第7話 雪女 終

状況を整理したい。


学校ではやたらと素っ気ない態度で少なくないダメージを僕に与えた、笠置さんが玄関先でニッコニコで立ってらっしゃる。


結構遅い時間だ。

少なくともこの田舎の真室川においては、十分に深夜扱いされかねない。



何よりもニコニコしてるのに、圧迫感がハンパじゃない。

威圧感とでも表現したらいいのか・・・。


「えぇと。笠置さん、こんな時間にどうしたの?昨日忘れ物したとか・・・」


後から聞けば何とも気の利かないセリフである。

だがしかし、今の僕にはコレが限界だったんだよ・・・。


「とりあえず上がらせてもらっていいかな?守くん」


あ、なんか青筋の幻影が見えた気がする。

僕何もしてないよね???


とりあえずは笠置さんを部屋に通してお茶を出しておこう。


僕の先導を待たずに僕の部屋へ入り、まるで当たり前のようにベッドに腰掛ける。

イカンよコレは。

妙にドキドキする。いや、ソワソワ?

とにかく名状しがたい気分というヤツだコレ。


「お茶持ってくるから少し待っててね」

「お茶よりまずはこっち来て守くん」


ストップかけられた。

笠置さんは自分の隣をポフポフと叩いている。

そこに座るの?めっちゃ近いよ?


確実にお互いの膝とかフトモモとか肩とか腕とか接触するレベルで近い!

仕方ないので30cm程開けて座ると、即座に詰められる距離。

顔が真っ赤になってるのが自覚できる。

笠置さんの方を直視出来ない!


「あの・・・笠置さん?」

「律」

「へ?」


間抜けな声が出ても仕方ない。

だって僕は年齢=彼女居ない歴のDTだ。

可愛い女の子にぴったりくっつかれてるだけでも九蓮宝燈テンパイくらいなのに!

ゴメン少しでいいから泣いても良いかな?


「律って呼んでよ・・・彼女なんでしょ?私は」

「ファッ!?」


衝撃である。

え、むしろ付き合ってくれるの僕と?

笠置さんが?


「そんな顔してどうしたの?」

「ええ・・・いや、彼女って・・・えええ」

「結婚前提で付き合ってって言ってたよね?私はそのつもりになってるから」

「マジっすか。え、いや待ってホントに?」

「なんならどれくらい本気か見せちゃおうか。お風呂入ってきていい?キセイジジツって重要だもんね」


フロ!?既成事実って何をするの!?

ナニをするつもりなのか!?

ヤバイ混乱してきた・・・っていうか笠置さん軽くないそれ女の子にとって大切な感じのヤツじゃでも僕だって男だしくぁsうぇdrftgyふじこlp。


って笠置さんもう居ないし!

あ、シャワーの音だ・・・ってマジか!

お・・・大人の階段登っちゃうの?僕が?


あ、笠置さんタオル持ってるのかな・・・。

いや、それどころじゃない!?

タオルも重要だけど!持っていくけど!


脱衣所までタオルを持ってきたは良いけど、とてもドアを開けることができない。

だってシャワー浴びてるんだよ笠置さんが。

脱衣所というクッションを隔てた風呂場で。

僕が脱衣所に入ったらガラスの引き戸しか隔てるものはないんですよ奥さん!


まあ、覗く勇気なんてないんですけどね・・・。


「笠置さん、タオルここに置いてr」


ガラッ!


目の前には可愛らしく頬を膨らませた笠置さんがいた。

当然タオルで隠れてる訳もない・・・一糸まとわぬとはこの事か。


おそらく僕の手では収まらないであろう豊かな膨らみや優美な曲線を描くクビレ、丸みを帯びた女性らしさを主張する腰つき。

要は全裸。ハダカ。


ってダメじゃん今すぐ視線そらさないとおおおおおおお!


「律って呼んでって言ったのに!!」

「そこ!?」



湯だった脳みそで部屋に帰ってきた僕は魂を口から吐き出しているかのように、ボーっとしていた。

脳内HDDはさっきの映像をヘビロテ中で他のことを考えてる余裕もない。


と、その時部屋の外から足音が聞こえてくる。

足音が近づくにつれて僕の鼓動も早まってくる。

そして開かれるドア。

現れるのは・・・タオルのみの笠置さんって何で!?


「ちょ・・・かさg、律さん何でタオル巻いただけなの!?」


一瞬で細められた彼女の視線に負けて、名前を呼んだけどそれどころじゃない。

隠しきれてないよ!その立派なお胸様とかムチムチしててもうアレなフトモモとか!

そんな僕の意図を込めた言葉はアッサリと一蹴される。


「これから脱ぐんだし大丈夫。・・・もしかして半脱ぎっていうのがいいの?」


鼻血噴きそうです。

だってこんな事を言いながらまたピッタリとくっついて来るんだもの!

生の感触が凄くて唾を飲んだ僕を誰も責められまい。

愚息が反応したことも見なかったことにしてほしい。


「あのね・・・急いで守くんに会いに来たからアレ、持ってないの・・・でも初めてだから・・・記念の日だから今日だけ・・・」


俯いて耳まで真っ赤に染めながら・・・もう辛抱出来ません・・・。

電気を消して、沸騰した頭で考えながら彼女の両肩に手を添える。

ゆっくりお互いの顔が近づいていって・・・彼女が目を閉じた。




そこから先は二人の時間だから勘弁して欲しい。

痛みに慣れたらしき彼女が意外と肉食系だったとだけ・・・。




                ∽


翌朝、目が覚めると隣には僕の腕を枕にした笠置さんがいた。

・・・名前で呼ぶのに慣れないと怒られるな。


満たされた気分で律さんの髪を撫でていると、ゆっくりと目を開けて微笑んだ。


「おはよう守くん」

「おはよう律さん」


気恥ずかしさをはにかみで誤魔化しながら二人慌てて登校の準備を始める。


もちろんの事、登校時も一緒だった。

互いに照れながら手を繋いで、腕を組んで学校まで。


あー、順番がおかしい気がするけど、もっと知りたい。

全部知りたい。全部知ってほしい。僕が今どれほど幸せを感じているのか。


身体を重ねただけでここまで気持ちが一変するなんて僕がオカシイのかもだけど、何があってもこの人と一緒に歩いていきたいと強く思える。



そうかー。これがリア充ってヤツなのかー。

脳内お花畑で教室まで行くと、僕達が入った瞬間に静かになり。


爆発的にざわめきだした。

何だろう?

皆の視線が腕の辺りへ・・・あ。


腕組んだままでした。

僕は瞬間湯沸かし器よろしく、一瞬でゆでダコの如くなり律さんは平然と腕組みのまま歩く。


席が遠いため、仕方なく腕を離した。

しぶしぶというのがピッタリな表情で。

可愛すぎか。


トドメを刺すかのように、頬に柔らかい感触。

女子の黄色い声と男子の怨嗟の声が響いてシャレにならない。


律さんが手を叩くと再び静になったが・・・律さん何する気だ・・・。


そんな心配などお構いなしで彼女はクラス全体に宣言した。



「私と守くんは昨日から結婚前提でお付き合い始めました。お互いに浮気はしないと固く誓ってますので、よろしくお願いします」


爆弾である。彼女の発言も教室内の騒がしさも。

僕は嫉妬のあまり暴徒と化した同級生達に殺されるんじゃないかな・・・?



この日、学校が震撼したのは言うまでもない。

そして僕は、雪女(の末裔?)の本気を思い知らされたのであった。

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