第67話 魔物の国とコンマイ国を結んだ音ゲー!その名は『PPP』

「許す?!我々を許してくださるのか?!」

「頭をお上げ下さい、我々の側に被害は城壁と怪我人が数名以外は全く無いのですから」


魔獣王ライオルとシレーヌ、そしてその配下の魔物達の大群が一斉に土下座を行いコンマイ国の城壁の中枢に立つコンマイ国王に頭を下げていた。

今回の戦争、終わってみれば人間サイドに死者は皆無だったのだ。

そればかりか、かなりの量の魔物の素材や魔石が手に入っており予期せぬ大収入となっていた。

一方今回の戦争の引き金になったのは間違い無くシレーヌと魔獣王ライオル、そして死んだベルゼブブである。

全責任をベルゼブブに負わせるわけにはいかないと誰もが頭を下げて皆殺しだけは避けようとしていたのだ。

だがコンマイ国王がロクドーの顔をチラリと見てロクドーが頷き返したことから帰ってきたのは「全てを許す」と言う返答であった。


「これもワシ達の友情のお陰だな!」

「サタン様・・・それはどうでしょうか・・・」


何故かロクドーの横に人間サイドに立っているサタンとセバスチャン、冥土のメイド達は3姉妹を何処かへ連れて行っていた。

まるで戦友だな俺達とばかりにロクドーの肩に腕を回して親指を立てているサタン、さすがのロクドーも白い目であった。

あの後、落ち着いてからシレーヌ達を交え今回の戦争の引き金の話を聞きコンマイ国王とロクドーが相談した結果・・・


「さて、我が国の英雄であるロクドーから魔族の皆さんに提案が在ります。我が国と同盟を結びませんか?」

「・・・同盟?!」


それは本来戦争を仕掛けた側の敗戦国からしてみればありえない話であった。

良くて支配下に置かれて搾取される、酷い場合は全員奴隷化というのもありえた。

だからこそ魔獣王ライオルは耳を疑い声を上げた。


「し・・・しかし、我々は・・・」

「ライオルさん、良かったら一緒に音ゲーをプレイしませんか?」

「お・・・音ゲーを?」


ロクドーの提案、それを聞いてライオルは自身の手を見た。

肉球のある爪が出し入れできる前足、何かを握る事は不可能ではないが器用には動かせない関節・・・

そして、足の形・・・

股関節の配置的に複雑な動きが制限されてしまうそれに魔獣王ライオルは困惑した。

ビーマニと弐寺は指が無いのでプレイ不可、DDRも足のサイズ的には可能だがおそらく上手くはできない、ポップンに至っては肉球が逆に邪魔になって同時押しが出来ない、ドラムはスティックが握れなく、ギターはボタンが押せない・・・

そもそもベルゼブブが魔物達を先導した時に発言したのが魔物達は肉体的に音ゲーがプレイできないと言う事であったのを思い出したのだ。


「し、しかし・・・俺の体では・・・」


そう言うライオルを無視するようにロクドーはコンマイ国王の横を素通りして城壁の一番前へ移動した。

そして、下に居る魔者達の前へ飛び降りた。

それに一瞬驚きの目を魔物達は見せるが何事も無かったかのように3メートル程の高さから着地したロクドーに驚く。

人間はひ弱な生き物と考えていた魔物達はそれを見て考えを改めた。

回していた腕からいつの間にかロクドーが抜けていたのにサタンは驚いていたが誰もそこには突っ込まない。

一体ロクドーが何をしようとしているのか注目しているのだ。


「大丈夫ですよ、皆さん誰もがプレイできる音ゲーですから」


ロクドーがそう言って城壁の下に置かれた一段高いステージに上がり手をかざして魔力を練る。

しっかりと休憩した事や町中でプレイされている音ゲーから魔力供給が行なわれ普通に使用できるまで回復していたのだ。

そして、光がそのシルエットを作り上げていく・・・


「スキル『創造具現化』を発動!」


光が徐々に形を固定していきそれは異世界に姿を現した。

八角形のステージに真っ直ぐに立つモニターの付いた本体、DDRSOLOの様な正面から見るタイプのモニターである。

その下には左右と決定のボタンが3つだけ存在しそれ以外のボタンが一切存在しなかった。


「え”っ?」


それは魔物ではなくコンマイ国の人間から出た疑問の声であった。

ロクドーが生み出した物であるから音ゲーである事は間違いない、だが操作方法が全く分からないのだ。

ボタンや叩いたり演奏したりする物は見当たらず足元に踏むパネルも無い、声で歌おうにもマイクが無い・・・

一体これはなんなのだと城門前で見守っていた人々が徐々に近寄り始めていた。

誰も気付かない、好奇心は猫を殺すと言うが本来であればありえない光景がそこに在ったのだ。

そう、人間と魔物がロクドーが出現させた音ゲーを見ながら思考を巡らせているのだ。

それは徐々に人間同士、魔物同士でザワザワと想像した意見を言い合い、気付けば魔物と人間で話し合いが発生していた。


「どう思うよお前?」

「つか俺の前足蹄があるからなぁ~」

「天井になんかあるじゃないか?アレを叩くとか?」

「ワシには届かんよあんなん」


互いが互いを恐れる立場である筈なのにいつの間にか気にもせずに打ち解けていた。

そう、言葉が通じるのであれば心も通じるのだ。

皆が同じ方向を見れば気持ちは何時だって一つに成れる、音ゲーはそれを可能とするのだ!

ロクドーとライオルはその光景に感動していた。

だが何時までもそうしているわけには行かない、ロクドーは見本を見せる為に筐体の八角形の中央まで移動した。


「皆さん、これが魔族の皆さんでもプレイできる全く新しい音ゲー!その名も・・・」


ゴクリ・・・誰かの唾を飲み込む音が聞こえた。

それに合わせたかのようにロクドーがコイン投入口に人差し指を近づける・・・

そして、画面が切り替わった!


「『パーフェクト パラパラ パラダイス』です!」



パーフェクトパラパラパラダイス、通称PPP

その名の通りパラパラと言うユーロビートを踊る事を目的として作られた振り付けのダンスをしてプレイする音ゲーである。

ここでパラパラと言うダンスについて簡単に説明したいと思う。


パラパラとは2ステップと呼ばれる左右移動を下半身で行い上半身を、流し、開き、YOU、と言う3つの振り付けを基本とした動きを行なうダンスである。

前後左右へ大きく動く事がない為にディスコ等で良く踊られていたパラパラはバブル絶頂期に大流行した。

とある説によると、明治学○大学の体育の授業で腕をシンクロさせない体操を覚えさせられるのだが、それをとあるクラブハウスで2年生が踊った事で大受けして周囲に広まったのが発祥と言われている。



「操作は非常に簡単!DDRと同じ様に下から上がってくる譜面の方向に体の一部を動かすだけ!」


そう言ってロクドーは手を前に足を左へ出す。

それで音ゲーがプレイ出来ると言うのだから誰もが耳を疑った。

そう、翳すだけでいいのであれば指が無くても腕が無くても、それこそ肉体さえあればプレイ可能と言うことなのである!

しかもこの後ロクドーによって伝えられた事で人間も魔物も歓声を大きく上げる事となる・・・


「人間向きな正式な振り付けは勿論あってそれを行う事でもプレイできますが・・・それが存在しない曲もあります!」


ロクドーが言う振り付けが存在しない曲と言うのはコンマイオリジナルソングと言われる曲の事である。

ゲーム制作会社が作成した曲なので勿論完全オリジナル、つまり・・・好きに振り付けを行なって良いと言うことであった。


割れんばかりの歓声!

その前で恐る恐る筐体に足を踏み入れプレイを開始する魔獣王ライオル。

ロクドーが生み出したPPPは全部で4台!

見本としてプレイしたロクドー、そして最初のプレイヤーとなった魔獣王ライオル。

それを見終わった後は長蛇の列が出来て音ゲーの順番待ち合戦が始まった。

かつてパラパラブームと呼ばれた時代でもこれ程熱狂された事のなかったパラパラが盛り上がる光景にロクドーは感動する・・・


「ロクドー殿、本当に・・・本当にありがとう・・・」


後ろから声を掛けられ振り向くとそこには感謝の涙を浮かべる魔獣王ライオルの姿が・・・

スッと差し出された肉球、いや握手を握り返しロクドーも笑顔で頷く。

この日、コンマイ国と魔物の国で音ゲー完全同盟が結ばれ、数日後ロクドーは魔物の町を巡って音ゲーを設置していくのであった・・・

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