第2話 神田公輝Ⅰ

***


「神田またな!」


「おう!」


帰り道、いつものメンバーと別れ、そろそろあの桜並木の道へと差し掛かる。


今日もあの子はいるだろうか?


『声掛けろよな』


緒方の言葉が頭をよぎる。


結局あの後ずーっと掛ける言葉を考えていたが、良い言葉は何も思い浮かばなかった。


それどころか、下手に声を掛けてストーカーと思われたらどうしよう。。

などマイナスな事しか思い浮かばない。


桜並木まであと数メートルとなってきたので、自転車を漕ぐスピードを極端に落としてみる。


彼女が立っているのは、だいたい桜並木に入ってから3本目の桜あたり。

川沿いの舗装されている道は少し高くなっており、桜並木は芝生の坂の下にある。


顔はあくまで前を見ながらも目線だけ斜め下にずらしていつもの場所をチェックする。


あと2本…1本…いた!


やはり今日も立っていた。

今日もいつもと変わらず紺色のセーラー服を身に纏い、肩より長い黒髪を風になびかせながら桜を見上げている。


声、、、掛けるって言ったってな。。。


思わず彼女に見入ってしまう。


と、不意に目が合った気がして心臓が跳ね上がる。


キッ

ブレーキが小気味いい音をたてて自転車が止まる。


しまった、びっくりして思わずブレーキを握っちゃった。

ど・どうしよう、このまま走り去ったら、完全に変な人だろうし、走りさったらもう2度と話しかける勇気も出せなくなるだろう。

やっぱり、今か!今話しかけるしか!!

でも、なんて。。。


完全に頭の中はパニックだ。


すると、想定外過ぎる事が起こった。

なんと、セーラー服の彼女がこちらを向いて、にこっと微笑んでくれているじゃないか。


見間違いじゃないよな?


一度ギュッと目を固くづぶってからもう一度彼女を見てみる。


やっぱり柔らかい笑顔をこっちに向けてくれている気がする。


お、俺に笑ってる?


勘違いだったら嫌だから、周りをキョロキョロと見回してみるが、他に人はいない。


やっぱり俺?


彼女の顔を正面から初めてみたが、やはり整った綺麗な顔をしていた。

シュッとした輪郭に、大きな黒い瞳。

筋の通った鼻に、桜の様に少しピンクがかった頬。


そんな彼女が、俺に、俺に微笑むなんて!!!


「や。やぁ」


なんとか声を絞りだす。


って、やぁってなんだよ。

我ながら冴えない言葉だ。


思わず彼女から顔をそらし下を向く、顔がどんどん赤くなっていってるのが自分でもわかる。


って、このチャンスを無駄にするな俺!

なんとか次につなげるんだ!!


そーっと目線を上げ、彼女を確認する。


って、まだニコニコしてないか?

俺の声の掛け方は間違ってなかったのか!


彼女の微笑みに高鳴る心臓と期待を抑えられず、もう一度顔を上げ声を掛ける。


「い、いつもここにいるよね?そこに何かあるの?」


すると彼女は、口もとに人差し指を当て、桜を見上げる。

その後すぐにまた俺を見てニコッと微笑む。


「そ、そっちに行っても良いかな?」


彼女はニコッとしたまま頷いた。


良いってことか!

なんか、良い展開じゃないか?

このまま名前と、連絡先を聞いて。。

いや、がっつきすぎてこのチャンスを無駄にするな。

あくまでも自然な会話の流れで聞き出すんだ。

その為にもまずは何か盛り上がる会話を。。。

って、盛り上がる会話ってなんだよ?


焦る気持ちと、どうにか上手くやりたい気持ちで、また頭の中が自分で処理しきれなくなってきた。


ど・どうすれば?


棒立ちのまま動けなくなってきた。

あぁ、こんな時、緒方だったらどうしているんだろう。


と、彼女は『まだかな?』とでも言っているかのように、小首をかしげる。


くそっ、さっきの仕草もそうだけど、いちいち可愛いな。


外見も可愛くて、仕草も可愛い。

という事はきっと性格も可愛いに違いない!

そんな彼女を世の男どもがほおっておくわけないよな。


そんな事を思いながら、あんまり待たせてはいけないと自転車を降り、舗装された道を外れて、芝生の坂道をスピードが出ないように引いてる自転車のブレーキを掛けながら彼女の方へと近づいていく。


彼女はその様子を大きな瞳で見守ってくれていた。

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