第5話 雪女 2 Side安倍
不思議な話もあったものである。
君にも経験があるのだろうか?
まさか家で飼っているネコが妖怪だったり転校してきた女の子が妖怪の血を引いていたり、その女の子に何故かプロポーズじみた言葉を言ってしまったり・・・!
うあああああああ!
明日、笠置さんにどんな顔して会えば・・・。
それにタマのせいで笠置さんは「一途で尽くすけどそうなる前には誰でも良い淫乱」みたいな話になってしまった。
ショックだったようで、本人である彼女自身がそれを否定して家を出ていってしまった。
僕のようなヘタレが追いかけてどうこうできる訳もなく、笠置さんはそのまま帰宅したと思われる。
笠置さん・・・ウチのバカネコがゴメンナサイ!
そんでそのバカネコはと言えば、今は僕の布団でゴロゴロしている。
暢気なものである。
流石の僕でも文句の一つも言いたくなるというものだ。
「タマ?笠置さんに謝ってくれよな・・・僕は明日どんな顔して彼女に会えばいいんだよ~・・・」
「謝るとは何に対してかの・・・ワシは謝るような事は言っていないと思うが・・・」
「言ったろ。淫乱とかなんとか・・・」
正直言ってこのセリフはDT且つ割りと引っ込み思案な僕にはなかなか恥ずかしい言葉なので赤面ものの発言だ。
というかもっと恥ずかしいセリフを笠置さんに言ってしまっている訳だが。
返す返すも恥ずかしい!
なんであんなことを言ってしまったのか僕のおバカ!
結局、その日はタマに構いながらモンモンとしてしまい寝てしまった。
「大丈夫じゃ守。あの娘はお前からは離れんよ・・・」
意識を手放す直前に、そんな声を聞いた気がした。
∽
翌朝、目が覚めると既にタマの姿は無かった。
それに登校の準備で忙しく、タマを探している余裕もない。
あっても最早どう抗議したらいいのかも分からずにいるので精神的にはホッとしている。
さて、それよりも僕はこれからどうするかという問題がある。
これからも「妖怪」と関わるのか?
というものだ。ぶっちゃけコレはもう腹を決めているのでそう大きな問題でもないのだが。
そんなことよりも
「これから笠置さんとどう向き合うのか?」
これが大きい。
何せ僕は笠置さんにプロポーズとしか受け取りようのない事を言ってしまった。
悩むなという方がムリである。
間違っても今のように食事しながら悩むべきことではないのだが、仕方ない。
どう言い訳しても、過去は取り消せないし学生の朝は忙しいのだ。
登校はしなくてはならない。
悩める時間を睡眠に充ててしまった僕が悪い。
ツラツラと半端に考え事をしながら洗い物をしたのが悪かったのか、包丁を洗ったときに手を負傷してしまったので更に準備に時間がかかってしまった。
大急ぎで身支度をして家を出たのが7:45頃になってしまったのだから呆れるものだ。
起きたの6:00くらいだったんだぞ・・・。
徒歩で駅まで向かい、何とかバスに乗り込み一息。
遅刻はせずに済みそうだ。
・・・あれ。僕は何か重要なことを忘れてはいないか?
学校関連で何かあったような・・・。
(その時の僕は結局思い出せずに教室まで来てしまったのだが、思い返せばそれが良かったのも知れない。
「ある人物」を無用に警戒して不快感を与えずに済んだ。
もしそうなっていたら現在の僕は無かったかもしれない。)
教室にはもう大体の級友が揃っていた。
もちろん彼女も登校して来ていた。
僕の心臓が跳ねて、音が皆に聞こえるんじゃないかと思ったほどだ。
きっと顔は真っ赤だったのではなかろうか。
それでも・・・
「「おはよう」」
挨拶は交わすのだが。
でも、笠置さんの表情は普段通り。
他のクラスメイトとの挨拶と何も変わらない。
・・・ゴメン。少し落ち込んでも良いだろうか。
あんな事があってすら意識されない程度とは、僕のモブとしての能力は桁違いなんじゃないかね。
少なからずショックを受けて席に着くが薄い笑顔を貼り付けていたと思われる。
まあ、友達と雑談していて多少は気が紛れた。
チラチラと笠置さんを見てしまったが、全く僕を意識している様子は見られない。
やはり僕は「その他大勢」なのだろう。
有象無象が多少目立つ発言をした、程度の影響しかなかった。
と、解釈するしかない。
もしくは転校前の場所ではそんな程度のことは気軽に聞いていられるような所だったのかも。
何があろうとも時間は進むらしい。
心ここにあらずな状態でもいつの間にか放課後になっていた。
ほぼ無意識のうちに学校をこなすとは、なかなかに優秀な学生ではないか?
・・・いかん。現実逃避している場合ではない。
昨日のタマの発言を謝罪せねば。
「笠置さん少し良いかな?」
震え声である。
何度も言うが、僕はモブだ。
周囲に人が居るのに、異性に話しかけるようなアクティブさは早々無い。
「え・・・と。ごめんなさい。
変な噂とか立っちゃうかも知れないしちょっと・・・」
心底困った表情で返ってきた言葉は僕の豆腐メンタルを一瞬で破壊してくれました。
周囲にいた連中からは冷やかされ、悪意なくニヤニヤ笑われ非常にいたたまれない。
顔を真っ赤にしながらいつもの薄い笑顔を貼り付けて、教室から逃げた。
部活?知らんがな。
こんな精神状態で何をしろというのか。
むーりーでーすー
寄り道すらできずに帰宅して、晩御飯の用意して掃除をして部屋に閉じこもって布団に潜り込んでもどこからも文句は出まい。
ノロノロと食事と入浴を終えて部屋に戻ったのは夜の9時。
教師に出されたらしい宿題を終えて、もう寝ちゃおうと思ったときにチャイムが鳴った。
こんな時間に誰だろうか。
田舎ではこの時間の訪問者は珍しい。
疑問に思いながら玄関に行き、扉を開けると。
そこには街灯に照らされた銀髪をなびかせた笠置さんが立っていた。
有り得ない程の笑顔である。
教室での素っ気なさ、あの困ったという態度からは信じがたい。
「こんばんわ安倍君。
こんな時間にゴメンね?」
僕には彼女を理解するのはなかなかに難しいようだ。
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