第36話 第1回DDRフリースタイル大会 その2

DDRのパネルは約5キロの圧が掛かる事でパネル下に設置されたディップスイッチが反応し判定を認識する方式である。

1枚のパネルに上下左右と4つのディップスイッチが設置されており端を上手く踏まなければ力は勿論分散される。

特に同時押しに関しては2枚のパネルを同時に踏まないと駄目なので体重が最低でも10キロ無いとプレイできないのがDDRなのである。


「これは凄い!見事にカリン選手ステップを刻んでいます!」


誰の目にもそれは驚くことであった。

見たところ自称9歳のカリンと名乗る少女はスレンダーと言う言葉が似合う体系をしており予想される体重は約30キロ以下。

即ちパネルの中心を同時踏みすると反応しない場合があるのである!

それでもカリンは必死にプレイを続ける。

譜面をご存知の方には分かると思うがパラノイヤMAXのANOTHER譜面には同時押しからの連打と言う配置が存在する。

これが何よりの鬼門になる筈がカリンはそれを見事に踏み切っているのだ!


「そ、そうか!カリン選手、ジャンプを高く飛んで着地の勢いを利用してパネルを強く踏んでいるんですね!」


司会のエミが声を大にして気付いた事を述べる!

しかし、ロクドーは更なるポイントに注目していた。


(あの少女・・・やるな!)


そして、見事にカリンはパラノイヤMAXをクリアした!

それと同時に沸き上がる拍手と歓声!

まさに会場が一丸となって彼女の功績を称えていた!

その間にエミが集計結果を纏め終え再び宣言する!


「ただ今のプレイの結果!6,7,7,5,9!合計34点!」


2人目ではあるが暫定トップに躍り出たカリンの嬉しそうな笑顔とポーズに会場は一つとなった!!


「カーリーン!カーリーン!カーリーン!」


止まない歓声であったがこのままでは後が押してしまうと残念そうにエミが終了を告げ手を振りながら裏へと歩いていくカリンに会場の観客達は手を振り返すのであった。


「さて、それでは続いていってみましょう!3人目はこの方だ!」


先程のカリンコールに染まりきっていた会場は一瞬で静けさを取り戻した。

それは仕方ないだろう、巨漢・・・いや、正しくはぽっちゃり系・・・

巨大な妊婦の様なお腹をした巨漢の男性が入ってきたのだ!

しかも服装は半裸、身に着けているのはズボンのみと言う酷さ。

ある意味おまわりさんこの人ですと言わんばかりの姿に会場は絶句したのだ。


「そ、それでは軽く自己紹介をどうぞ!」

「う、うっす、自分は東から来ましたサイトーともうすっす!今日は頑張りますっす!」


そう言って選曲画面で彼が選んだ曲は・・・

ベーシックの初心者が一番最初に選択する曲で有名な『ハブユワ』であった。

『ハブユーネバービーンメロン』と言う全曲中一番難易度が低く一番譜面数が少ないこの曲を選んだ彼に固まっていた観客達はブーイングを飛ばす。

しかし、それを静止させたのはロクドーであった。


「静まれ!皆さん、この場に出てプレイするだけでも非常に勇気が必要なのです。ましてや彼は何かを成そうとしています。感想は見終わってからでもいいじゃありませんか?」


その言葉に客達は互いを見合って一度頷く、集団心理と言うのは非常に怖いものだ。

だからそれの流れがおかしくなった時はロクドーの様に修正する必要がある。

特に前のプレイヤーの影響と言うのは少なからず発生するのがフリースタイルイベントのポイントでも在る。

ロクドーは筐体の上で待っているサイトーへ親指を立てて笑顔を向けた。


「うっす!ありがとうございますっす!」


ロクドーへ感謝の言葉を告げてサイトーは決定ボタンを押した!

爽やかな歌声に乗ってのんびりした曲が流れ始める。

そして、矢印がゆっくりと上がってきたのを見てサイトーは動き出した!


「なっなにぃいいいいい!!!!」

「をををををおおおおおお!!!!」

「ま、まさかあれは?!」


観客が驚くのも無理は無い、サイトーが高々と手を膝について脚を上げたのだ!

そして、そのままその足を振り下ろした!

バンッ!!!と大きな音を上げて踏まれたパネルは正確に判定を表示しスコアを加算させた!

その動き、そして彼の体型と姿で数名が気付いたのだ。


「き、聞いた事在るぞ!東の方の国に存在する半裸の巨漢な男同士が戦う武術が存在すると。確か足の裏以外を地に着いたら負けの武器を使用しない格闘技・・・その名は・・・相撲!」


まさかの格闘技にロクドーは顎が外れたように口を開いたままそれを見守る。

そんな観客達をよそにサイトーは様々な相撲のテクニックを決めていく!

すり足の様な動きで1Pと2Pを移動したり後ろのバーに体当たりしたりとやりたい放題である!

しかし、それもこれも全ては譜面数が少ないからこそ出来る事であり、まさに自由度が異常に高いDDRと言うゲームの一つの真理を実現させたパフォーマンスであった。

そして・・・


「あぁっと!サイトー選手バーへの体当たりを失敗し・・・へっ?」


1P側の最後の一歩を無視して2P側のバーへ体当たりを仕掛けたサイトーは衝撃でバランスを崩して座り込むようにその巨大な尻を地面に着いた。

その尻が見事にパネルを反応させ最後の一歩を反応させたのだ!

一見すると相撲のトレーニングをしているようにしか見えない動きであったのに終わってみればフルコンボと言う偉業を成し遂げた彼へ盛大な拍手と歓声が上がった!

そう、彼もまた殆ど画面を見ずにプレイをやりきったのだ!


「ごっつぁんです!」


挨拶を大声でしてサイトーは裏の控え室へと向かう。

慌ててそれを止めるエミ!

半裸の男性に触れるのを少し躊躇したが流れをミスらないように心がける出来る女であった!


「まってください!集計結果を!」

「うっす、すみませんやりきって満足してたっす。うっす」


とりあえず止まってくれたサイトーを待たせてエミは採点された集計を計算する・・・


「ただ今のプレイの結果!4,6,5,3,10!合計28点!」


その点数に誰もが驚きを見せた。

そう、ロクドーが10点をサイトーのパフォーマンスに付けたのだ!

そして、待ちに待ったこの時間がやって来る。

ロクドーによるパフォーマンス解説の時間である!


「はい、それでは12名中最初の3名が終わったので簡単にパフォーマンスの解説を行ないたいと思います!」


その言葉に静まり返る会場。

ロクドーだけが不思議な点数のつけ方をしていたと言うのは誰もが気付いていたのだろう。

その理由が知りたくて誰もが黙ったのだ。


「まず最初にアトラン選手!実にお見事な逆転の発想でした!普通に暗記してミラーを掛けてプレイするのが背面プレイの基本なのですが彼は通常譜面で背面プレイを行ないました。それはつまり、暗記の時点でミラーを入れた譜面を暗記したと言う事です!」

「をををををおおおおおおおお!!!!!」


パフォーマンスの為に譜面を暗記したりするのは良くあることなのだが通常譜面で背面プレイをするためにミラー譜面を暗記すると言う練習方法はロクドーも初めて知って驚いていたのだ!


「実にお見事、常識の裏をついた見事なパフォーマンスだったと思います。ただ、出来れば暗記したのだからもう少しターンとかプラスアルファが欲しかったですね」


実に辛口、だがそう言われれば納得してしまう説得力がロクドーの言葉にはあった。


「続いて2人目のカリンちゃん!彼女が実に素晴らしいと感じたのはあのプレイスタイルもそうですが、何よりクリアに賭ける情熱です!」


意味が分からないと誰もが首を傾けたのを確認しロクドーは観客席から1人を上がらせパネルの上でしゃがんでもらう。


「それでは、その位置からゲーム画面をご覧下さい・・・」


そう言われゲームを適当に始めると・・・


「な・・・なんだと・・・天井の光が反射して画面が全く見えない!?」

「そう、カリンちゃんはあの譜面を丸暗記しているのです。それも自身がプレイしてではなく誰かのプレイを見て覚えたのでしょう。」


会場の誰もがその言葉に驚きを見せる。

それはそうだろう、譜面を印刷して暗記したりビデオなどに録画してじっくり観る事が出来ないこの世界では実際にプレイして暗記するか誰かのプレイを後ろで見て覚えるしかないのである。

ロクドーの解説に絶句した観客が回復する前にロクドーは続ける。


「最後に3人目のサイトー選手、非常に興味深い!パフォーマンスで大切なのは自由な発想です!自分の得意な格闘技をパフォーマンスとして取り入れたその素晴らしい内容に俺は10点を付けました!そしてなによりも・・・誰にでも出来る事を形にしてパフォーマンスとして完成させるというのは非常にポイントが高いと考えます!だからこそ10点を付けました!」


ロクドーの言葉に誰もが共感しロクドーとサイトーへの拍手が次々と上がっていった。

その空気の中、ロクドーが審査員席へ戻りエミが司会を続ける。


「お待たせしました。それでは4人目の選手どうぞ!」


エミの司会に続き会場へ入ってきたのは2人の青年であった・・・

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