第39話 第1回DDRフリースタイル大会 その5

「お待たせしました。それではまず4組目の兄弟のプレイ!」


誰もが赤と青のアリオとルイーヅー兄弟のプレイを思い出す。

普通にプレイしている様に見えていきなり1Pと2Pが入れ替わりを行なうと言うプレイスタイルに度肝を抜かれたのを思い出していた。


「見事なスイッチと呼ばれる入れ替わりを駆使したプレイでした。自分達で譜面を理解し上手く利用できたポイントは高く評価させてもらいます。しかもフルコンボと言う素晴らしいステップ!本当に素晴らしいパフォーマンスでした。欲を言えばもう何箇所か入れ替わりが出来るポイントがあったのに気付ければ良かったので自分は6点を入れさせていただきました。」


ロクドーがそう言うのも仕方あるまい、スイッチプレイで肝心なのはミスをせずにどれだけ多く入れ替わりが行なえるかである。

この時ロクドーが言っていた箇所と言うのは様々で以下の様な箇所でも入れ替わりが可能だったと言う事である。


  ↑   ↓

   → ←

 ↓     ↑


や・・・


←       →

 ↓     ↑

   → ←


等で上手く互いに渡れればスイッチが可能なのである。

だがそれでも自分達で考えてそれを実行しフルコンボを達成したのは高く評価していた。


「次回は更にパワーアップしたパフォーマンスに期待させてもらいたいと思います。そして、続けての5組目のリザードマンであるゲオルグさん!」


観客が一番疑問に思っていたパフォーマンスである、ロクドーが含み笑いを必死に耐えている姿も多数に目撃されており最高得点の10点を入れていたのが気になっている人も多かった。


「彼の努力は本当に素晴らしい!この筐体に収録されている通常曲は全部で29曲!その全ての曲のANOTHER譜面を大体暗記しているのです!」


それはエミにランダム選曲の決定を行なわせた事からも明らかである。

しかし、この場に居る殆どの人は知らなかった。

DDR2ndMIXには通常曲は29曲だが実は幻の30曲目が存在するのだ。


「そして、奇跡は彼の元へ訪れた・・・幻の30曲目、通称『偽パラMAX』を引き当てたのです!」


ザワザワと会場がざわめき立つ。

誰もが感じていた違和感の正体がそれなのであった。


「2人目のカリンちゃんがプレイした時に見た通り、ゲオルグさんとカリンちゃんのプレイした譜面は違います。そして、ゲオルグさんも観客の皆さんも違和感を覚えたとおり偽パラMAXの正体は・・・曲はパラノイヤMAXなのに譜面はパラノイヤと言うモノなのです!」


これが幻の30曲目の偽パラMAXの正体であった。

ちなみに正確には3曲別枠の曲が存在するのだがそれはまたの機会に・・・


「ゲオルグ選手はプレイしながらその譜面内容に気付き宣言どおり暗記していたので見事にフルコンボを達成しました!」


そう、彼がもしサドゥンではなくステルス(譜面が完全に表示されなくなる)を選んでいたら気付く前にゲームオーバーになっていてもおかしくなかった。

ランダムでしか出現しないそれを本番で引き当てたその運と気付きにロクドーは彼を高く評価したのだ!


「大変素晴らしいパフォーマンスでした。そして、6人目のナイトさん・・・彼は凄いの一言!彼の使用していたダンスはゲーム画面の背景でキャラが踊っている振り付けを見よう見真似でマスターしてアレンジを加えたモノでした。その動きは非常にレベルが高く大技まで譜面配置に上手く組み込んで仕上げてくれてました。ただ1点、残念なのがアフロを再現したのでしたら服装も再現して欲しかったですね」


そこかよ?!と言う突っ込みが入りそうな視線を感じロクドーはしてやったり顔でエミにマイクを返した。


「ありがとうございました。それではどんどん行きましょう!7人目のプレイヤーさんどうぞ!」


ロクドーに突っ込みを入れるか悩んでいた人々はエミの声で気持ちを切り替えて舞台を見詰める。

そして、その異様な姿を見て固まる・・・

やってきたのは1人の男性、だが一つおかしな点があり・・・腰から下を隠すようにフラフープの様な物から垂れた布が下半身を完全に隠しているのだ。


「それではお名前をどうぞ」

「ハイ、ワタシハキリントイイマス。キョウハセイイッパイタノシミマス!」

「キリンさんですね!それでは早速どうぞ!」


裏声で話しているのか声が上手く聞き取れなかったがエミは名前だけはなんとか理解し上手く司会を続行した。

そして、キリンが選んだ曲は・・・ANOTHERの『スモーク』であった。

昭和生まれの人なら誰もが一度は聞いた事のあるあの曲のカバーでかなりの人気曲なのだがその譜面配置は結構酷くMANIACを始めてプレイしたプレイヤーはかなりの確率でゲームオーバーになっていた。

というのも難易度が異様に高く譜面が見抜きにくい上にHARDでは出現しないと言う事が大きかったのだ。


「準備が出来たようなのでどうぞ!」


エミの司会に合わせてキリンは決定ボタンを押して曲が流れ出す。

この世界の人々には新鮮に聞こえるその曲だがロクドーだけは「あぁ・・・そういえばこんな曲もあったなぁ~」と小さく口にしていた。

そして、矢印が上がってくるのだが誰もがその光景に驚きを隠せなかった。


「えっ?あれ?踏んでる・・・んだよな?」

「でも全然動いていないよ?」

「よく見ろよ、判定も表示されてコンボも伸びてるぞ!」


誰もがその光景に驚きを隠せなかった。

当のキリンはフラフープの様なものを腰の高さで固定してそれに手をかけたまま動いていないにも関わらずゲーム画面は得点を伸ばし続けていたのだ。


「不動プレイか?!」


ロクドーが口にした言葉で何人かはそれがどういうプレイなのか理解した。


不動プレイ:地域によっては不動踏みと呼ばれるこのプレイスタイルは足を2枚のパネルを跨ぐ形で配置し4枚のパネルを体を動かす事無く踏むテクニックである。


腰から下を布で隠すと言うアイデアも凄く良くロクドーは感心しながらそれを見詰める。

腰の高さで押さえているフラフープっぽいアイテムを一切動かす事無くプレイすると言うのはとてつもなく難易度が高いのである。

パントマイム的な技とも言える彼のそのプレイはフルコンボとは行かなかったが見事に曲の最後までゲージを残してクリアしたのだ。

とても見ている人たちを退屈させるそのプレイはまるで水面の下で足を激しく動かす白鳥の如くロクドーの目に映っていた。

そして・・・


「お待たせしました、ただ今の結果!7、5、7、6、5!合計30点!」


送られる拍手に照れながらキリンは満足気にそのままその場を後にする。


「さぁ、どんどん行きますよ!次の方どうぞ!」


エミの声に合わせてその人物が登場した時であった。


「ひっ?!」

「うぉっ?!」

「おぉぉぉおおお?!」


観客席だけでなく審査員からも不思議な声が発せられる。

それも仕方ないだろう、その男は全身を毛皮でコーティングし、頭に野生の鹿の様な被り物をしていたのだ。

あまりにも異様なその光景に誰もが固まって思考を巡らせる。

そんな中、エミが我に帰りマイクを向ける。


「か、簡単に自己紹介をどうぞ」

「んんっ?!オラはバラン!オラの狩ったこの鹿と一緒に今日は楽しみたいと思うのだな!」

「そ、そうですか・・・それではどうぞ!」


エミの超え賭けでバランは前もって決めて居た設定を行い曲を決めた!


「えっ?嘘でしょ?!」

「おいおい・・・大丈夫なのか?」


客席から疑問の声が上がるが、それがどうしたとばかりに設定が終わりバランはチラリとエミを見て頷き返され決定ボタンを押す!

彼が選んだ曲は『ヒーロー』と言う新曲で驚くのは1PがHARDで2PがANOTHERだったからである!

それが意味するのは勿論・・・4つ同時押しが存在すると言う事でもあった!

それがどうしたとばかりに悩む事無くバランは中腰に構えて流れてきた譜面を捌き始めるのであった。

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