第40話 第1回DDRフリースタイル大会 その6

人間の足は2本しかない。

その為DDRには3つ以上の同時押しが存在しない。

物理的に不可能な配置はDDRには存在しないように作られているのだ。

それが常識、それが当たり前・・・

誰もがそう考えていた常識を目の前で覆された時、人は固まる・・・


「なん・・・だと・・・」


バランと名乗った鹿の被り物をした男の姿勢に誰もが驚きを隠せなかった。

画面に上がってきた配置にバランは対処したのだ。

その配置が・・・


←  → ←  →


そう、両足を大きく開いて外側のパネルを踏むと同時に両手を着いて4つ同時押しを、不可能を可能としたのだ!

しかも瞬時に次のパネルを踏み体勢を整えながら足を大きく開いたままプレイを続ける。

ダブルとは大きく違うパネルの遠さもそうだが画面表示の矢印の配置が離れているのだ!

ダブルでは・・・


←↓↑→←↓↑→


となっているのが・・・


←↓↑→ ←↓↑→


と離れている・・・

元々1Pと2Pで別々の人間がプレイする為の表示なのだから当たり前である。

それを見事に攻略したのだ!


「てぃ・・・TMPだと・・・」


※TMP:通称テンプ、Twin Mix Playの略で本来2人でプレイするSPのVERSUSを1人でプレイする行為。


ロクドーが驚きの声を上げるのは何度目であろうか・・・

それも仕方在るまい、元の世界で考え編み出された技やパフォーマンスが彼の前に時を追うように再現され続けているのだ。

不恰好ではあるが一生懸命プレイするその姿は美しく輝いていた。


「これは凄い!バラン選手手を着いた時はきっと画面が見えていないことでしょう!それでもコンボを途切れさせずプレイしております!」


エミの実況に会場の手拍子は更にヒートアップする!

観客が驚くのも無理は無いだろう、バランは1Pと2Pでレベルを変える事で1Pと2Pが同じ譜面ではない形にしてプレイしているのだ!

余談だがTMPにはこの他にも片方にミラーを入れたりとするプレイスタイルもある、興味のある方は一度やってみるのもいいだろう。


「ふ・・・ふるこんぼ・・・」


観客が小さく呟いたその言葉に近くの者も頷く・・・

DDR2ndでのフルコンボは全ての譜面をグレート判定以上でプレイしなければならない、つまり1個も手を着いてプレイしたのにも関わらずグッド判定以下を取っていないのだ。

一瞬送れて大歓声が会場を埋め尽くす!


「しーか!しーか!しーか!しーか!」


手を着いてプレイするその後姿が完全に鹿に見えたわけではない、だが誰もが相談する事無くそのコールをしていたのだ!

ただ踏んでプレイするだけでなくテクニックも必要、更に人間は手で体重を支える生態をしていない。

その為、地面に手を着くと言う行為は非常に手首に掛かる負担が大きいのだ。

それをものともせずにプレイしきったバラン選手が立ち上がり拳を高らかに上げると再び大歓声が沸き上がる!


「結果発表をさせていただきまーす!」


歓声の中、エミが大声で叫ぶ!

徐々に歓声は止み誰もが注目する中エミが驚きの発表を行なう!


「ただ今の結果!9、10、8、9、7!合計・・・な・・・なんと・・・46点!」


誰もが耳を疑った。

舞台の上に立つバランもその言葉に唖然と立ち尽くす・・・

それはそうだろう、今までのTOPの42点を更に上回る最高得点が出たのだ!


「すげぇええええええええ!!!!」

「まじかよぉおおおおおお!!!!」

「ありえねぇええええええ!!!!」


会場はヒートアップし再び鹿コールが沸き上がる!


「しーか!しーか!しーか!しーか!」


片腕を高く上げて歓声に答えるバラン選手をエミが誘導していった。

そして、戻ってきたエミが前に出てイベントを再開する!


「大変素晴らしいプレイでした!それでは続けて行ってみましょう!次の方どうぞー!!!!」


溢れんばかりの拍手が響くのだが・・・

そこには誰も出てこなかった・・・


「あれ?どうしました?あれれ???」


エミが次の選手が控える裏方へ向かいそこで蹲ってる男性を見つけた。


「だ、大丈夫ですか?」

「あ・・・はいっ・・・ちょっと緊張でおなかが・・・」

「と、とりあえず順番なんですけど・・・」

「い、今行きます・・・」


そして、エミに続いて出てきた1人の青年。

いかにも何処にでも居そうな普通の青年である。

冒険者としては貧弱すぎる体つき、既に顔色が悪そうな表情・・・

誰もがヒートアップしていた気持ちを一気に覚めさせられた。


「と、とりあえずお名前を・・・」

「あっその・・・匿名希望でもいいですか・・・?」

「わ、分かりました・・・それでは筐体の方に・・・」


エミが誘導しようとするがお腹が痛いのか顔色の悪い青年は中々動こうとしない。

それも仕方ないだろう、こういうパフォーマンスイベントではパフォーマンス内容が被ってしまい後の人が損をする場合が良くある。

更に前にプレイしたプレイヤーがあれ程の高得点を叩き出したのだからプレッシャーは凄まじいものがあるのだ。

常に前のプレイヤーよりも凄い物が出され続けるイベントなど存在しない、それが普通なのだ。


「だ、大丈夫ですか?」

「え・・・えぇ・・・いま行きます・・・」


そう言いつつもお腹を押さえる両手、年寄りの様に腰を曲げた姿勢で筐体の上にゆっくり上がった匿名希望の青年。

そして、選曲画面で悩む・・・

全29曲を1週して2週目に入ろうとした所で手が止まった。


「こ、こちらで宜しいでしょうか?」

「あっはい・・・」


搾り出した様な青年の声に観客も青年を心配する声が徐々に聞こえ始める。

ロクドーももしもの時は飛び出して助けようと身構えていたのだが青年は曲を決めて決定ボタンを押した。

その曲は・・・「ゲラップムーブ」であった・・・

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