第6話 雪女 3 Side律
顔が真っ赤なのが自分で分かる。
どうしてか涙が滲む。
今日会ったばかりの男の子に告白されたっていうかプロポーズされたっ!
その人の前でネコの妖怪に淫乱みたいに言われて何も考えられなくなった。
何で?私はそんなに心を揺さぶられるとは思っていなかった。
転校してきて初日。
しかもそれまでほんの少ししか会話もしてない。
好意だってそれまではゼロではなくても他の人と同じで「クラスメイト」の枠から外れない程度の相手だったはずなのに。
気がつけばプロポーズ(?)されて明らかに意識が同級生から異性に切り替わっていた。
良いでしょう、認めましょう。
正直言って、もう他の同級生と同じにはできないレベルで好意を持っている。
それは間違いない。
はしたない女とは思われたくない。
もう思考がグチャグチャで考えがまとまらない。
ただただ思えるのは「嫌われたくない」だけ。
嬉しかった。あんなのズルい。今の私にとってはクリティカルに心を鷲づかみされるような言葉。
あんな事を言ってくれたのは私の人生で彼一人だけだった。
告白されたことは何度かあるけれど、その言葉には心が動かなかった。
なのに
「結婚を前提に僕の彼女になってください」
この言葉だけで私の心はとんでもなく揺さぶられた。
動かされたなんて生易しいものでは無かった。
ずるい、ずるいずるい!
一言だけで私をこんなにするなんてずるいよ安倍君。
普通なら気持ち悪いとか思っちゃうようなセリフのはずなのに。
それに私の見た目を全肯定してくれた・・・。
私の容姿は結構目立つし、嫌われる時はアッサリと相当なレベルの嫌悪感を持たれる。
転校前の学校ではクラスの大半が私を嫌ってイジメていた。
多分に私の性格もあったと思うけど、辛かった。
毎日泣いていた。
気にしないように気を張っていてもどうやったって傷つくのは仕方ない。
どんな相手だろうと自分の人格を全否定されるのはツライでは済まない傷を私に残した。
事態に気付いた学校や私の保護者は迅速に手を打った。
解決には程遠い手ではあったけど少なくとも私には解決と言えた。
私をその学校から排除するのだ。
そして私を知る人がいない所へ追いやるのだ。
正確には転校させた。
私の趣味を知っているからこそ、せめてもの配慮だったのだと思う。
イジメを受けていた私の唯一の趣味は世の中の不思議を知ること。
非日常を知ることで、現実逃避していたのかも知れなけど。
今の学校に転校してきて驚いたのは、その規模の小ささと皆の大らかさ。
私の髪や目を見ても、驚きはしても嫌悪の表情は無かったように思う。
その中でも特に目を引きつけられる人がいた。
時間が経ってもやっぱり目で追ってしまう。
正直異性としては大した人ではないと思うけど、どうしてか変な感じを受ける。
彼自身の気配的なものに別な・・・あえて言えば人間じゃないナニカの存在が被って感じられる。
だから気になるんだと思う。
放課後、勇気を出して話しかけてみた。
ものすごくビックリしていた。
今思えば彼は私を見たときから女として強く意識してくれていたように思う。
隣を歩いていても顔を赤くしているのがハッキリ分かる。
きっと私も似たようなものだったと思うけど。
・・・もしかして私もこの時から意識は出来ていたのかも知れないかな。
家にも入れてくれた。
大丈夫なの?
鍵もかかってなかったし警戒心なさすぎない?
私を信じてくれてるってことなのかな?
この後、私の人生を大きく変える出来事が2つもあったけど。
どちらも嫌なことではなかったけど。
とにかくっ!
私は今、走っている。
泣きながら走っている。
だって、思われちゃったかも知れない。
「ああ、このコは淫乱で誰でも良いって女なのか」
とか!
絶対イヤだ。
嫌われたくない。
・・・こんな短時間で「どうせなら愛してほしい」なんて私はチョロいのかも知れない。
家に着いてからも安倍君に言ってもらった言葉に身悶えて、タマに言われた言葉に泣いた。
万一安倍君に嫌われたりしたら・・・私は引きこもるかも知れない。
翌朝の目覚めは最悪だった。
夢の中で何かあったような気がするけど思い出せない。
ただ、鏡を見たら泣きはらしたような状態だったからきっと寝ている間に結構本格的に泣いていたのかも知れないな。
何とか学校に登校はしたけど、なんか安倍君の事しか考えられない。
HR少し前になって安倍君が登校してきた。
怖い。昨日のタマのせいで私が誰でも良い女だって思われていたらと思うと笑顔になれない。
「「おはよう」」
挨拶は何とか出来たけど、安倍君・・・顔が引きつってた。
やっぱり・・・嫌われた・・・?
その後はもう何も手につかず、気がつけば放課後だった。
安倍君が話をしたいって言ってくれたけど、私にはそれを聞く勇気がもう無かった。
だから断ったんだけど・・・安倍君、凄く寂しそうな顔してた。
胸の奥が痛い。
ダメだ。私にはこの痛みに耐えられない。
だから、ゴメンね安倍君。
二人の、二人だけの秘密にしようと思ってたけど相談しちゃいます。
ごめんなさい。これだけは許してね!
相談したのは前の席の渡辺さん。
茶髪で明るくて女子の中ではリーダー格の人。
「渡辺さんちょっと良いかな?」
「良いけど・・・安倍の事?話しかけられて嫌だったとかならウチから釘刺そう か?」
あれ?そうじゃないんだよ渡辺さん。
「ここだとちょっと・・・二人だけで話したいかな」
「・・・おっけ。周りには聞かれたくない話ね。じゃあウチの家に行こうか」
そう言ってくれた。
それなら安心だよね。
これは私と安倍君の「思い出」だから出来るだけ知られたくない。
渡辺さんの家は結構大きかった。
洋風で新しい。
その二階の洋間が彼女の部屋だった。
いかにも女の子って感じの可愛らしい部屋。
全体的にピンク色でまとめられている。
テーブルを挟んで渡辺さんと向かい合って相談は始まった。
「そんで話ってどんなの?安倍に釘刺すなら簡単だよ?」
「違うの。安倍君がイヤとか嫌いとかじゃないの」
どうやら渡辺さんはさっきの私達のやりとりで、私が安倍君に話しかけられて嫌がったと判断してるみたい。
「実はね・・・」
私は妖怪関係の話を誤魔化しながらプロポーズされたことを婉曲に話した。
渡辺さん的には私が安倍君の家に上がり込んだ事自体が衝撃的だったようだ。
確かに男の子の家には気軽に入れないよね・・・。
「な・・・なるほど。うん。意外ではあったけど・・・そんじゃあ嬉しかったんだ?そんなセリフがイヤじゃないならハッキリ言って笠置さんは安倍の事結構好きなんだと思うよ~?」
話し始めと違ってからかうような感じでそんな事を言ってきた。
渡辺さん、勘違いしてるよ。
私は結構どころじゃなくて安倍君を・・・。
でもそんな事言えない。
・・・コレも雪女の血が関係してるのかな?
そうだとしたら私はもう安倍君を伴侶として決めちゃったって事なのかな?
でもそんな私に渡辺さんが衝撃的な事を言った。
「あ~。でも安倍ってそんなにメンタル強くないし・・・さっきので相当へこんでそうかな。もう諦めてたりするかもだね」
・・・え。
諦める?安倍君が私を諦める?
ダメだよそんなの。
私が本気になってるのに・・・。
「どどど、どうしよう渡辺さん!?」
「ちょ、落ち着こうよ笠置さん!すぐフォローしたら多分大丈夫だから!」
私はみっともなく取り乱した。
だって安倍君が私を諦めたら・・・私はきっと生きていけない。
大げさじゃなくそう感じる。
「どうしたら・・・」
「あはは・・・なんだ~。笠置さんガチなんじゃん。泣かなくても大丈夫だって!ウチには安倍の良さとかちょっと分かんないけど、少なくともアイツはそこまで薄情じゃないし。ヘコんではいても笠置さんを嫌いになるとかマジ有り得ないから!」
「なんでそう言えるの?」
「ガキの時からの付き合いだからね~。アイツウチに告白して振ってもしばらくは諦めなかったし!」
「ええぇ!?」
渡辺さんに告白したの安倍君!?
・・・あ、なんか安倍君に理不尽な怒りが・・・。
「笠置さん、そんな怖い顔すんなって~。子供の頃の話だからw」
ああ、そういうことなんだ。
今の嫉妬なんだ。
返事もしてないクセに嫉妬したんだ。
なにこれ。
私本当に本気になってるんじゃない。
こんなにチョロい女だったのか私。
「そ、それでどうしよう渡辺さん」
「簡単じゃん!今からアイツの家に押しかけてイチャイチャしたらソッコー落とせるって!」
「・・・ありがとう渡辺さん。こんな時間まで」
「いいて事よ~。友達の悩み相談とか普通じゃん」
ありがたい事に彼女はそう言って私の背中を押してくれた。
そして今、私は安倍家の家の前でインターホンを押した。
笑顔が抑えられない。
もうすぐ安倍君に会える。
オカシイかな?
出会って二日目でこんなに誰かを愛しちゃうのって。
普通じゃないよね?
でも良いんだ。
私は雪女の血を引いた人間だもん。
相手を決めちゃった雪女だもん。
覚悟してよね安倍君。
こうなった雪女は一途で重いんだからね!
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