第21話

あ、兄貴の靴がある。


家に帰ると兄貴はもう帰宅していた。


玄関迄カレーのいい香りがしている。



ドアを開けてリビングに入って行くと、そこからはキッチンでカレーを煮込んでいる兄貴が後ろ向きで立っていた。



白いエプロン姿に胸がキュンとする。



そんな可愛い格好して、それでも女性を淫らに抱いたりするんだな。俺は更に胸が締め付けられる思いがした。




「兄貴、ただいま。今日もカレー?」




そう話しかけると、兄貴はこちらに振り替えって



「おう、今日遅かったな、どうしたんだよ。」




言うかどうか迷ったが、山科唯の疑問は俺にも興味があった。感情の入れ方に気を付けてぶっきらぼうに言ってみる。



「兄貴の彼女に呼び出されてたんだよ、山科唯に。彼女心配してたぜ、最近兄貴が優しくないって、身体ばかり求められて悲しいって。本当は他に好きな奴いるのかって。」



そう言い終わると、兄貴は随分驚いたようで、持っていたお玉を落とした。



ガダンっ。



「やべー、落としちまった。」



「大丈夫かよ、火傷してない?」


と俺は兄貴に駆け寄り、手を触ろうとしたが、パッと避ける様にその手を引っ込められた。



「大丈夫だよ、ありがとう。思ってもない話されたからさ、唯一がそんな話を、なんでたろう。ちょっと盛りすぎちゃったかな…ははは。」



そうか、やっぱり、俺はそう思い直して、少し兄貴から距離を取って言う。



「男ってそーいう、ものだよな。」



着替えて来るよ、と俺は自室へ行った。

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