Kirschbaum
あつまいも
第1話 神田公輝Ⅰ
桜の季節になると見かける女子がいる。
高校生になってから通るようになった川沿いの桜並木。
その中の一本の桜を見上げて彼女はいつも立っていた。
ここら辺の高校にはそんなに詳しくないけど、普段見慣れない制服なので近くの高校ではないのだろ。
朝はおらず、学校帰り、夕方にだけ見かける。
だから、彼女も学校帰りに立ち寄っているのかもしれない。
***
俺は近くの県立高校に自転車で通っていた。
一緒に帰る友達もいるけど、桜並木の道に入る前に別れてしまうため、まだ彼女のことは誰にも話していない。
1年の頃にもいた気がするけど、気にも留めていなかった。
だけど、今年も桜が咲き始めたら、見たことある子が毎日のように居る気がするので、2年になった今年、初めて彼女の顔をちゃんと見てみた。
そしたら、あまりにも自分の好みで、それ以来毎日彼女の顔を見るのが楽しみにで仕方なくなっていた。
今日も彼女に会えるだろうか?
今日最後の授業となる数学の時間、彼女の事を考えて、思わず顔がほころんでしまう。
すると、前の席に座っている緒方が振り向いてきた。
ちょっと訝しげの顔をするとあきれたように声を掛けてくる。
「おい、神田お前なんて顔してんだよ。数学がそんなに好きか?」
そんなに変な顔をしていただろうか?
緒方とは高校に入ってから仲良くなった。
帰宅部の俺とは違い、緒方はサッカー部に所属しているため、緒方とは中々一緒に帰れない。
そういえばと、ふと思い出し、緒方に質問を投げかける。
「なあ、お前さ、帰るとき桜並木通るよな?」
あまり一緒に帰らないから、すっかり忘れていたが、緒方とは桜並木が終わるまでは帰り道が同じだった。
「桜並木?ああ、通るけどそれがどうした?」
「あのさ、その桜並木に紺色のセーラー服着た女の子がよく立ってると思うんだけど、お前見たことある?」
「紺のセーラー服の女子?んー、そんな子いたっけな?」
緒方は眉間にしわを寄せ、顔を傾け思い出そうとしている。
「俺が帰る頃にはもう真っ暗だからな。見たことないかも」
確かに、授業が終わったらすぐに帰る俺とは違って、緒方は部活の後にも片づけやらなんやらで桜並木を通るときは早くても、俺より3時間は遅いだろう。
「そっか、その時間にはいないのか…」
緒方も知っていれば、何か彼女について情報収集できたかもしれないが、知らないんじゃしょうがない。
「なんだよ神田、お前その桜の所にいる子が気になるのか?」
緒方は面白いネタを見つけたとばかりにニヤニヤが止まらなくなっている。
「別にそんな事ねーよ。。。ってわけでもないけど」
「おっ、なんだよ素直じゃねえか」
正直、自分でもただ見てるだけという事に最近もどかしくなってきていたのかもしれない。
それと同時に、緒方にも意識してもらえれば、彼女を見かけたときに何か情報を貰えるかもしれないという気持ちと、俺が一目ぼれした彼女を見たときに、緒方も一目惚れをしないとも限らないという牽制する気持ちが思わずぽろっと緒方に話させた。
「まあな」
きまり悪くて緒方から顔をそらしながらこたえる。
「とりあえず、詳しく聞かせてもらおうか」
逃がさないよとばかりに、緒方は俺の肩に手を置き、顔を近づける。
「お前授業聞けよ…。まあ、いいけど」
俺は緒方へ、去年から彼女が桜の咲いている時期にだけ毎日のようにいること。
今年へ入ってから初めて彼女の事を意識したこと。
帰りの時間にだけ立っていることを話した。
「なんだよ、毎日いるなら、お前話しかけてみればいいじゃん」
話しを聞き終わった緒方はあっさりとそんな事をいってくる。
「そんな、簡単に声かけられてたらとっくにかけてるよ」
自分でも言うのもなんだが、自分の外見がそんなに優れていないことくらいはわかっている。
背は別に高いわけでもなく、クラスでも平均くらい。
顔だって悪くないとは信じているが、良いわけでもない。
髪を染めているわけでもないし、別に制服だって与えられたものをそのまま着用しているのでチャラいというわけでもないが、目を引かれるようなところもない。
髪の長さは学校の規定通り、耳にかからないように理容師にお任せで切ってもらっている。
つまり、自分の外見を一言で表せば、平々凡々という感じだろうか。
そんな自分が、一目ぼれをする容姿を持っている彼女に話しかけるなんて、どれだけ勇気がいることか。
「お前な、お前が見て可愛かったってことは、ほかの奴が見ても可愛いってことだろ?そんな子ほっておいたら、すぐに誰かにもってかれるぞ?」
緒方は少なくとも俺よりはカッコイイと思う。
だからそんな事が簡単に言えるのだ。
サッカー部でも次のエースは緒方だと言われているくらいプレーも上手い。
学年1カッコイイわけではないと思うが、それなりに容姿もよく、サッカー部でも注目されていて、女子にもファンがいるとか。
そんな緒方だから、すぐに声を掛けるという発想に持っていけるのだ。
「それとも、お前ってブス専だったっけ?」
「んなわけないだろ!」
自分の事というより、なんとなく彼女をバカにされた気になってしまい、思わず声が大きくなる。
「おい!そこ!さっきから何してる!」
俺の声で先生にバレてしまいおもいっきり注意されてしまった
「なら、なおさら早く声かけろ」
緒方は小声でそう言い残し前を向いた。
確かに、緒方の言う事もわかる。
俺がこんなに気になっているのだから、きっと他にも気にかけている男子がいるだろう。
というか、そもそも彼女がフリーとも限らない。
考えだしたら、なおさらもやもやしてきた。
声か。。。
果たしていきなり声なんてかけて大丈夫なのだろうか?
かけるにしても何て言えばいいんだ?
いつもそこにいますね?
桜が綺麗ですね?
どこの高校ですか?
俺近くの高校で…。
ってどれもしっくり来ない。
今まで知らない女子に声なんてかけたことないから、自分のボキャブラリーのなさにがっかりさせられる。
というか、そもそもクラスの女子とすら用が無ければろくに話せないのに、知らない女子に話しかけるだなんてハードルが高すぎる。
もやもやしたまま残りの数学の時間を過ごすことになってしまった。
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