第66話 SKAの滝
ドラゴンに放たれた中華大キャノン!
それは闇の衣を破壊されたドラゴンに直撃しその体を飲み込んで空へと突き抜けていく!
「GURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
空に響き渡る絶叫!
しかし、ドラゴンを飲み込んだ光は徐々にその輝きを弱めていく!
ガイルはそれを見上げながら叫ぶ!
「まだだ!SKAの滝はもう一波ある!」
SKAの滝、それはラスト6小節で多くのプレイヤーを奈落の底へと沈めた凶悪譜面配置である。
左手で1.3を交互に叩かせながら右手で残りの譜面を捌かせるのが基本となる配置は曲が終了した時の残ったゲージの残量で合否が決定するビートDJマニアにとって鬼門となった。
しかし、逆を言うとこの部分だけ見事に演奏する事が出来ればゲージが0から一気にクリアに届く程の密度を誇っていた!
そして、そのSKAの滝は1度だけではなく2度続けてやってくるのだ!
「GIGGIHIIIIIIII!!!」
自らの体を光の濁流が飲み込んだがその力が弱まってきたのに気付いたドラゴンは防御を捨てた。
先行者から放たれた中華大キャノンはドラゴンの攻撃を防いだバリアを貫いて放たれていたのだ。
だがそれも仕方あるまい、ドラゴンの突撃を防いだバリアもまた先行者が出現させていたのだから。
その攻撃が収まると同時にドラゴンは城壁に激突し削られた体をその場に居た者の命を使って一気に回復させるつもりであった。
だがその目を大きく見開いてそれに驚愕する事となる!
「いっけぇえええええ!!!!」
「「うぉりゃあああああああああああ!!!!」」
第2波!SKAの滝のラストの滝は1回だけではないのである!
再び第二波のSKAの滝によって発生した魔力の濁流が先行者に流れ込み弱まった中華大キャノンが再び巨大な光の濁流となりドラゴンを飲み込む!
「近くの何かに捕まれぇええええええ!!!」
中華大キャノンの余波に周囲に居た人々が吹き飛ばされそうになる!
誰かの叫びに反応して空を見上げながらも城壁にしがみ付く人々。
その状態でも誰もが空を見上げていた。
だからこそ気付かなかった・・・
余りに強大な魔力の波動、それは砲台となっている先行者の体を崩壊させ始めていた。
いち早く気付いたのは近くに居たドワーフのガイルであった!
「させ・・・るかよ・・・」
なんとガイル、崩壊し始めた先行者の体をその身で抱え砲台を両手で掴んだのである!
勿論そんな事をすればその体もただでは済まない、いくら音ゲーで魔力がアップした凄いドワーフとは言え無茶なのだ。
「これだけは・・・俺たちの未来の・・・為に・・・」
余りに強大なエネルギーを放出しているその体と砲台を抑えるガイルは一気に体を蝕まれていく・・・
だがそのお陰もあって中華大キャノンはドラゴンを狙ったまま抑えられたのだ!
しかし・・・
「これでも・・・駄目なのか・・・」
ガイルの絶句する声、その先では全身を崩壊させながらも弱くなり始めるエネルギーを耐え抜いたドラゴンの姿が見え始めていた。
その体はボロボロで完全に崩壊にカウントダウンを行ない、胸の部分からコアとなっている光る石が露出していた。
だが、SKAの滝を見事に耐え切ったのだ。
誰もが自らの最後を悟った、音ゲーを愛する国の民はSKAの滝の恐ろしさを勿論知っていた。
しかし、それと共にそれをしっかりと理解している、SKAの滝の第二波は即ち曲のラストを意味している。
「届かなかった・・・」
「そんな・・・」
「ちくしょう・・・」
後一押し、それが届かないばかりに次の瞬間ドラゴンは自分たちを城壁ごと破壊しコンマイ国に突入する。
そこまで削った体も直ぐに住人の命と引き換えに回復し更に強くなる、つまりそれは世界の終わりの始まりでもあった。
あの速度で突っ込まれれば誰もが反応する事無く吹き飛ばされる、それは魔力が幾らあろうと関係なかった。
どれ程の力持ちであろうが新幹線と激突すれば一瞬で消し飛ぶ、当たり前である。
それほど速度と言うものは強大なエネルギーを持つのだ。
先行者を支えていたガイルは全身に大火傷を負いながら歯を食いしばって涙を流していた。
ここまでやって勝てなかった・・・
その手が焼け付いていなければ砲台を落としていただろう、既に先行者はその体を崩壊させ砲台と抑えている胴体しか残されていなかったのだ。
今からもう一度発射を行なうのは最早不可能、この砲撃が終了する時が自分達が死ぬ時と理解していた。
だが・・・
「まだだーーー!!!!!!」
それはロクドーの叫び!
誰もが音ゲーの画面から視線を外していたから気付かなかった。
だがドラゴンを一切気にせずにDDRに集中していたアイとマイは気を抜いていなかった。
その声に反応してドラゴンから視線を弐寺の画面に移した人々は目を見開いて驚いた。
そこには終わった筈の画面に再び譜面が流れてきていたのだ!!!
「これでラストだぁああああああ!!!!!」
「「いっけぇええええええ!!!!!」」
SKAの滝第3波!
そう、今では幻となっている弐寺の『ska a go go』の初代バージョンにはサブストリームから収録されたANOTHER譜面が存在するのだ。
ただでさえ凶悪なSKAの滝は交互押しの部分が移動しながら演奏させる上に問題のSKAの滝が1回多く演奏されるのだ!
実はこの曲はサントラや家庭用にも収録されておらず家庭用DDRクラブバージョンのみで聞くことが出来る幻の曲となっている。
それが今魔力を再び発生させる!
だが、それを放つ筈の先行者は既に崩壊を初め、支えていたガイルも限界を迎えていた。
「ちく・・・しょう・・・」
流れ込んだ魔力がエネルギーに変換され弱まった光の濁流が再び強くなる!
だがそれを固定する程の力がガイルには残されていなかったのだ。
そう、作用反作用の法則である!
大砲を発射すると反動で砲台は後ろに下がると言うヤツである!
弱まった砲台からの放出が再び強くなった時にそれを固定する事が不可能なのだ。
弱々しく来るであろう衝撃に耐える自身の無いガイルは歯を食いしばって目を閉じた。
命に代えても踏ん張ろうとそれ以外の感覚を捨てたのだ。
しかし・・・
「あれ?」
来る筈の衝撃が来ない、それに疑問を持ち目を開いた。
自分以外に砲台を固定する程の力を持つ者は居ない、誰もがドラゴンの闇の衣を破壊する為に城壁から飛び下へ落ちていったのだ。
周りに居るのはリュリを初めとする非力だが魔力は有る音ゲープレイヤーのみの筈であった。
だからこそ異変に直ぐ気付いたのだが目を開いて驚いた。
「お見事です!後はお任せ下さい!」
「「「「お任せ下さい!」」」」
焼け付いた砲台を抑える人物が目の前に居た。
横から抱え込むように砲台を押さえ踏ん張るその姿、そして自身に訪れる筈の衝撃を包み込む魔力で保護する数名・・・
「あんたら・・・は?」
「私は悪魔で執事です!」
キリッとした表情でそう言いきったその人物、それは魔王サタンと共にコンマイ国に出入りしていた執事のセバスチャンとメイド達であった。
実はサタンが走り回っていたその時、彼等は城壁に運ばれていない音ゲーが設置された店に行って新作音ゲーをずっとプレイしていたのだ。
簡単に言うと、サボっていたのである!
だがそれが幸いした。
この場にもし最初から居たとしたら、サタンと共に城壁から飛んでいたのは間違いない。
何よりセバスチャンからすれば魔獣王ライオルが全く役に立っていないのだからこれで帳消しになると下心もあったりした。
「それではドラゴン!お覚悟!」
その言葉と共に砲台のみとなった先行者から最後の光の濁流がドラゴンのその体を三度飲み込む!
SKAの滝第3波によって生み出された膨大なエネルギーは前の残ったエネルギーと足されて最大のエネルギーとなっていた。
それが一気にドラゴンの体を原子レベルで崩壊させ消し飛ばしていく!
そこには既に声を発する気管すらも既に無くしたドラゴンだったモノしか残っていない!
それすらも瞬時に蒸発するように消えていく・・・
やがて曲が完全に終わり砲台が魔力を放出し終わると共に砕け散った。
空には雲すらも消し飛ばした事で何も残されておらず誰もが空を見上げながら固まっていた。
「やった・・・のか・・・?」
誰もがその一言は死亡フラグだと考え口にしなかったのだが魔獣王ライオルは口にしてしまった。
だがそれをかき消すように響き渡った言葉と歓声が有った!
「YOU ARE PERFECT DANCE MACHINE!」
響き渡ったそのボイスはDDR2ndでフルコンボを達成した時にリザルトで流れるボイス!
そう、アイかマイのどちらかが『ska a go go』をフルコンボしたのだ!
それと共に弐寺のリザルトで流れる歓声が響き渡る!
「我々の勝利のようです!」
高らかと拳を突き上げるセバスチャンの言葉にドッと歓声が沸き上がった!
最後の最後にやってきて良い所だけ奪い去ってドヤ顔で決めるセバスチャン!
だが人が多すぎていつからそこに居たのか分からない誰もが彼を褒め称える!
最後の最後で彼とメイド達が居なければドラゴンに勝てなかったのも事実なのだ。
「おやおや、照れますね」
そう言いながら満更ではないセバスチャンは全てを知るメイド達から白い目を向けられつつもそれを目に捉えていた。
勝利に浮かれる人々、その中で勝利を確信して笑みを浮かべるロクドーとそれに抱き付いて両頬にキスをしているアイとマイの姿を・・・
そして、それに突っ込むように突撃した一つの影・・・
予測していたのかその突撃を正面から受け止めたのはロクドー、そして飛びついたのはマインであった。
「ほっほっほっ3姉妹揃ってですか」
魔王サタンの娘が3人ともロクドーに惚れているのはセバスチャンも知っていた。
だが実際にその目で見なければ信じられなかったのも事実。
そして、それはシレーヌも同じであった。
たった一人、それも人間に自分の言っては何だがかなり好みに偏りのある3人娘が全員同じ人物に惚れたと言うのは信じられなかったのだ。
だが魔王サタンよりも遥かに強大な魔力を持ち皆に慕われるロクドーの姿を見て納得がいったのだ。
「義理の息子ってのも悪く無いわね・・・」
そう呟く視線の先では正面からの突撃を受け止めて今度は大丈夫だったぞとドヤ顔を決めたロクドーの唇を奪うマイン。
そして、それを見て嫉妬に狩られてロクドーの元へ詰め掛けるエミとアリスとリュリ。
実に見事な修羅場であるが今はそれに誰もが笑い合えるのであった。
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