第4話 雪女
やっちまった。
何を?
もちろん黒歴史確定モノの発言である。
普通のモブ系男子が口にしないような小っ恥ずかしいプロポーズまがいの発言であるよコンチクショウッ!
本心には違いないのだが、目の前で真っ赤になって俯いている笠置さんを見ればどれほどのやらかし具合か判ろうというものだ。
何故かプロポーズしてしまった僕と笠置さんはフリーズ状態のまま僕の部屋で二人きりなのだ。
意識してしまったらもうダメだ。
ほら、ウチの飼い猫のタマも僕達をジト目で見ている・・・気がする。
と、突然笠置さんがタマの方をクリンッと見た。
っていうか凝視している。
そしてそのまま僕に向けて言った。
「この世ならざるモノの気配っていったでしょ?
感じるの。この猫から・・・」
・・・えーと。
タマがその・・・妖怪とか魔物とかそんな感じのヤツだって言ってるんだろうか??
「あはは・・・そんな訳ないよ笠置さん。だってタマはウチの曾祖母ちゃんの代からの飼い猫だよ?そんな変な生き物じゃないよ~」
そうだよ、オカシイ事なんてないよねぇ?
あれ・・・ないよね・・・。
強烈な違和感を覚えて何気なく視線を笠置さんからタマへ移す。
うん。いつも通りの三毛のメス、2本の尻尾。
普通のネコだ。
・・・また感じた。さっきよりもずっと強い違和感。
「安倍君・・・ネコは普通そんなに長生きしないよね?」
笠置さんから言われた言葉で絡まった糸のような不安感を伴った違和感が一つ、消えた。
そうだ。
僕はさっき何と言った?
曾祖母ちゃんの代からの飼い猫だと言ったはずだ。
有り得ない。
ネコの寿命は平均でも4~5年程度のはずなんだ。
長生きしても10年とかそんなものだろう。
対して曾祖母ちゃんの代からならもう100年は超えている。
その時点でタマは・・・普通のネコとは一線を画する生命体ということになる。
紛れもなく「この世ならざるモノ」だ。
そこまで考えが至った瞬間、もう一つの違和感の正体に気がついた。
ネコには普通、尻尾は1本しかない!
僕は笠置さんを見て、彼女もまた同じ考えに至ったと推測した。
そして二人でタマを凝視・・・もとい。
タマもこちらを見ているから睨み合うことになってしまった。
そんな中、肝心のタマは大きく欠伸をした後で
「ふぅ・・・とうとう理から外れてしまったかの」
と、若々しい女性の声で喋った。
喋るネコというあまりの事態に僕は完全に凍りつき、笠置さんは何故かその瞳を輝かせて
「タマちゃん!タマさん?理って何!?アナタは何者なの!?他にもアナタみたいな存在は居るのかしら!?」
タマがドン引きする勢いで詰め寄っている。
「ええい、離れんかッ!ワシはタマじゃぞ!偉大な猫又なんじゃぞ!」
と、僕の背中に隠れながら律儀に答えてあげていた。
「良いか?理、と言うのは簡単に言えばお主等人間たちの強固な意志が産み出した世界の決まりごとじゃな。
妖怪だの幽霊だの精霊だのはみんな迷信。だって科学で証明出来ないじゃないか?
と言う訳じゃ。
この通り、妖怪は居るし幽霊なんてその辺りをお気楽に漂っておるし、精霊なんぞ掃いて捨てるほどおる。
科学なんぞと言うものは所詮人間が世界を一定レベルで観測するための方法に過ぎんのじゃがなぁ」
「人間の意志ってどういうことだよ?世界にはオカルトめいた事を信じてる人だってたくさん居るじゃないか」
「それはあくまで少数派じゃろう?守だってさっきまで妖怪なんぞ信じておらんかったじゃろうに。
そのくせ
モニターの中のオナゴはお主とは結婚出来ない上に不特定多数の男どもに媚を売るようなモノではないかぇ」
コイツ・・・!サラッと僕のオタク趣味を暴露した上に二次元美少女をビッチ扱いしやがった!!!
ちなみに僕はフルネームが安倍 守だ。
男の(ry
笠置さんの視線が僕に突き刺さる!
僕の被害妄想ではあるのだろうが。
単に僕の方をジッと見つめながら考えを巡らせているようだった。
「安倍君の趣味については後でジックリ話すとして、どうして急に私達がその理から外れたのか聞いてみたいんだけど・・・」
被害妄想ではなかった!?
あの冷たい目線が気のせいじゃないとは・・・おのれタマ。
今夜はカリカリと水だけで過ごしてもらおうじゃないか・・・!
「ふむぅ・・・お主はどうやらその身体に流れる血の影鏡かの。
どこかで雪女の血が混じったのじゃろうな。
その影響で、理の綻びを本能的に察知できておったんじゃろうよ」
何か聞き捨てならない単語がタマの発言にあったような・・・雪女って・・・。
それはやはり笠置さんにしても同じだったらしい。
タマに食って掛かった。
「雪女!?私が妖怪だっていうの?そんなわけないわ!だって夏だって普通に過ごせるし熱い食べ物だって平気だもん!」
「大きな声を出すでないわ全く・・・誰もお主自身がとは言っておらんじゃろうが。
あくまでも何世代か前に雪女の血が混じったというだけの話じゃ!」
「なるほど。それだけ血が薄まっていれば世間に知れ渡ってるような弱点も無くなってるだろうって事か・・・?」
「そういう事じゃな。守はやはり賢いのう・・・さすがワシが面倒を見てきただけのことはあるわい」
なんか近所のおばあちゃんが言いそうな事を言い始めた。
そんな若い声で、しかも妙齢の女性の声でそんな事を言われても戸惑うしかないし、何よりも笠置さんの視線が怖いです。
「ゴホン・・・そんな事よりなんでタマは笠置さんが雪女の血を引いてるって思ったの?妖力とかそんなの??」
「いんや。その白髪にその瞳、正に雪のような柔肌・・・どう見ても雪女の特徴じゃ。
恐らくは外見だけが色濃くも隔世遺伝したのが原因じゃろうな・・・」
隔世遺伝?
あー・・・ご先祖様の特徴とかが何世代か後の子孫に現れるっていうアレか。
うーん、しかしこの雰囲気は重い。
苦手な感じだ。笠置さんなんてさっきからダンマリしてるし気まずい・・・。
「じゃがそのおかげでワシは少し安心しておる。
守がその娘と結ばれれば将来は子沢山間違い無しじゃからの~。
安倍家は安泰じゃ!」
またぶっこみやがった!
これに何故か笠置さんがいきなり食いついた。
「子沢山・・・そうなのかしら?
言い伝えだともっと違うイメージなんだけど・・・」
「人間の間に伝わっておる伝承は人間に都合よく改ざんされた事実じゃよ。」
「改ざんって・・・嘘ってことなのかしら?」
「うむ。伝承よりも小泉八雲とやらが記した書物の方がより事実には即しておる。まあ、あれも多分に事実とは異なっておるが。
良いかの。雪女とは巷間言われておるような恐ろしい妖怪ではない。
穏やかでのんびりした女達じゃ。
・・・まあ、初めての男を見つけるまでは誰でも良いと言う淫乱ではあるが」
笠置さんにダメージ!
「イ、イヤ、ただしじゃぞ?心に決めた・・・というか合意の上で結ばれたのならアヤツラほどの良妻賢母は居らんからな?
情が深く、一途な連中じゃよ?
浮気したり約束をやぶったりしたら凍らされるがの」
なんで最後に落とすのかこのネコは・・・。
「そもそも八雲の話で男が凍らされたのはお雪との約束を破ったからじゃ。
他にも本人から聞いた話では、遭難者を介抱しておったら突然押し倒されてパニックになって男を凍らせたとかもあったかの。
結論としては雪女とは、お互いの合意の上で結ばれたのならば一途で情に厚くて、誠実にしておれば良妻賢母で危険性は皆無。しかも美人ばかりじゃ。
ほうほうの体で逃げ帰った男が自分の保身の為に嘘を言いおったのが巷で言われておるような伝説になったんじゃろうよ」
ふむ・・・つまりは。
「笠置さんはその雪女の性質を受け継いでるから、結婚相手としては最高だと・・・」
「そういう事じゃな。
良かったのう守!良い嫁を見つけてきおったぞ。でかした!」
「いや、まだ嫁とかじゃないし!それに恋人にすらなってないからな!?」
「まだ、ならこれからじゃなぁ?」
僕とタマの言い合いに割って入る声は動揺しきったような笠置さんのモノだった。
「ち・・・違うからね!?私、誰でも良いなんて思ってないし、淫乱なんかじゃないんだからあああああ!」
そう言うなり彼女はカバンを引っ掴むと脱兎のごとく逃げ出していった・・・。
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