第3話 取り締まりに来た衛兵音ゲーに魅了される
「なにこれ・・・凄い・・・」
アリスが演奏するその曲の映像にエミは驚きを隠せない。
現代日本でならパラパラ漫画クラスの映像だがこの世界には1枚絵を次々に動かして映像にする技術なんてあるわけもなくその映像にエミは驚愕していた。
アリス自身も生まれて初めて何かを演奏すると言う体験に全身の鳥肌を立てて興奮しているのか曲が終わってからこっちを見るが口をパクパクさせているだけで言葉が出ないようだった。
「な・・・なんなのこれ・・・」
漸く出た言葉がそれだった。
でも良く考えれば仕方ないだろう、記憶にある日本でならともかくこんな中世くらいの文化しかない世界にこんな物が現われてはな。
現代日本でもSFの映画とかがあったけどその現場に居る様なものだからな。
「アリスさん、次始まるみたいですよ・・・」
エミの言葉にアリスは我に返り筐体に向かう。
次に選んだのは同じく☆1つの曲『ジャムジャ レゲエ』である。
この世界にもレゲエに近い曲は在ることには在る、どちらかと言うと民族が演奏する曲だな。
さて、この曲の簡単な説明をするならば変なオッサンが変なダンスを踊る映像とジャムをスプーンで食べて驚く映像が思い浮かぶだろう。
難易度が☆1つと言う事で簡単な事には簡単なのだが・・・
「な・・・なんなのこれ・・・」
そう、リズムの配置が非常にイヤラシイのだ。
後に裏打ちと呼ばれる4分の裏の音を普通に初心者に叩かせると言うちょっと難易度の高いこれは簡単なくせにスコアが出ない事でも有名だった。
奴隷商の中に響くこの世界ではやはり再現出来ないであろう謎の音による演奏。
そして、この国では聞いたことも無い英語の歌詞。
その時建物の中に一人の衛兵が入ってきた。
「おい!これは一体なにご・・・と・・・」
その衛兵はそれを見て言葉の途中で固まる・・・
アリスが演奏しているそのビートDJマニアの存在に驚きを隠せないのだ。
この世界には存在しない材質で出来たこの世界には存在しない音を奏でる謎のマシン。
音楽を再生する機械なんて存在するわけもない時代にも関わらず機械から歌が聞こえるのだから。
「やった!クリアしたみたい!」
アリスが胸元で両手を合わせて喜びながら飛び跳ねていた。
うん、その姿が可愛くて衛兵の事を一瞬忘れてしまったがよくよく考えればこれはちと不味いのかもしれない。
と言うのもこれをどうやって説明すれば良いのかと言う事だ。
「あ・・・あの・・・アリスさん・・・」
エミが心配そうにアリスに声を掛ける。
テンションが上がっているアリスは満面の笑みを浮かべながら振り返りそこにいる衛兵に驚きの表情を浮かべる。
だが衛兵はビートDJマニアの筐体を見詰めたまま固まっている・・・
そして、アリスが振り返っている間に3曲目が始まる。
この初代ビートDJマニアは3曲目に『DJ対決』と言う物がプレイできる。
これは画面のDJが演奏するスクラッチ音を真似てこちらも正確なスクラッチ音を演奏できるかと言う曲だ。
これには説明が必要だろう。
「おいアリス、それは画面のヤツが演奏する音と同じリズムで丸いヤツを回す曲だから」
「えっ?・・・あっうん・・・」
衛兵の存在が気になるのかアリスは一応理解して筐体に向き直る。
そして、始まる曲。
この世界は勿論英語も日本語もない、画面には相手のDJが英語で話し掛けてきて画面下には日本語の字幕が表示されるがどちらも理解できないだろう。
そして曲が始まる。
キュッと言うよりもカゥッと言った感じの音で演奏されるDJのスクラッチ音に続いてアリスが演奏するが・・・
カゥッカカゥッカゥカカゥッ・・・
カゥッカゥッ カゥカゥッ・・・
「あれっあれっあれれれれ???」
「アリス、少しだけ動かして複数は往復させるんだ」
「えっと・・・こうかな?」
カゥッカゥッ カゥッカカカゥッ・・・
カゥッカゥッ カゥッカカカゥッ・・・
「上手いぞ!」
「えへへ」
カゥカカカカゥッ カカカゥッカゥッカカカカカゥッ
カゥカカカゥッ カカカゥッカゥッカカカゥカゥッ
「あれ?あれれ???」
スクラッチの難易度は初心者にとってはかなり難しいのは仕方ない。
特に叩くのではなく擦ると言う動作は日常生活において洗濯する時くらいしか行わないのだから。
ふと横目で見ると中に入ってきた衛兵も自然と体を上下させDJのスクラッチ音に顎が合わせて動いていた。
その表情は楽しげでこの後の説明をどうするかこれで決まった。
結局アリスはギリギリクリアはしたがゲージが86%で終了した。
この初代ビートDJマニアは3曲目のDJ対決を100%クリアすると隠し曲である『良いモーション』が演奏できるのだがそれは今回はお預けになった。
「難しいけど・・・これ・・・凄い面白いよ!」
アリスとは付き合いが長いがこれほど自然体で童心に返った笑顔を見たのは初めてで少しドキッとしたのだが直ぐにアリスは衛兵の存在を思い出しいつもの表情に戻る。
そして、俺は立ち尽くして口をパクパクさせている衛兵に説明をするのであった。
「これはな、俺が作り出した巨大魔道具で『音ゲー』と言う物なんだが・・・」
「お・・・音ゲー・・・これ・・・俺にもやらせてもらって良いか?」
「あ、あぁ・・・だけどプレイするには魔力が必要なようでな」
画面が真っ暗に戻っていた筐体に視線を向けるアリスが口にする。
「1回100MP必要みたいだからエーテル要るなら売りますよ」
「むっ・・・ギリギリだから1本貰おうか」
「毎度あり~」
アリスからエーテルを1本貰い言われた通りコイン投入口のある場所に指を触れてMPを吸い取られ直ぐにエーテルを飲む衛兵。
それを見て本業に魔道具屋をしているアリスは商売の匂いを感じ取り誰にもバレ無い様に笑みを浮かべる・・・
そして、この世界で2人目のプレイヤー、衛兵が演奏を開始したのであった。
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