第68話 家庭用異世界ゲーム機『プレイファミリーステーション』発売開始!

ロクドーが魔物の町を巡って音ゲーを設置し始めた2日後、ロクドーが居ないコンマイの町に大行列が生まれていた。

いや、正確には2つの列だ。

片方の列はそれほど長くなく老若男女の人々が抽選券と描かれた紙を片手に今か今かと待ち続け、大行列の方は何処までアレを手に入れられるのかドキドキしながら待っていた。


そう、ロクドーがスキルで生み出したアレの発売日であった!

魔族が攻め込んできた事で発売が延期になっていたのだが、その間にガム国の天才魔学者姉妹であるチルコとポルコはアレの大量生産に成功していたのだ!

正確には魔族の科学者が提供してくれた素材と隣国のナコム国から錬金術師が流れ込んできた事でたった2日で予想外の大量生産が出来たのである。

それにより本来抽選券を持っていた者の中から最後の抽選で購入権が与えられる筈だったのが一般購入までも可能となったのである。


そう、家庭用音ゲー専用ゲームマシン・・・

『プレイファミリーステーション』

通称プレステであった!


ちなみに本体とセットでビートDJマニア2ndMIX、DDR1stMIXの2本が手に入る。

本来映像ラクリマが必要なので裕福な人々にしか出回らない筈だったのが魔族との戦争でコンマイ国の経済は異常な程潤っていた。

それはそうだろう、犠牲者0で怪我人は殆どが無償で治療された上に物凄い量の魔石に魔物の素材でかつて無いほど景気が良くなっていた。

更には戦争関連でエルフとドワーフまでもコンマイ国に来てお金を使ってくれたので経済効果はとんでもない事になっていたのだ。

付け加えるのであれば、魔族もコンマイ国と同盟を結んだ翌日から家族で旅行や移住を開始していたのもあった。

人が増えれば仕事も増え、経済は循環し景気はドンドン良くなり続ける。

コンマイ国王と大臣くらいしか気付いていなかったが世界的に見てもこんな異常な国は他にはありえないのだ。


「それでは!これよりプレステの販売を開始いたします!」


行列の先頭に用意された仮説スペースから大きな声が広がった。

声の主は勿論アルバイトのガム国出身メロディーである。

何故か頭にアフロを被っているのだが横に一緒に立っているアルバイトの不機嫌そうな男がDJバトルのアイツの格好をしているから誰も突っ込まない。

実はズーが変装しているのだが誰もそれに気付かなかった。

実は妻であるナーヤと先日の戦争でどちらか稼いだか勝負していたのだが負けたので罰ゲームでアルバイトをする事となっていたのだ。

口が悪く客商売に向かないのだが商品を手渡すだけと言う事と、コスプレのキャラの設定で上から目線で偉そうな態度を取っていれば良いと判断されていたのだ。


販売開始の合図に沸き上がる歓声!

そして、抽選券を持っていた者から先に販売され始めた。

複数人のアルバイトが次々と商品を運んで来ては代金と引き換えにメロディーとズーが手渡していく。

一つ前のバージョンの音ゲー2作ではあるが自宅で練習が出来ると言う魅力の方が非常に大きかった。

しかもビートDJマニアはアペンドディスクが同梱されており店ではプレイできない数曲の新曲が収録されている。

DDRの方にも新曲に加えとびっきりのサプライズが用意されているのだがまだ誰もそれを知らない・・・


「やったぁああああ!!!早速帰って今日は朝までプレイするぞー!」

「俺は今日中にスカをクリアしてやる!」

「新曲が早くやりたいぞー!!!」


驚く程のスピードで次々と手渡されていくプレステに行列は一気に減り始める。

抽選券を持っていた人々は全員手にし既に列を離れているのだがまだまだ無くならない在庫に行列の人々の表情は明るかった。

実は今現在もリアルタイムで製造が続けられており確実に購入希望者全員に渡される事は確定していたのだ。

そして、その行列を町に入ってきたばかりの執事が青ざめた顔で見ていた。

そう、魔王サタンの執事であるセバスチャンである。

今日プレステが発売開始されるという情報はコンマイ国内では広まっていたのだが、それ以外の国では知らされていなかったのだ。

慌てて行列の最後尾に律儀に並ぶセバスチャン。

抽選券を持っているので優先して購入する事が出来るのだが彼は今来たばかりでそれを知らなかったのだ。


「ヤバイですぞ、この行列・・・もし売り切れていたら・・・」


セバスチャン、実は魔王サタンから「確実に入手するように」と指示を受けていた。

妖鳥シレーヌが家に帰ってきたのだが夫婦の会話はすっかり途切れ、擦れ違いの関係が続いていたのだ。

それを打ち解く為に音ゲーを利用しようと考えていた魔王サタンはその指示を出していたのだ。

そして、行列は進みセバスチャンの位置から販売しているカウンターが見えた時にそれは起こった・・・


「すみません、今製造完了している分はこれで終了です!」


その言葉を聞いてセバスチャンはその場に膝を着く。

真っ青だった顔は白いヒゲと同じ色になりヤバイ位ヤバイ汗が滝の様に流れ出す。

だが続けて聞こえたその言葉に表情は一変した。

その顔を見た通り掛かりの人はトイレを我慢していたのが限界を向かえたのだと勘違いするくらいの変化であった。


「現在製造されている分の販売まで10分ほどそのままお待ち下さいませ!」


メロディーのその言葉に行列の人々はセバスチャンほどではないが表情を一変させた。

そうして数時間後には購入希望者全ての者にプレステは手渡され異世界で初めての家庭用ゲーム機が放たれた。

その日の夜には各々の家庭では家族で、友人と、恋人と、何故か偶然進入していた泥棒と一緒にプレイする姿があちこちで目撃されるのであった・・・

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