しそうに遠くを眺めているシレーヌの横顔を見て気付いた。

そう、彼に出来るのは音ゲーだけだ。

ならば音ゲーで彼女を感動させるのはどうだろうか?


「何とか・・・出来るかもしれないと言ったら頑張れますか?」

「わ、ワシに出来る事ならなんでもやるぞ!」


藁にもすがる思いとは良く言った物である。

ロクドーが思い付いたそれを実行する為には一度コンマイ国へ帰って更なるバージョンアップが必要であった。

だが、あれならば・・・世界を沸かせたあれであれば・・・

ロクドーは強く頷きサタンとロクドーの家で特訓をする約束をとりつけるのであった・・・



そうして暫くゆっくりして魔王サタン宅から帰ろうとしたロクドーであったが丁度その時に誰かが帰ってきた!


「ただいまー!」

「ほらセバス早く早く!」

「お、お嬢様方・・・セバスはもう限界ですぞ・・・」


息も耐え耐えになっているのはあのセバスチャン、そしてその両手をアイとマイが引っ張っていた。

そして、その後ろに魔力を使って浮かせて持ち帰って来たそれ・・・

そう、コンマイ国まで行って無事に購入してきたプレステであった。


「お母さん!セバスがプレステ買って来たよ!一緒にやろ!」

「えっ?え・・・えぇ・・・」


イマイチ乗り気ではないシレーヌではあるがそう言われて映像ラクリマの置いてある部屋へと移動する。

その間にマインの影の中に隠されたロクドーはマインに押さえつけられていた。

今、二人の姉にロクドーが来ている事がバレたら抜け駆けしていると勘違いされるので慌てて隠したのだ。


「おっおいマイン呼吸が・・・」

「駄目!少し隠れてて!」


マインの影の中に沈められていたロクドーは慌てて影から抜け出ようとするのだが、その顔面の上にマインは座ってロクドーを隠す。

これには流石のロクドーも慌てて影の中に潜るしかなかった。

そのまま顔を出してればマインのお尻がラッキースケベになってしまうからだ。


「あれ?今誰かの声がしなかった?」

「きっ気のせいでないかな?」

「んー?」


マイが一瞬ロクドーの声に反応してこちらを見たが上手く誤魔化したマインは自分の影の上に座り込んでシレーヌが出してくれたお茶を飲む。

状況を察した魔王サタンも無言でお茶を口にするのだが・・・


「あれ?マインなんで自分のコップで飲んでないの?」


アイのその言葉でマインは自分の手にしていたコップを見て固まる。

それは先程までロクドーが飲んでいたお茶であった。

それに気付いてマインは顔を真っ赤に染める。

そう、思春期のロマン!関節キスである。


「あっあはは・・・お母さんのお茶間違えて飲んじゃった」


そう言いながら恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに口元を歪ませるマインは自分のすぐ真下にロクドーが居る事に幸せを感じるのであった・・・










魔王サタンの自宅から数日掛かりロクドーは自宅へ帰宅していた。

コンマイ国との同盟が決定してから今後は旅の扉が設置されてもっと楽に行き来が出来るようになると言われてはいるがまだ先の話なのが辛かった。

ちなみに魔族には転移魔結晶と言う魔族の領地を自由に魔族のみが行き来できる移動手段があるのでコンマイ国に来る分には魔族は非常に楽である。

これがあるからこそサタンや冥土のメイド達、セバスチャンや3姉妹はコンマイ国に簡単に来る事が出来ていたである。

ちなみにマインの影の中に入れば転移魔結晶で一緒に移動する事も可能ではあるのだがまだ誰もそれを知らないのである。


「ただいまエミ」

「おかえりなさいご主人様」

「なにか変わった事あった?」

「いえ、特に問題は無いのですが・・・あの・・・これはいつ配布なさいますか?」

「あっ?!・・・忘れてた・・・」


エミが手に持っていた小さい灰色のカード。

それは以前のDDRパフォーマンス大会に参加した物に配られていたカードである。

その名を『メモリーカード』といい、実はこれが無いとプレステのゲームデータが保存できないのであった。

本当は発売と同時に本体と一緒に販売する予定だったのだがロクドーが居なかった為に販売がされていなかったのだ。


「まっまぁ明日バージョンアップしに行くから明日から発売しようか」

「分かりました・・・」


少しジト目でロクドーを見つめるエミであるが仕方ないと小さく溜め息を吐いて気持ちを切り替えてロクドーの世話を行なうエミであった・・・












そして、丁度この日コンマイ国から遥か北へ離れた場所に存在するこの世界最大の国民数を誇る帝国に激震が走っていた。

コンマイ国の1人の商人が旅の扉を使って何度も移動をして帝国へ辿り着いていたのだ。

そして、王の所へ献上しに行っていたのはコンマイ国で先日発売されたばかりのプレステであった。


「な・・・なんだこれは?!」

「これが遥か南に存在する辺境の国、コンマイ国で先日開発発売されたプレイファミリーステーション、通称プレステでございます」


王の間に置かれた巨大映像ラクリマに映し出されるDDRの画面に驚きを隠せない面々はコントローラーでプレイする国王のプレイに固まる。

それはそうであろう、音楽に合わせてボタンを操作して遊ぶ魔道具なんて見た事も聞いた事も無いのだから。

しかも流れる曲が帝国であろうがとても再現不可能な程複雑で優雅な曲なのだ。


「して、お前の国にはこれが大型の魔道具で遊べると言うのだな?」

「さようでございます」


頭を下げて答える商人、勿論この商人もコンマイ国で音ゲーをプレイして魔力が異常な程上昇していた。

帝国のトップクラスの魔力を持つ者を軽々と超えたその実力に魔道に詳しい者は恐怖を感じ震えている。


「国王、私に見せたいものがあるとの事でした・・・が?!」


そこへ1人の男がやって来た。

黒髪長身のその男は映像ラクリマに映し出されたそれを見て言葉を失っていた。

そして、その口から小さく一つの単語が漏れる・・・


「ばた・・・ふらい・・・」


誰にも聞こえなかったその言葉に一番驚いていたのは口にした本人であった。

知る筈も無いこの世界にありえないそれを見た彼はとても懐かしい気持ちになっていたのだ。


「ん?どうしたのだポポロよ、何故泣いている?」

「いえ・・・何故でしょうか・・・?」


ポポロと呼ばれたその男、記憶喪失の身でありながら数々の斬新な発想でファッションから軍事にまでその知恵を貸す帝国の秘密兵器と呼ばれる男。

前世が地球の日本で暮らしていたその男は、記憶には残っていないが前世で確実にそれを知っていた。

そして、ポポロはその単語で帝国を出る決意を決める。


「中々面白いものではないかよかろう、このコンマイ国の特産品プレステを用意できるだけ買わせて貰うとしよう」

「コン・・・マイ・・・で・・・DDR?!」


ポポロ、後にロクドーのライバルとなる男であった。

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