第54話 誤解から生まれる魔王の離婚騒動
「ぐぐぐっ・・・ぐはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「ロクドーさん、大丈夫ですか?」
自宅のベットの上でロクドーが胸に手を当てて苦しんでいた。
数日前から突然胸が苦しくなる謎の症状を発症し始めたロクドーは数日間エミに看病されながら過ごしていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・す、すまないエミ・・・」
「落ち着きましたか?それにしても本当何なのでしょうかね?」
初日は苦しみのせいで意識を失うほどであったのがここ数日は数分苦しむだけで落ち着くようになり始めていた。
徐々に治ってきているのかと安堵するエミとロクドーは知らなかった。
この現象の原因が魔族のサタンが音ゲーをプレイする時に音ゲーに流し込んだ魔族の魔力のせいだということを・・・
サタンの娘達の魔力は流石に低くロクドーに殆ど影響を与えなかったのだがサタンの魔力だけは別格であったのだ。
誰かが音ゲーをプレイする時に魔力を注ぐとその一部がロクドーに流れ込むという事を既に忘れているロクドーはその事に気付きもしなかった。
「なんだか最近俺の魔力の質が変化してきている気がするんだ・・・」
「どっちにしても家庭用音ゲー発売まであと数日なんですから早く治してしまわないとメロディーさんに止めさされますよ」
「それは怖いな」
チルコとポルコが開発しガム国とコンマイ国の協力で作り上げられたプレステの発売が刻一刻と近付いておりそれに伴い電力供給も大詰めとなっていた。
一度自国に戻っているメロディーが再びコンマイ国に到着するその日に発売を開始すると発表しているのだ。
その日まで後数日となっているのでロクドーは深呼吸をして落ち着いた体を起こす。
「少し体を動かしてくるとするよ」
「アリスさんからしっかりと見張るように言われているので同行します」
ロクドーとエミは久方ぶりに音ゲーの聖地となっている元バーのゲーセンへ向かうのであった。
「うぉぉぉぉぉおおおおおお!! はいっワンツー!!」
後ろのバーにしがみ付き必死にパネルを踏んでいるサタンがそこに居た。
今日は弐寺ではなくDDRに挑戦していたのだ。
いつも誰かがプレイしていたDDRが偶然にも空いており執事が休憩している間にお試しでプレイしているのだが・・・
「ひぃ・・・ひぃ・・・ひぃ・・・」
サタン、ベーシックレベルのリトルビッチに息も耐え耐えになりながら必死にプレイしていた。
ポーズを決める事にだけ全力を注いでいるのか曲の中盤とラストに2回流れる「ワンツー!!」のボイスに合わせてバーを離してポーズを決めるその香ばしい動きに人に見られると言う興奮を覚えつつあった。
しかし、サタンにとってDDRはまさに鬼門とも言える音ゲーであった。
何故ならば魔王サタン、普段は魔力で体を浮かせて移動を行なっているので自分の足で動くという事が殆ど無いのだ。
その為、実際に足を地に着けて動くという動作に非常に慣れておらず苦戦をしていたのだ。
「た・・・楽しいが・・・疲れるなこの音ゲーは・・・」
「ほっほっほっお見事でしたサタン様」
涼しい顔でサタンを褒める執事、だがサタン自身も数回のプレイでリトルビッチをクリアできる程になった事もあって上機嫌であった。
そんな2人から離れた場所では相変わらず冥土のメイド達が観客を虜にしながら恐るべきドラム捌きを見せていたりするのだが気にせずにサタンは執事と会話をしていた。
そんな2人が並んで立っている直ぐ横にいつの間にかロクドーが立っていた。
勿論ロクドーはサタンの事を知らないのだがサタンはこの町に来た時に娘を誑かした男としてロクドーの事を認識しているのだが・・・
「次、良いですか?」
「あっはいどうぞどうぞ」
互いに顔をあまり良く見ずに交代し設置された扇風機の前の椅子に腰掛けるサタン。
その前ではロクドーがリハビリがてらDDRをプレイするのだが・・・
「執事よ、あれをどう思う?」
「少々、動きが小さすぎるかと・・・」
2人の言葉も仕方あるまい、ロクドーは省エネ踏みとも呼ばれるパネルの隅っこギリギリを踏む踏み方でプレイしていた。
これは後に超高難易度譜面が増えた時にそれをプレイする為に開発された踏み方である。
現在の2ndMIXでは明らかに必要の無い踏み方であった。
だが・・・
「なっ・・・あの踏み方でSS判定だと・・・」
「あれが耳にするパフォーマーと言うやつなのでしょうかね?」
「そうであろうな、確かに最後に評価が出た時の驚きは凄いな・・・見事だ」
ロクドーにとってはグレートが2つ出たので不満であったが倍速やダークの無いこの時代、曲と判定が少しおかしいのも良くある話であるので深くは考えていなかった。
そんなロクドーのプレイに真横で拍手をしながら楽しそうに話すエミ。
「執事よ、どうやらカップルのようだな・・・」
「そのようですな、微笑ましい光景でございます」
「・・・明日はシレーヌを連れて来るのも良いかもな」
「それは良い考えでございます!きっと奥様もお喜びになられるでしょう!」
ここ数日サタンは帰宅してから余所余所しい態度でしか接してくれない妻のシレーヌに違和感を覚えていた。
実は浮気を疑われているとは思いもしないサタンはコンマイ国に来て人間と仲良くする間に知った言葉。
『家族サービス』
を実践してみようと考え始めていたのだ。
魔界の3柱の1人である魔王サタン、本人も気付かない間にすっかり人間臭くなっているのであった。
「おっあの青年いつの間にか終わってたのか」
「サタン様、次プレイさせてもらっても?」
「いいぞ、楽しんで来い」
そう言ってサタン一人残して執事が再びDDR筐体に上がる。
サタンはいつもの様に慣れ親しんだ弐寺へ向かって行った。
すれ違ったロクドーとサタン、そんな2人の様子を覗いている一つの影があった・・・
『魔王サタンが人間と組んで魔物狩りをしていると言うのは本当だったのか?!』
一つ目の眼球に羽の生えた魔物、アーリマンと呼ばれるそいつは魔王サタンと並ぶベルゼブブの配下であった。
人間の国を見張っている魔物達が一斉に皆殺しにされたと連絡を受けた魔獣王ライオルとベルゼブブは組んで人間を見張り始めていたのだ。
『大変だ!ベルゼブブ様に報告しなければ!』
この報告を受けたベルゼブブは早速魔獣王ライオルと共に魔界中に魔王サタンが人間と組んで魔族を滅ぼそうとしていると噂を流し始めた。
そして、その日のうちに流れたその噂を聞いて怒りに狂った女が1人居た・・・
「あの人、まさか遠くへ毎日出掛けているのが人間の女と浮気する為だったなんて!」
魔王サタンの妻、シレーヌは更なる誤解をして怒り狂い魔獣王ライオルの元へ向かって家出をするのであった・・・
シレーヌ、実は彼女の正体は妖鳥シレーヌ・・・
彼女は魔獣王ライオルの姉で浮気の話を聞いて魔獣王ライオルは更に激怒する・・・
その日の夜、自宅に戻ったサタンは自宅の食卓テーブルの上に置かれたサインの入った離婚届を見て愕然とするのであった・・・
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