第31話 途中中断の悲劇

セッションプレイ、それはギターマニアとドラムフリークスが連動して同じ曲を共に演奏する方法である。

まさに合奏という形で演奏されるそれは音量も幾分か上げられプレイしている人達だけでなく周囲の人間も魅了するとても素敵なモードであった。

しかもギターマニアにはギターの他にベースを演奏するモードも在りこれを使えば3人で同時に演奏することも出来るのである!


「このままでは周囲を囲まれこの村から出られないだけでなく周囲の生態系は全滅するだけです」


ロクドーの言葉にビクッと反応を示し現状の危機を真っ直ぐに受け止めるエルフ達。

間違ってもロクドー達がここに逃げてきたからこの状況になったとは考えない辺りが彼等の心が優しい証拠であった。

そして、エルフの中からギターマニアが一番上手い人物をと言う話に名前が出たのがあのリュリであった。

しかしリュリは近くの山菜を取りに行ったまま戻ってきていなかったのだ。


「なんと言うことじゃ・・・リュリももしかしたら既に・・・」


その事実を父親のアーカインが口にした事で長老は愕然としていたがそれでも可能性があるだけでリュリがゾンビの様になっているとは限らない。

もしかしたら何処かに隠れてやり過ごしているかもしれない。

仕方なくリュリの代わりにアーカインがギターマニアを準備してもう一人にエルフの青年アドーがベースの準備をした。

ドワーフからは唯一ドラムスティックを持ち出していたガイルがドラムフリークスに座り込み準備が整った。


「それじゃ作戦はこうだ、演奏が始まったらゾンビの様子を見て魔力が回復したことで我を取り戻したのを確認したら一斉に飛び出すぞ!そして、元凶となった鉱石を持っているドワーフを見つけたら知らせてくれ、俺がその鉱石を破壊する!」


ロクドーが魔力を吸い取る鉱石の破壊方法として許容量以上の魔力を注ぎ込んで破裂させる作戦を考えていた。

実際に鉱石は破壊できないほど硬いと言うのは遠目で見たドワーフが教えてくれていたのだ。

その硬さはオリハルコンを超えると言われドワーフ達も通常の方法では破壊できないと考えていた。

そして、演奏が始まった。

奏でられるのは『バンビンナ』と呼ばれる新曲であった。

この曲はギターフリークスのみに収録されている曲でセッションプレイをする事によりドラムフリークスでも遊べるようになる曲である!


「皆、演奏時間は約90秒だ!気合入れていくぞ!」

「「「おう!!!」」」


そして、演奏が始まると共にエルフの結界周囲のゾンビ化した全員がその動きを止めた。

まるでその演奏に聞き入るように呆然と立ち尽くすその様子にロクドーは叫ぶ!


「皆飛び出せ!」

「「「おう!!!!」」」


一斉に動ける者達が外へ飛び出し立ち尽くすドワーフや魔物を間を抜けて鉱石を抱えるドワーフを探す!

時間は15秒を過ぎ残り時間は約1分、ロクドーは必死に駆け回り鉱石を探す。


(こっちじゃなかったか!だがまだ2曲演奏できる筈、チャンスはまだある!)


しかし、ロクドーは失念していた。

この版権曲バンビンナはギターマニアの歴史の中でも音ズレが非常に酷くアーカインの奏でる音が非常に歪なモノになっていることに探すのに必死で気付かなかったのだ。

その結果、ミスを連発していたのだがベースとドラムのお陰でなんとか持ちこたえていた。

そして・・・最大の問題点に到達した・・・

そう、ドラムソロ地帯である。

このバンビンナにはギターとベースが共に譜面が無いドラムソロの間奏部分が約7秒存在する。

まるでそれをあざ笑うかのようにギターとベースの方の画面にはビックリ箱から飛び出したゴリラが踊ると言う動画が流れる。

そして、この地帯のドラムフリークスの譜面はかなり過酷であった。

ひたすら連打が続くと言うあまりにも単調な譜面にドワーフのガイルは悲鳴を上げていた。


「うわっうわっうわぁあああ!!!!」


そう、このギターマニア2ndとドラムフリークスのセッションは3者のゲージが共有だったのだ。

その為、ドラムの連打をミスするとギターとベースの方では譜面が存在しないにも関わらずそのゲージ残量がメリメリ減っていくのであった。

そして、ロクドーがそのドラムのリズムがおかしい事に気づいた瞬間であった。


『バヒューン!』


大きなその音と共にゲームオーバーになったのだ。

ゲージ残量がなくなると同時にゲームが中断し終了する仕様のこの2台の仕様をすっかり忘れていたロクドーはその音を聞いた瞬間青ざめた。


「やばい!!!皆逃げろ!!!」


ロクドーの叫びと同時に近くに居た者は踵を返してエルフの里へ戻る!

だがエルフの村の周囲に飛び出した者の殆どにはその声は届かず、結果多くの者がそのまま演奏が中断したことに気付かず鉱石を探していた。

そして、悲劇は起こった・・・


「ぐぁあああああ!!!」

「なんだこいつら?!まだ時間は・・・」

「助け・・・助けてぇええ!!!!」


周囲をゾンビ化した者に囲まれている状態で一斉に周りの者が自分に襲い掛かる恐怖。

それは戦闘に特化したエルフですら抵抗する統べなく捕らえられ魔力を吸い取られる事に繋がった。

そう、この時エルフの里に自由に出入りできるエルフがゾンビ化してしまったのだ。

無事にエルフの村に戻った僅かな数名のエルフとロクドーは周囲から聞こえるエルフの悲鳴に顔を歪めながら歯を食いしばる。

その時、丁度エルフの村の反対側から1名のエルフがエルフの里に飛び込んできたのであった。


「なんなのよもおおおおおおお?!」


男勝りなその叫び声を上げる彼女こそエルフのリュリであった。

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