第20話
珈琲のいい香りがしている。
夕方の空いてる時間帯だからどろうか、店内には山科唯と俺だけがたたずんでいた。
山科唯に話があると言われて、兄貴に出くわしたら結城家ではちょっとまずいのでと、彼女にに促されるまま、いま二人は小さな喫茶店に至る。
「で?話って何?」
俺が切り出した、些かぶっきらぼうだったかもしれない。
「あの…相談っていうか、話を聞いてほしくて。」
山科唯は少し戸惑いながら話始めた。
「博巳さんて、もしかして、他に付き合ってる人とか、好きな人っているのかな。」
話は満が想像していたベクトルとは少し違う方向を指していた。てっきりのろけの恋愛相談でもされるのかと思っていたのだ。
「どうしてそう思うの?」
彼女は言いにくそうに…でも少し覚悟を決めた様に切り出した。
「だって、博巳君、ここの所、デートと言えばホテルばっかりなの。するばっかりで、上の空っていうか、全然他の事で遊んでくれないっていうか…」
ここ迄聞いた所で、ああやっぱりと思った。やっぱりただののろけじゃないか。
するだけ?
は?
俺がどれ程、何回、何十回、それを渇望して想像した事か。妄想の中、どれだけ一人で自身を慰めた事か。慰めた後、どれ程虚しく、また更に兄貴を恋しく思った事か。
この女は何にもわかってない。
「…とにかく、博巳君とお付き合い続けるべきか、悩んでいて。満君、それとなく博巳君に聞いて見てくれない?他に好きな人いるのかどうか。」
「断るよ。自分でそういう事は、聞いた方がいい。」
「え、でも…」
しつこい。この女は知ってる。自分が男性にどんな目で見られているか。自分の美貌が男にどれだけ効力をもたらすかを、自分の武器を知ってそれをちらつかせて頼んで来ているのだ。
俺には通用しないけど。
「じゃあ、俺としてみる?試しに…愛の無いセックスをしたら、兄貴とのセックスがどれだけ愛のあるものかわかるんじゃない?」
酷いっと言わんばかりに、山科唯は泣き出してしまった。
「ごめんね、俺は協力出来ないから」
それだけ言い残して、俺は喫茶店を後にした。
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