第33話 最初のメドレー曲で決着!

『ザ・アクロス・ナイトメア』

ドラムフリークスがこの先長い歴史を繋ぐ中で唯一現実世界の2017年末の時点で1度も削除された事の無い曲である。

数ある音ゲーの中でも初代からの皆勤賞の曲と言うのは非常に少なくこの曲以外で筆者は一度も削除されていない音ゲー曲というものを知らない。

ムービーにサムライが出て来る事から曲自体を『サムライ』と呼ぶプレイヤーも多くハードロックと和風をMIXした素晴らしい人気曲である。

ドラムフリークスに至っては基本とされる譜面配置が多く複雑な箇所が少ない事から譜面を見ずにプレイするステルスプレイを行なう者も多い・・・

つまり・・・


「リュリ、そこは急ぎすぎず少し遅めに演奏するのを意識しろ!」

「はっはいっ!」


リュリは焦っていた。

ロクドーがドラムフリークス最難関曲であるザ・アクロス・ナイトメアを演奏しながら譜面が来るポイントポイントでコツを伝えてくるのだ。

しかも・・・


「上手いぞ!二人共コンボが繋がってる!」


驚く事にロクドーは自分のプレイしている画面を見ずにギターマニアの画面を見ながら指摘しているのだ。

しかし、ロクドーにとってはこれは特に驚く事でもなかった。

DDRでもそうなのだが譜面を完全暗記した上でプレイしながらアドリブでパフォーマンスを披露すると言うのは上級エンジョイプレイヤーには良くある事である。

しかもこのザ・アクロス・ナイトメアはロクドーがドラムフリークスで最も多くプレイしてきた曲でもある。

まさに体が覚えているのである。


「リュリ!ここからリズムが変化するから落ち着いてプレイしろ!」

「はっはいっ!」


驚きもそうだがリュリは高揚していた。

大好きなロクドーと同じ曲をセッションで演奏できると言う事への喜びが体を支配していたのだ。

この一体感こそがセッションプレイの醍醐味ともいえるだろう。

リュリの横でアドーは完全に空気となっていたがプレイに集中しているためそれは丁度良かったのだろう。

特にロクドーのアドバイスが耳に入ってくるので譜面を捌くのに集中しているアドーだがそれも仕方ないだろう。

このザ・アクロス・ナイトメアにはベース譜面が存在しないのである!

そうなると強制的にアドーはギターの譜面を演奏せざるをえ得ないのである。

だがロクドーはアドーのプレイを見てそれ程心配はしていなかった。

ギターマニアにおける基本テクニックの一つオルタを既に使用していたからである。


オルタとは、オルタネイトピッキングの略でピックを上下に動かし続けて演奏するテクニックである。

これに対してオルタリセットと言うテクニックも存在する。

これはピックを下へ弾いた時に左手のボタンが変化する場合上へ返すと同時に左手を動かすとミスを発生させるのを回避するテクニックである。

様は下へ弾いた後上へはピックを動かさず手だけ戻し、左手を動かして直ぐに下へ弾く方法である。

特に3つずつ譜面が連なっている時はこのテクニックが重宝するプレイヤーも多い。


「よし、あと少しだ!二人共頑張れ!」

「「ハイッ!!」」


ロクドー達から少し離れた場所まで近付いていたゾンビ化した人々はまるで3人の音楽に酔っている様に立ち尽くす。

曲が終わったと同時に両手を挙げて歓声が上がってスタンディングオペレーションが今にも起こりそうな光景にロクドーはテンションが上がるが、実際には曲が終わると同時に襲い掛かってくるのを理解している為複雑な心境であった。


(くそっこれでも駄目か・・・)


チラリと首を捻って真後ろに置かれている鉱石に視線をやるが光に包まれている状態で魔力を限界近くまで吸収しているのが見て取れた。

それでも鉱石の限界を超えて破壊するにはまだ足りないのを感じ取っていたのだ。


(どうする?どうすれば・・・)


そして、最後の連打に入り曲が終了する。

ロクドーは勿論フルコンボのS判定クリアを達成したのだがそれと同時に先程と同じように鉱石に集まっていた光が空高く放たれて飛んでいく・・・

その光が魔力の集合体だと言う事は既に周知の事実であった。

だがロクドーが冷や汗をかきながら鉱石を見詰めて居た時にリュリが叫ぶ!


「ロクドーさん!演奏を続けて下さい!私の見た感じあの鉱石は魔力の吸収を行なっている速度はセッションプレイでも1人プレイでも変化が無いようです!」


それを聞いてロクドーの脳裏に一つの方法が浮かんだ!

しかし、それと同時にロクドーの背後にあのドワーフが立ちロクドーに襲い掛かろうとしていた!


「させません!」


ドワーフがロクドーに襲い掛かる直前に横からタックルを決めてロクドーを助けるアドー。

その僅かな隙にロクドーは再びコイン投入口に指を当ててドラムフリークスを再起動する!

素早くコマンドを入力してエキスパートリアルモードにして選曲画面に入った時であった。


「ロクドーさん、信じてます・・・」

「えっ?」


リュリがロクドーの頬にキスをしたのだ。

そして、一斉に二人の下へ駆けて来るゾンビ化した人々に向かって魔力の障壁を出現させて突撃するリュリ。

そう、既にその立ち位置的に選曲をしたとしても曲が始まる前にロクドーは襲われていた。

それを察したリュリは自らが盾となって飛び出したのだ!


「リュリ!」


ロクドーの叫びに横を向いたリュリが微笑み真正面からゾンビ化した人々と衝突した!

僅かであった、本当に僅かな時間ではあったがその進みが止められたのだ。

ゾンビ化した者の中にはエルフもドワーフも魔物も含まれていた為にリュリ1人の魔力は直ぐに尽きリュリはその体を使って道を塞ぐ。

ドラムフリークスの筐体の形状から筐体の後ろからは攻め難かったのが幸いしロクドーは選曲画面で左を1回だけ押して直ぐに決定を押す!

もしもこの場に意識の残っているドワーフが居れば「その曲は一体なんだ?!」と声を上げていたであろう。

通常3曲遊べるドラムフリークスの3曲をノンストップで演奏できるメドレー曲が実は1曲だけ隠し曲として収録されているのだ!

それがこの『D.M. "パワフル" MIX 』である。


「リュリ!助かったら絶対デートしような!」


ロクドーが大きく声を上げて曲がスタートした!

既に周囲の状況はロクドーには見えていなかった。

本気のロクドーの演奏が始まったのだ。

まるでそれを邪魔しないようにしているかのように静けさに包まれた周囲。

ロクドーが演奏している音楽と共に筐体から魔力が放出されそれがゾンビ化した人達を硬直させているのだ。

そして、ロクドーがコンボを繋げる度に筐体から放出される魔力量はどんどん増大していく・・・

演奏初期は微妙に動きを止め切れていなかったゾンビ化した人々も徐々にその動きを止めて立ち尽くしていく・・・

ドラムフリークスもDDRと同じようにコンボを繋げれば繋げるほどスコアがどんどん高くなっていくのである。

そのスコアの上昇に合わせるかのように筐体から発せられる魔力量がどんどん増大し鉱石にもそれは影響を及ぼし光輝いていく。

だが今回は3曲が繋がって止まる事無く曲が流れるのだ。

途中で魔力を放ってリセットする事が出来ない鉱石は徐々にその光を集めすぎてヒビが入っていく・・・


さてここでこのメドレー曲について解説をしておこうと思う。

このD.M. "パワフル" MIXは『ヘブン57』『アルトメットパワー』『デペンドンミー』の3曲が続けて流れるのだが単独の譜面とは一部違っている部分が存在する。

またムービーで飛行機が出てくるのだが残ゲージ量に応じてその飛ぶ高さが変わりゲージが無くなると墜落すると言う面白いギミックが仕込まれていたりする。


気付けば曲は3曲目のデペンドンミーの後半に差し掛かり完全に集中しているロクドーは手に力が入りそうになるのを意識して抜きながらプレイを続けていた。

既に画面に表示されているコンボ表示は4桁に入っておりミスをすれば全てが無に帰す緊張感の中ロクドーは落ち着いてプレイを続けていた。

そして曲が終了した。

それと同時に一斉に上がる歓声!!歓声!!!歓声!!!!

画面に表示されていたコンボ表示は1744で止まっていた。


「えっ?えっ??えぇえええ?!??!」


ロクドーが振り返るとまさしくスタンディングオベーション状態で拍手喝采に包まれていた。

そして、座ったままのロクドーに飛びつくようにリュリが抱き付いてきた。


「ロクドーさん・・・良かった、本当に良かった・・・」


リュリのその言葉でロクドーの手から力が抜けて2本のスティックが地面に落ちる。

これ程の緊張感の中でプレイした音ゲーは過去に無かったかもしれない。

そう考えるロクドーが視線を落とすとそこには粉々に砕け散った鉱石の残骸が残っていた。


「終わったんですよロクドーさん」


拍手しながらリュリの幸せそうな顔を微笑みながら祝福するアーカインの言葉でロクドーは全てが終わった事を理解するのであった。

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