Inutile
tekitoux
第1話 SSS 「電話」
「はいモシモシ、おや、タカシかい。お前が電話なんて珍しいじゃないか。あんた自分の事をオレなんて言うからに、すっかり都会に馴染んじまったねぇ。ばあちゃんびっくりだよ」
「え、困ったって、何よ、ばあちゃんに相談事かい」
「ふんふん、仕事で。失敗した、失敗って何をだい。お金、お金かい」
「はいはい、えー、会社に弁償。会社に弁償なんてするのかい」
「ええ、お金が足りないってかい。それは困ったねぇ」
「何、ばあちゃんに金を貸せってかい。はぁ、ばあちゃんだって金持ちじゃないねぇ」
「で、いくらだい。言ってごらん」
「まぁ、200万円かい。タカシ、自腹で払えないのかい」
「まったく、都会に出たからってお金を無駄遣いするんじゃないよ、まったく」
「だーいじょうぶよ、そのぐらいのお金、ばあちゃんにだって出せるさ」
「だーいじょうぶだって、任せときなさい。で、いつまでにお金を送ればいいのよ」
「今すぐって言われても、今日はもう銀行閉まっちゃったし、月曜日まで待てないのかい」
「だめかい。仕方ないねぇ、それにしたって今すぐは無理よ。どうにか待てないのかい」
「明日ならいいかい。そうかい、わかったよ。ばあちゃんに任せておき。なんたってタカシのためだよ」
「何、電話変わるって」
「あら、上司さんですか。この度はタカシがとんだご迷惑を...すみませんねぇ」
「ええ、はい、お金のことはタカシから聞きましたが」
「ええ、あら、とりに来て下さるんですか。それはどうも御親切に」
「いやねぇ、年なのか足を悪くしちゃって、なかなか外に出るのが億劫でねぇ」
「あら、そうなのぉ。それは嬉しいわ」
「駅ですね。いや、遠いところわざわざすみませんね」
「ええ、そうなの。申し訳ないんですが、今すぐにはちょっと」
「箪笥の中だけじゃあ足りなくて、銀行に行かなきゃいけないのよ」
「ええ、ええ、全部は払わなくていいんですか」
「半分。はい、わかりましたよ」
「今日はちょっともう、ごめんなさいねぇ。お金用意するのに少しは時間がいるのよ」
「何度もごめんなさいねぇ、ええ、はい、では明日、駅で渡せばいいんですね」
「はい、いいですよ。それで、ごめんなさいねぇ、私上司さんのお姿がわからないものだから、明日は駅のどの辺にいらっしゃいますかね」
「ええ、裏手の駐車場ですか。はい、わかりました、それでは明日の、そうですね、お昼くらいには」
「ええ、はい、ありがとうございます」
「タカシかい、上司さんに明日のお昼にお金を取りに来てもらうからね、半分は出してあげるからね」
「ごめんねぇ、全部は明日までにはできないの」
「ええ、半分はばあちゃんに任せておきなさい」
「うん、うん。忙しいだろうね、タカシも仕事頑張ってね。めげちゃだめよ」
「うん、わかったよ。明日の朝ね。上司さんから電話ね。はい」
「それじゃあ、タカシも元気にするんだよ。今度帰っておいでよ、御馳走するからね」
「うん、バイバイ」
「さ、タカシのためにお金を用意しないとね」
「見栄を張ったけど、ちょっと足が出ちゃったねぇ」
「明日銀行に行くとお昼に間に合わないわねぇ」
「そうだ、この間公衆電話についてた所に電話してみましょ」
「ふう、暗くなるとまだ寒いねぇ」
「えーと、この番号だね」
「百円玉は、あら、ちょっとだけね。すぐにお話済むといいんだけど」
「あモシモシ。突然ですみませんが、御宅すぐにお金貸してくれるって、本当かしら」
「まあ、助かったわ。明日すぐにお金がいるのよ。」
「ええ、すぐに返せるわ」
「まあ嬉しい。でね、明日のお昼に駅の裏手の駐車場でお金渡してもらっていいかしら」
「白い紙に名前ですか?ええ、名前はもらう人の名前でいいですよ」
「はいはい、ええ、ありがとうございます。それでは、明日お願いしますね」
「はあ、本当にすぐにお金貸してくれるのね」
「公衆電話に電話番号張り付けておくなんて、今時古風な所よねぇ」
「ああ、寒くなってきたし、早く帰りましょ」
「はいモシモシ、あら、上司さん、はい、おはようございます。」
「ええ、お約束通り、用意しましたよ」
「ええ、お昼に駅の裏手の駐車場ですね、わかってますよ」
「でね、私は足が悪くってそこまで行けないからね、お金持った人が行くのよ」
「でね、間違った人に渡さないように、上司さんの名前を書いてもらってもいいかしら」
「私の名前じゃダメよ、上司さんが貰ったかどうか確認するんですから。」
「ええ、受け取ったら確認するから、それでおしまいですよ。」
「ええ、はい、それじゃ、無事にお金を受け取ってくださいね」
「さて、お金渡す人を伝えなきゃ」
「あらいけない、電話番号がわからないわ。もう一回あそこまで行かなきゃ」
「あモシモシ、昨晩電話した...」
「はい、そうです、ええ、はい、裏の駐車場です」
「受け取る人はですね...あらいけない、上司さんのお名前伺うの忘れてたわ」
「ええ、上司さんなんですけどねぇ」
「タカシの上司さんですかって聞いてみてください。ええ、はい、よろしくお願いしますね」
「上司さんかどうかはタカシに確認させてください。ええ、上司さんが連絡先を知っていると思いますので、ええ」
「はい、上司さんが名前を書いてくれますので」
「大丈夫ですよ、タカシなら都会で仕事をしているそうなので、すぐに返せますよ」
Inutile tekitoux @umiwatarin
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