第55話 進化する音ゲー、動く魔物達・・・そして意識を失うロクドー

「皆の者!我等が同胞の魔王サタンは人間と手を組んだ!」


魔獣王ライオルは前に広がる魔物の軍勢に声を上げていた。

その横にはベルゼブブとサタンの妻であったシレーヌも立っていた。


「しかも魔王サタンは我が姉シレーヌが居ながら手を組んだ人間と毎日遊び歩いているらしい!こんな事が許せるか?!」


怒り憎悪、渦巻く魔物達の感情は一つとなり強大な力を生み出し始める・・・

魔獣王ライオルはベルゼブブから人間の生み出した音ゲーの存在を既に聞いていた。

そして、それは彼ら人型ではない魔物にはプレイできない物である事も理解していた。


「我等はこれより人間の国を滅ぼす!我等に対抗する力を生み出す音ゲーとやらをこの世から破壊する為に!」


全ては魔族の平穏の為に恐るべき敵となりえる人間を倒す。

これは正義なのだと魔物達は植え込まれていた。

ベルゼブブからアーリマンを通じて上空に映し出された音ゲーの映像。

ある者は足でパネルを踏む、またある者は2本の棒を使って叩く、またある者はボタンや鍵盤を押してスクラッチを回す、またある者はギターを弾く・・・

それらはベルゼブブの配下であるアーリマンが見てきた映像。

そのどれもが魔者達の目には美しく見えた。

だが棒を持てない者、足がパネルよりも大きすぎて踏めない者、手の形が違う者、魔者達には決してプレイの出来ないそれらだからこそ美しく見えたのだ。

プレイしている者の楽しそうな表情、そして音ゲーをプレイすれば魔力が上昇し魔族にも匹敵する力をいずれは手にする・・・


「「「「うぉおおおおおおお!!!!」」」」


何故我々は音ゲーをプレイできないのか、この手が、この足が、この体が憎い!

いや、違う!

我等魔族がプレイできない様に音ゲーが作られているのだ!

ベルゼブブの思考誘導は見事であった。

人間の体に合わせて作られている音ゲーが、魔族を排除する為に作られたと思考誘導していたのだ。

魔物達の想いが一つのエネルギー体と成りそれが形を作り出していく・・・

それは龍であった。

漆黒の翼に漆黒の体、黒そのものでしかない陰で出来た龍である。


「「「「をををををををを!!!!!」」」」


それを見上げる魔物達は雄叫びを上げる。

その龍は自分たちが力を合わせて生み出したモノだ!

その強大な力も我等と共に在る!

時が満ちたのだ!


「全軍進軍!」


魔獣王ライオルの叫びと共に魔物の大群は人間の住む音ゲーの町、コンマイ国へ向けて歩み始めていた・・・






一方魔王サタンはシレーヌが残した離婚届を握り締めて屋敷内を走り回っていた。

しかしどれ程探してもシレーヌも3人娘のアイ、マイ、マインの姿も無かった。


「サタン様・・・」

「執事か・・・はははっ・・・どうしてこうなったんだろうな・・・」


魔王サタンは妻であるシレーヌを愛していた。

一体どうしてこうなったのか分からない魔王サタンは悲しみに包まれ握り締めた離婚届を見詰める・・・

今この瞬間、サタン以外の2柱が手を組んで人間の町を目指して進軍しているなどと夢にも思わずに・・・







そして、丁度その頃ロクドーは最近続く発作が発生する瞬間にそれを押さえ込むのに成功していた!

ゲーセンから自宅へ帰る途中でエミが買い物がしたいと言い離れたのでベンチに腰掛けて居た所に突如発作が起こっていたのだ!


「ぐっ・・・やっやった!しかし、これは・・・魔力が循環している?!」


まるでメビウスの輪の様にロクドーの中で相反する人間と魔族の魔力が巡りながら巨大化していた・・・

それをゆっくりと押さえながら自らの体へ収める・・・

そして、その瞬間ロクドーの体に定着した二つの魔力が融合し新たな力となった!


「こ・・・これはぁああああああ!!!!」


エミが居ない時に起こった最後の発作!

それを見事に押さえ込み取り込んだロクドーの体から光が立ち上りこの世界へ広がった!

そう、音ゲーのバージョンアップである!

この瞬間、世界に広がる音ゲーは全て進化を果たした!!


ビートDJマニアはコンプリートMIXへ!

DDRはDDR2ndリンクバージョンへ!

ドラムフリークスは2ndへ!

ギターマニアは3rdへ!

ポップンでミュージックは3rdへ!

弐寺はサブストリームへ!


この瞬間にバージョンアップを果たした事でその場に偶然居合わせたプレイヤーは歓喜したのは言うまでも無いだろう。

そして、体から発散した魔力が落ち着いたところでエミが戻って来た。


「ろ、ロクドーさん・・・今の光は?」

「エ、エミか・・・なんか魔力が増幅されて音ゲーがバージョンアップ出来たみたいだ。もう発作も起こらないと思う」

「それは良かったです」


エミにとっては音ゲーのバージョンよりも発作に苦しむロクドーの事の方が大事であった。

自宅へ帰る途中で途中にあるベンチ、そこに並んで座るエミとロクドー。

一緒に暮らしている家族である2人に恋愛感情は無い筈であった。

だが苦しむロクドーを介護する間にいつもと違う感情が互いに芽生え始めていた。

前世の記憶を取り戻したロクドーは以前と違いエミを女性として扱いエミもそれを自然と受け入れ始めた事から徐々に変化していた2人の関係・・・


「ロクドーさん、私・・・ロクドーさんがアリスさんを好きなのは知ってます。ですが・・・」


ウルウルと煌めく瞳にロクドーの顔が映る。

いつも通りの死んだ魚の様な目を見詰めるエミは生唾を飲み込み自らの想いをぶつける!


「私・・・ロクドーさんが・・・ロクドーさんの事が!す・・・」

「ダーリン大変なのょょぉおおおお!!!!!パパとママが離婚しちゃうぅぅううううう!!!」


エミの決死の告白の瞬間にロクドーのボディに1人の少女が突っ込んでいた!

予想外の方向からボディに見事なタックルを喰らったロクドーはベンチの背もたれを突き破って後ろへ吹き飛んでいく!

少女に抱きつかれたままロクドーは後ろに建っていた建物の壁に激突する!

地面にベンチが固定されていたのでエミは無事なのだがどう見てもロクドーは無事ではなかった。

ぐったりと少女にもたれかかるロクドー、だがそれを抱擁されていると勘違いした少女は突然慌ててロクドーの両肩を掴んで離れる!


「ちょっちょっとダーリンこんな人の目が在るところで恥ずかしいよぉおおおおお!!!」


そしてそのままロクドーの両肩を壁に叩きつけた!

更に後頭部を壁に強打し既に白目を向いているロクドーに見事なビンタが炸裂した!


パチコーン!!!!

「恥ずかしいよーーーー!!!!!」


キリモミ状態で宙を舞うロクドーの体・・・

そんなロクドーを2人の少女がガッチリキャッチした。


「こらマイン!いきなりなにやってるの?!」

「ロクドーさん白目剥いて泡吹いてるよ?!」

「キ・・・キャアアアアアロクドーさん!?」


慌てるエミの叫びを気にせずにロクドーに突撃したマインはモジモジと頬に手を当てながらクネクネダンスを踊っていた。

そんな妹を白い目で見るマイとアイ・・・

周囲が騒然とする中、意識の無いロクドーを連れて一同はロクドーの家に向かって移動するのであった。

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