第8話

風呂から上がると、兄貴はリビングでプリンを食べていた。駅までの往復の時間を考えると帰宅時間はぴったりだ、どうやら山科唯とはどこへも寄り道をしてないらしい。いや、ホテルに行ってなかったからと言って、何もしていないとは限らないな。



「おかえり」



後ろから話し掛ける。



すると兄貴は振替って、いつもの笑顔でにっこり俺に笑い掛けてきた。



「プリン買ってきたぞー。」




俺はいつも兄貴にプリンを奢って貰う。



俺にとってプリンには特別な思い出があった。





あれは10年前、ある日俺達家族は四人テレビを見ていた。なんの番組だったかは覚えてないが、結婚式のシーンが映っていた。ドラマの中の花嫁のウェディング姿はとっても綺麗で、俺は思わず見とれていた。



だから俺は言ったんだ、「僕は兄貴と結婚して、ウェディングドレスを兄貴に着て貰うんだ」って。



両親は慌てて咎めた、男の子同士、兄弟では結婚出来ないのよって。それを聞くと、僕はワンワン泣き出した。嫌だと駄々をこねて押入れに閉じ籠ったんだ。



両親も困り果てていると、暫くして兄貴が扉をあけて、こっそり僕にプリンを持ってきた。そして言ったんだ、「内緒で結婚しようよ」って。僕は嬉しくて夢中でプリンを食べたんだから。






俺は片時も忘れた事はない。あの時の事なんて、兄貴はきっともう忘れてしまっているどろうけど。

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