第32話 四面楚歌!周囲はゾンビ化した観客で一杯!
「リュリ!無事だったのか?!」
演奏が中断してドラムを担当していたガイルが涙目で沈んでいるので、このまま再開は不可能だと判断したアーカインは村に響いた娘の声を聞いて飛び出した!
そして、リュリの方もアーカインの声を聞きつけそこへ駆けて来る!
丁度そこへ戻ってきたロクドーもやって来て再開を果たすのだが・・・
「ロ、ロクドーさん?!」
リュリの顔が真っ赤に染まりロクドーの顔を直視出来ず視線を反らす。
会いたかった相手に予期せぬ形で再会して恥ずかしさが限界突破したのだ。
だがそんなリュリも顔を背けた先でエルフ達が慌てているのを見てそれどころではないのだと思い出す。
「アーカイン、もしかして?」
「あぁ・・・すまないロクドーさん、ガイルがしくじった」
「そうか・・・」
音ゲーには失敗が付き物である。
ロクドーは演奏されていたバンビンナの譜面を思い出して理解していた。
特に同じ箇所を連打する譜面と言うのはミスした時の対処法を理解していないと酷い被害を蒙る事が多々あるのだ。
音ゲーの譜面を演奏する上で同じ箇所で複数回連続して演奏する時は俗にBADハマリと言うモノに気をつけなければならない。
これは譜面の判定が上下に一定範囲で1度だけ認識すると言う性質が逆にプレイヤーに悲劇をもたらすものである。
簡単に言うと連打などで1つ分多く叩いてしまった場合を考えてみると良く分かるだろう。
譜面1つ分早いタイミングでの判定はBADである。
そして、その判定で譜面を処理した場合BAD判定処理された譜面は消えて次の譜面の判定が認識される。
だがプレイヤーは前の譜面のタイミングでプレイする。
この時に譜面1つ分のズレがこの後連打が終わるまで延々とズレたまま繰り返されるのである。
これが俗に言うBADハマリである。
対処法としてはプレイを一瞬中断して再開したり、連打の速度を落としたり、空打ちを入れる等が在る。
それぞれプレイヤーによって一番得意な方法が使われるのだがこれも知らなければ対処が出来ない。
「リュリ、突然だがギターフリークスを頼んでもいいか?」
「えっ?こ、この状況下で?」
「村の外に集まってるやつ等の中に大きな鉱石を持っているヤツが居る筈なんだ。そいつを見つける為に演奏が必要なんだ」
「わ・・・分かったわ・・・なんだか良く分からないけどロクドーさんがそういうのなら頑張るわ!」
リュリが納得しガイルのフォローに回ろうと考えた時であった。
「ゾンビ化したエルフが結界内に入ったぞ!」
村の見張りのエルフが叫んだ声が響き場に緊張が走る。
エルフの村の結界は外からの抵抗力は凄いが内側からは脆いのである。
そして、エルフだけが結界を素通り出来る仕様だったのが裏目に出てしまったのである。
「駄目だ!結界が!!!」
その時、村にパリーンと何かが割れる様な大きな音が響き渡った!
エルフの村の結界が破壊されたのだ!
「ま、不味い!急ぐぞ!」
「「ハイ!」」
アーカインとリュリはロクドーに続き2台の音ゲーが設置されていた場所へ移動した。
屋根だけが在る場所に設置された場所に既に準備を終えていた。
そこには既に気持ちを切り替えて真剣な表情でアーカインを待つガイルの姿も在った。
それを見てロクドーは一言だけガイルに伝える。
「ミスをしたと思ったら軽く一呼吸プレイを中断して再開するんだ」
「・・・はいっ!」
ミスを責められる事無くアドバイスを貰ったドワーフのガイルはドラムスティックを持つ自らの手を見詰める!
今まで様々な物を作ってきた自分の腕を信じる、それだけがガイルの頭を支配した。
そのガイルの様子を見てロクドーはベースのアドーとギターに入ったリュリの顔を見て1回頷く。
「今度は大丈夫です!」
「こっちは任せてくださいロクドーさん!」
「帰ってきたらデートして下さいねロクドーさん!」
さり気なくリュリがデートの約束を差し込んできた事に笑みを浮かべながらロクドーは3人に背を向け走り出す!
それに続いてアーカインも走り出す!
村に避難出来たエルフもきっと演奏が始まると同時に飛び出して鉱石を持つ者を探すはずだ!
誰もがそう信じて再び演奏が開始される!
選曲は・・・『スカスカNO.1』
緊迫した村に陽気なスカの曲が流れ再びゾンビ化している者達の動きが止まる!
それを確認したエルフ達は既に無くなった結界が在った場所から村の外へ飛び出し合間を縫って鉱石を持つ者を探す。
演奏中は誰も彼もが両手をダラリと下げているので手に持っている者が居れば直ぐに分かる筈!
誰もがそう考え村の周囲を走り回る!
一方演奏している側はリュリが慌てながらも何とかプレイを続けているのだが・・・
「なにこれ・・・レベル詐欺じゃないの?!」
そう、このスカスカNO.1はギターの譜面が後半かなりの難易度に跳ね上がるのである。
だがリュリはそれを遅れながらもグッドで拾って演奏を続けていた。
間違い無くアーカインであったならば連続でミスを連発していたであろう、それを演奏を聴きながらロクドーは理解していた。
(無事に解決したらデート・・・してやらないとな)
ロクドーがそんな事を考えていた時にアーカインの声が上がった!
時間は少しだけ巻き戻る。
アーカインはロクドーとは違う方向へ駆けておりゾンビの様に立ち尽くす者達の前に迫っていた。
そして、探し始めようとしたその時であった!
「がぁあああああ!!!!」
1人だけ立ち尽くしていた者達の中から飛び出したドワーフが居たのだ!
アーカインは正面からその姿を見てその手に持つ大きな鉱石を見つけた!
「ロクドーさんこいつだ!!!」
そんなアーカインの叫びはそのドワーフが体当たりをしたと同時に途切れた。
その一瞬でアーカインの魔力は体当たりの時に押し付けられた鉱石に吸い取られてしまったのだ。
そして、そのドワーフはそのまま村の中央へ向けて走っていく・・・
セッションプレイ演奏中は音ゲーから周囲に膨大な魔力が音と共に放出され続けている、それがゾンビ化した者の耳から入りその者の魔力を回復させていたので動くことは無かったのだが鉱石を持つそいつだけは違ったのだ。
鉱石自体が音楽に乗った魔力を吸い取っていたせいでそいつだけは魔力がマイナスの状態を維持する事が出来て動けたのだ!
そのままドワーフが演奏している者達を発見しそのまま突撃を仕掛けようとした時であった!
「横から失礼っ!」
横からすれ違うと同時にロクドーがガイルの目の前で鉱石を奪い取ったのだ!
もう少し遅れていたらガイルはドワーフに襲い掛かられていたであろう。
その鉱石を奪われたドワーフはそのまま白目を剥いてその場にうつ伏せで倒れこんだ。
それと同時に1曲目が演奏終了する。
「ぐ・・・ぐぅうううう・・・こ、これは不味いな・・・」
演奏終了と同時にロクドーの口から漏れる苦痛の声・・・
手にしていた鉱石が容赦なくロクドーの魔力を吸い取っていたのだ。
だがロクドーは吸い取りきられる前に地面に鉱石を置いて手を離したためにギリギリゾンビ化せずに助かった。
そして、声を上げる!
「何してる!さっさと2曲目を演奏しろ!」
そう、鉱石は奪い取ったが演奏と演奏の間はゾンビ達が再び活動を開始するのだ。
事実目の前で倒れていたドワーフも白目のまま起き上がろうとしていたのだ。
「次、これ行くよ!」
リュリが慌てて選んだその曲は『ジェットワルード』であった。
それを見てロクドーは苦々しい表情を浮かべるがリュリの腕を信じることにした。
ドラムとベースに関しては特に問題は無いのだがギターは階段と呼ばれる譜面が多数存在するのだ。
だが今のリュリならきっと出来ると信じたロクドーは鉱石に目を向けながら魔力の自然回復を待つ・・・
そして、2曲目も演奏が終わりに差し掛かった時に鉱石は光を放って輝きだした!
それと同時に演奏が終了しその輝いた光そのものが空高く飛び去っていく・・・
「一体今のは・・・」
「魔力の塊の様でしたが・・・」
ロクドーの呟きにリュリも呟きを返した。
その声にハッとロクドーが気付いたと同時に叫び声がドラムの前に座っていたガイルから上がる!
「うぁあああ放せぇえええええ!!!」
そう、あの倒れていたドワーフがガイルの足首を掴んでいたのだ。
それに驚いたガイルは椅子から転げ落ちるように離れようとするがゾンビ化しているドワーフの力が強すぎてその手が全く離れない。
ドラムが誰も居ない状態で3曲目を演奏してもゲージを共有している為に即終了するのは目に見えていたロクドーは慌ててドラムの前の椅子に座る!
そして、村の中央付近まで一斉にゾンビ化した者達が走ってきたのを見てロクドーは曲を選んでハイハットを叩く!
「リュリ!俺に合わせろ!」
「は、はいっ!」
そう、ロクドーは激しい曲を自分が演奏すれば先程とは比べ物にならない程の膨大な魔力が出る筈だと考え曲を選んでいた。
その曲は『ザ・アクロス・ナイトメア』であった。
初代ドラムフリークスのボス曲である。
難易度はエキスパートリアルしかなく選曲画面で並ぶ難易度を示す音符の数が異常だと話題になった名曲である。
右手に持ったスティックを人差し指と中指の間で挟んでクルッと回して構えたロクドーは叫ぶ!
「さぁ、本気で行くぜ!」
周囲は物凄い数のゾンビ化したエルフとドワーフ、更には魔物から動物にまで囲まれている状況で最後の曲が演奏されるのであった!
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