第9話 投擲の威力
攻撃が通らないと分かりながらも《土槍》の魔術を放ち、後退を続けている。
この調子でノト村の外にまでおびき出せるかもって期待していたんだけど、村の出口で止まってしまい、追うのをやめてしまった。オーガにあわせて立ち止まるわけにもいかず、ノト村がギリギリ見える範囲まで後退を続けたものの、オーガは動かなかった。
「囮役は失敗しちゃったのかな?」
予想とは違う行動をするオーガに不安を抱いたのか、ナナリーさんが独り言のようにつぶやいた。
「わからん。だが、このまま動かないようなら……おい! 真ん中にいるやつ、何かを持ち上げたぞ!」
兄さんの言葉を聞いて中心にいるオーガを見ると、人の頭ほどある大きさの石を両手で掴んでいるところだった。頭にある一本ツノは赤く光り、魔術を使う兆候が出ている。
「兄さんアレは石だ!」
「投石するつもりか! 全員、木の板の後ろに行け!」
先頭にいたダモンさんが木の板を正面に立てるのと同時に、オーガが大きく振りかぶって石を投げてきた。空気を切り裂き、猛スピードでこちらに向かってくるが、直撃する前に上に反れて当たることはない。
オーガは外したのが悔しいのか、地団駄を踏んで怒っている。
こいつらに、攻撃を外して悔しがる知能はなかったはず。やはり魔術面だけではなく知能面も能力が向上しているのだろう。
「……連結付与をしていなかったら、《矢避け》の効果を突破して直撃してたね」
想像していた以上の威力に、身動きが取れない。
「そうだな。あの威力、間違いなくあいつが攻撃型の特殊個体だろう」
再びオーガの方を見ると、また投石しようとしているところだった。おおきく振りかぶり石を投げてくるけど、結果は同じ。上に反れるだけで直撃することはない。
また外したことに苛立ったのか、地団駄を踏んでいる。周りのオーガがなだめようと近づくものの、殴り飛ばされている。普通ならこの隙に逃げ出すんだけど、特殊個体をおびき出さないといけないので、動くことはできず、ただ見つめることしかできなかった。
「後ろからなんかきたぞ」
攻撃型を囲んでいたオーガを押しのけるように、一回り大きいオーガが二メートルはありそうな木の棒を担いで来た。頭上にあるツノは赤く光り輝いている。
「戦ってもいないのにツノが光ってる。兄さん。多分あれが防御型だよ」
「他のオーガを押しのける態度といい……そうだろうな。それより、あれは防げると思うか?」
防御型が持っていた木の棒を攻撃型が受け取り、二、三歩下がってから、ジャベリンを投げるようなフォームをとっている。石がダメなら木で当てようとしているみたいだ。
「……多分。念のためダモンさんと兄さんは盾を構えてて」
「おう」
「わかった」
兄さんはバックラーに魔力を通して魔術陣を起動。付与した魔術が起動してバックラーより一回り大きい膜が出現する。ダモンさんが使う盾には魔術は付与されていないので、構えて終わりだ。人が隠れられるほどの大きさがあり頑丈なので、なんとかなると思いたい。
「くるぞ!」
オーガが助走をつけながら木の棒を放った。
先ほどよりも早く、威力がある。
それでも連結付与の効果は偉大で、付与した木の板の上をかするように反れて、僕たちに直撃することはなかった。
「……なにあの威力……連結付与の《矢避け》すら突破しそうじゃない」
エミリーさんが呆然と立ち尽くしている。
バリスタですら確実に回避できるほど強力な魔術を突破しようとしているのだ。驚くのも無理はない。
あいつは、動く攻城兵器と言っても過言ではないだろう。第一次討伐隊が壊滅したのも理解できる。
「エミリー。それでも、俺たちには当たらなかった。あいつらが飽きるまで、待ってればいい」
兄さんは、エミリーさんを安心させるために言葉をかけ、頭を撫でた。それで安心したのか肩の力が抜けて、兄さんを見つめる目は潤んでいるように見える。これがイケメン力か……僕に彼女ができたらやってみよう。
その後も、農具や壺といったノト村の住民の持ち物だったであろう物を投擲してくるが、一度も当たることはなかった。そして、僕たちもただ見ているだけではなく、魔力を多めにつぎこみ威力が上昇した《土槍》を反撃として放つものの、防御型の結界に阻まれて当たることはなかった。
お互いの遠距離攻撃が当たらない。
その後、数回投擲をしてから、攻撃型はてノト村の方に戻っていた。
「ねーねー。あいつどっかに行ったけど、諦めたのかな?」
「ナナリー、さすがにそれはないだろう。ダニエルどうする?」
楽観的な発言をダモンさんが突っ込んだ。この場にいる全員が兄さんに注目をしている。リーダーの判断待ちだ。
「攻撃型がノト村の中心に戻っただけで、防御型や通常のオーガは残っている。何をするかわからんが、諦めたわけじゃないだろう。防御型がいなくなるまで、魔術を放って威嚇しながらここで待機だ」
「「了解」」
《土槍》は効かないことが分かっているので、今度は別の魔術を使うことにした。選んだのは《炎柱》。これを相手の防御型の足元に出現させるように魔力に意志を込める。空中に描いた魔術文字が消えると、防御型のオーガを中心にして魔術陣が出現する。結界が地面にまで影響を及ぼさないのであれば、炎に飲まれて死ぬはずだ。
魔術陣の出現で僕の狙いがわかったのだろう、パーティ全員が固唾を飲んで見守るなか魔術が発動する……が、炎は出現せず、魔術陣は消えてしまった。
「魔術が失敗したわけでもない……。あの結界、古代の遺跡とかに使われている、一定レベルの魔術を無効化する機能があるかも。かなりやっかいだね」
どんな魔術も無効化する魔術文字は発見されていない。でも、威力が一定以下の魔術を無効化する魔術文字はある。ただしそれは消費魔力が大きく、また、人が使う場合は身動きが取れなくなるほどの集中力が必要となる。こういった戦闘には向かない、付与向けの魔術文字だ。
「あいつのツノには。そんな魔術文字が刻まれているの?」
質問をしたナナリーさんは、謎だった結界の性能がわかったとことに喜んでいるように見えた。性能さえわかれば、攻略方法を考えることができるからだ。
「消費魔力が大きいから、オーガ程度の魔力量で常時発動するのは無理。上位互換の魔術を使っていると思う」
何度目かわからな沈黙が訪れた。
「アイツらズルくな――」
「おい。おしゃべりは終わりだ。攻撃型が戻ってきたぞ」
ナナリーさんの言葉を遮って、兄さんがパーティ全体に注意を促す。ノト村の方に注意を向けると、攻撃型が先ほどの位置に戻っていた。
「おいおいマジかよ。あいつ剣を持ってないか?」
「あぁ。間違い。あれは大剣だな……それに、防御型に槍を渡しやがった」
ダモンさんと兄さんが及び腰になっていた。
攻撃型のオーガは、人であれば《筋力増強》を使い両手で持ってなんとか振り回せそうな大きな剣を、木の枝のように軽々と片手で振り回している。恐らくは、第一次討伐隊の誰かが持っていた武器なのだろう。
「間違いなくこっちに襲いかかってくる。後退するぞ」
背中を見せないようにジリジリと下がると、それを追うように攻撃型と防御型が歩いてノト村から出てきた。
「ようやく作戦通り、おびき出すことができそうだな」
このまま追ってくると思ってゆっくりと後退を続けようとした瞬間、攻撃型が体を沈めて、勢いよく飛び出して接近されてしまった。
予想外の行動に驚いたものの、そこは死線をなんどもくぐり抜けたベテランパーティ。ダモンさんを狙った攻撃は、木の板を盾にすることによりギリギリ回避することができた。
ダモンさんがバックステップで距離を取り、兄さんが代わりに前に飛び出して、攻撃型と対峙する。一体はおびきだせたけど、防御型はまだノト村の近くにいるし、その周囲には通常個体が待機している。もう少しノト村から離さなければ奇襲部隊が攻撃しにくい。
「お前ら後ろに下がるぞ!」
兄さんもそれが分かっているようで、後退の指示を出した。
結界型の魔術は、術者を中心に攻撃を阻む膜を作る。攻撃型がここまで近づいているのであれば、結界の膜の外に出てい可能性が高い。今なら魔術を放てば当たるはずだ。
「魔術を放つから、そのうちに距離をとって!」
《土槍》の魔術文字を三つ書き、魔術陣も同様の数が浮かび上がる。魔術の複数起動だ。魔術陣から三本の《土槍》が出現して、攻撃型に襲いかかる。
予想通り結界の魔術は反応しなかったが、持っていた大剣で撃ち落とされてしまった。
「簡単に防がれると自信がなくなるなぁ」
「バカなこと言ってるな! クリス、いいから下がれ!」
撃ち落としている隙に距離をとった兄さんに怒られつつも、僕も後ろに下がる。
こちらを追い詰めるのが楽しいのか、攻撃型は走って追うこともせず、ゆっくりと歩いている。防御型も追うよにノト村から離れてこちらの方に移動してきた。
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