第41話 第1回DDRフリースタイル大会 その7

ゲラップムーブ:通称ゲタ

通常プレイでは最終曲かスコアが1000万点以上になると選曲できるようになる曲。

ANOTHER以降のレベルでは裏打ちとされるリズムが基本となる初心者泣かせな1曲である。

またボス曲のパラノイヤMAXの最後の滝がこの曲の最初に流れてくる配置というのは有名な話である。

それでもBPM132の配置をBPM190で踏ませるのは酷すぎると数多くのプレイヤーが涙した曲でもある。



匿名希望と名乗った青年は相変わらず腹痛が治まらないのかお腹を押さえながら前屈みになりつつ上がってくる矢印を待つ・・・

彼が選んだのはANOTHERレベルである。

上記にもあるように裏打ちの4分が基本となる配置のこの曲は知らないと本当にリズムが合わなくて地獄を見る。

更にこの曲の特徴として数回繰り返される「ゲラプムー!」と言うボイスに合わせたドラムの「ダダダダン!」と言うリズムがある。

このリズムは俗に言う3連符と呼ばれる12分感覚で矢印を踏ませるものである。

そして・・・それは誰にも予想がつかなかった・・・


「あぁ・・・匿名希望選手・・・大丈夫なのでしょうか・・・」


自らの腹を押さえながら一歩一歩踏む青年の姿を固唾を呑んで見守る観客達。

出来れば耐えて最後まで曲をプレイしきって欲しい!

そんなこの場に居た全員の予想を見事に裏切ってそれは起こった!!!


「ダダダダン!」


最初のポイントがやって来て代名詞ともいえる音が鳴り響く!

それに合わせて匿名希望は後ろを向いてノックをしたのだ!

その場に居た誰の目にもそれは見えた。

2つ合わせると揃うペンダントの片割れを見た時の様に見えないはずのそれが誰の目にも見えたのだ!

そう、その姿は個室の前で腹痛に耐えながらトイレのドアをノックする姿である!

そして、青年はそのまま筐体の上から飛び出して駆け出しトイレへと直行した・・・


「・・・」


誰もがポカーンと口を開けたまま匿名希望選手の後姿を見送り彼がトイレに入ったと同時にゲージが無くなりゲーム終了となった。


「ぷっ・・・」


最初の噴き出しは1人の少年であった。

余りにも唐突に予想できない事が目の前で起こった時、人は思考が停止するのだ。

しかし、理解が追いついて思考が再起動すると共にそれは連鎖的に巻き起こる!


「くはっ?!ギャハハハハハハハハハアアアアア!!!!」

「ウハハハハハハハひーひー!!はらいてぇええええ」

「お前もトイレ行って来いよあはははははははは!!!」


爆発的に笑いが笑いを呼んで会場は大爆笑の渦に叩き落された!!!

いつの間にかロクドーも両手を激しく合わせながら爆笑している。

下品?それがどうした面白ければ正義だ!とお笑い芸人が言うように一瞬にして会場の全ての人に匿名希望選手のパフォーマンスは受け入れられた。


「はぁ・・・はぁ・・・それでは・・・集計結果を発表します!」


エミが笑いを堪えながらミミズの這った様な数字が記入されたそれを見て発表を行なう。


「ただ今の結果!4、10、5、10、10!合計39点!これは凄い得点がでたぁああああ!!!」


エミの言う事も最もだろう、ロクドーを筆頭に3人が最高得点を書き込んだのだ。

これがフリースタイルパフォーマンス大会の面白いところでも在る。

審査するのが人間である以上その評価基準は審査員に委ねられる。

途中でゲームが終了しようともインパクトがあれば高得点を付ける人も居ると言うことである!

そして、お待ちかねのロクドーの説明タイムがやって来た!


「それでは7名目のパフォーマンスの解説に入らせてもらいます!彼が行なったパフォーマンスは不動プレイと言います!」


実際に筐体の上にロクドーが上がってそれを説明する。

だが見れば何を行なったかは一目瞭然である。

斜めに立って足の先端と踵を2枚のパネルを跨ぐように置いたのである。


「この様に上体を全く動かさずにプレイする事ができるのです!更に小道具を使って下半身の動きを全く見せないアイデアにも見事と言うほかないでしょう」


それはまるで水面を泳ぐ白鳥の様に水面下では激しく足を動かしている様であった。

それを証明するかのようにロクドーは実際に腰から上を動かさずにその場で動きを再現して見せたのだ。


「続きまして8名目のTMP!所謂1人バーサスプレイですね!驚くべき最高得点が出たのも納得の凄いプレイでした!」


そう、TMPプレイには同時踏みが存在すれば手の仕様が必要不可欠である。

そして、DDRの画面は斜め上に向けて設置されているので手を着く為に屈むと画面が見え難くなるという難点があるのだ。


「彼には更なる進化した鹿プレイをまた見せてもらいたいですね!そして・・・9人目の彼・・・一体何を考えているんだ?!」


怒る様にロクドーは声を上げた。

それはゲームを途中で中断して去ったプレイヤーへ対して怒っているようにも見えたのだが・・・


「多分、今までの誰かと披露予定のパフォーマンス内容が被ったのでしょう・・・思いつきなのかは分かりませんが・・・かなり好きだぞ!」


ロクドーの言葉に大歓声が上がる!

この場に居る殆どの者に彼のパフォーマンスは受け入れられたのだ。

単なる思い付きではあったが完全に予想外の高評価!

思い出し笑いする人が続出する程彼のパフォーマンスは見た人の記憶に永遠に残ることであろう・・・


「ありがとうございました!それではいよいよ最後の3組となりました!泣いても笑っても最後まで是非頑張ってもらいましょう!それでは次の方どうぞ!」

「「はーい!!」」


呼ばれて出てきたのは可愛い女性2名であった。

驚く事に着ている服装が全く同じで兄弟なのか顔付きもそっくりな2人であった。


「「自信は余りありませんが頑張ってプレイしますので応援宜しくお願いします」」


息ピッタリの挨拶が響き爆笑から立ち直った観客は疲れて下がり始めてもおかしくないのに、高いテンションで2人の美女に歓声が上がる!


「そ、その前にお2人のお名前をお聞きしても宜しいですか?」

「「はーい!!」」

「私が~マインです」

「私は~アイです!」

「「2人揃って曖昧でーす」」


妙なテンションであるが場が暖まっている為にそれはすんなり受け入れられ2人は曲を選ぶ。

その曲は『ドビドビ』明るくテンションの高い人気曲であった。

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