文系はタイムマシンの気持ちを考えるか

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文系はタイムマシンの気持ちを考えるか

 エリック・シャノンは今年から役所で働くようになった三十半ばのどこか風采の上がらぬ男である。周囲の人間に心なしか軽んじて扱われるような無難な人間で、いつも目元口元にかすかに笑みを浮かべている。意地の悪い職員にジョークなどで小馬鹿にされてもやり返すようなことはなく言葉少なに苦笑するばかりである。

 彼が所属しているのは文化部市史編纂室というところで、たいそうな名前がついてはいるがほとんどの人間には閑職とみなされていた。市史編纂室にはシャノンと、二三年のうちには定年を迎えるはずの室長の合わせて二人しか所属していない。

 室長はハーディという老人と呼ぶに差し支えない男で、人柄は悪くはないのだが別段仕事に熱心というふうでもない。少しでも退職金を増やしてやろうという幹部の温情か何かで名目だけの役職待遇になったのではないかと噂されている。

 ハーディは週のうち半分は市史編纂室に顔を見せず、役所から車で十数分ほどのところに造られた市史資料館というところで受付と案内の仕事を兼務している。資料館には地元の子供たちが年に数回だけ遠足に訪れるほかには週に一組の親子連れが来るか来ないかという有様であり、しかも直行直帰でかまわないというのだからたいそうな身分である。職員たちの間では室長殿は一日の大半を資料館の事務所でだれに非難されることもなく自由に過ごしているのだろうという話であった。

 しかしハーディはそんなたるんだ仕事ぶりのためにほかの職員たちに軽侮されるとか邪険にされるかというとそんなことはなく、なんとなれば市の文化部の部長がハーディに対して下にも置かない態度をしばしば見せるからである。例えばそれはランチの時間であったり、部長の家で催されるホームパーティーのときであったり、そういうときに部長がハーディに何か気を遣い遣い話している光景に人々は遭遇するわけである。部長とハーディは子供のときからの幼なじみであるとか腐れ縁であるとか噂されているが、当人らに尋ねても「まぁそんなところだ」とはぐらかされてしまう。ハーディ自身は部長にそのように扱われることで傲慢になることも卑屈になることもなく、課せられた仕事を必要最低限の質と量だけ至極平凡にこなすだけであった。

 ハーディは過去に何か、驚嘆すべき将来にわたる十二分な貸しに値する業績があるとか、はたまた反対に今の上層部らの裁かれざる秘密の罪を一人でかぶったか、そういう運命の帰結として現在の早い年金暮らしともいうべき不可解な境遇に到着したのではないかというのが職員たちの専らの見解である。したがってハーディ老人は役所の巨大で有機的な機械仕掛けの業務を遂行する上でほとんど寄与していないように見えたのだが、だれもが軽々しくは扱わなかった。

 そして、これもまた職員たちの噂によればシャノンはハーディの肝煎りで役所にやってきたとのことであり、であればシャノンはハーディの親戚か知己の息子か、いずれにせよハーディに近い人物なのであれば、周囲の人間はシャノンの与太者ぶりを心の中や私的な場面では嘲笑、侮辱しても、表立てた言動には出さないでいるというわけである。

 だがいうまでもないことだが市史編纂室が役所の一角で何も生み出さずに税金を食いつぶしているというのは全くのかりそめの姿であり、実際のところ――その業務の内容を知った納税者たちがよろこぶかどうかはさておき、彼らの真の仕事とはまぎれもなく歴史を正しく編纂することであった。すなわち、歴史に誤謬が含まれていればただちにそれをあるべき姿に修正していたのである。


「仕事だ」

 今日はハーディが役所に来る日だった。もっとも、ハーディはほかの普通の職員らのように朝っぱらの折り目正しい時刻に当庁するなんてことはしない。彼が役所で最初に行うのは職員専用食堂で昼食を済ませることである。それが終わってもすぐには仕事にとりかからずにラウンジでだらだらと過ごし、結局彼が編纂室のドアを開けるのは決まって午後二時となっている。

 シャノンはソファーで寝ていた。彼に与えられた表向きの仕事、市報を区画に住む人間の数にあわせた既定の部数ごとにたばねるという退屈極まりないそれを、粗雑に片付けるとあとは寝ていた。昨夜も深酒をしていた。昼を回れば市史編纂室に用がある人間なぞ彼のほかには室長ぐらいしかいないのでだれにとがめられることもない。片側の肘掛けをとっぱらったソファーに背を沈めて幻覚のような浅い眠りについていた。ハーディの声でシャノンは跳ねるように上体を起こした。

「飯がまだなんだ――」

「手持ちにあるなら食いながらでいい。なけりゃあとにしとけ。総帥閣下直々のご用命だ」

 ハーディは低い応接テーブルを挟んでシャノンの向かいに腰掛けると、胸ポケットからマイナーな銘柄のタバコを無表情で取り出した。庁舎内は全面禁煙だがこの部屋ならおおっぴらに吸える。

「やつを……カルマンの野郎のことだが……」

 その名を口に出すとき、ハーディは少しだけ言いよどんだ。気を取り直すように大きく一息タバコを吸った。先端が悲鳴を上げるように赤く燃えるとそれもすぐに生気を失った白い灰となってテーブルに並べていた市報の上に遠慮なくこぼれ散った。今月の表紙を飾っているのは小学校を視察している市長の抜け目のない笑顔だ。しかしシャノンもハーディもまるで気にしないでいる。

「やつがどうかしたのかい」

 すきっ腹に煙がしみた。シャノンは何か食い物がないかと自分のデスクの引き出しをあさったがあいにく足しになりそうなものは見当たらない。淹れたおぼえのない飲みかけのコーヒーカップに気づいたが、手を伸ばそうとしたところで数本の吸殻が浮かんでいることに気づいて顔をしかめた。

「やつを消すことが決まった。やり方については察しのとおりだ」

 ハーディの言葉に、シャノンはカロリーの物色をやめて改めて向き直した。ハーディはあいかわらず何もない部屋の壁に無表情な視線を向けたままでいたが、シャノンは意外そうな顔をした。

「へぇ。連中、ようやく覚悟を決めたのか」

「さぁな。しかしやつを消そうという話は以前からあったからさほど意外でもあるまい。それに今回は総帥閣下が珍しく口を挟んでカミナリを落とした。『いい加減、進捗を見せろ』とかなんとかな」

 吸殻を灰皿に突っ込んで手持ち無沙汰になったハーディは見るでもなく余りの市報をめくったが、心底つまらなそうに息を吐いた。

「それで科学者のやつらも腰を上げたってわけか。あの臆病な不平屋どもが震え上がる様はさぞ見ものだったろうよ」

「慎重なのさ。あいつらにもそれぞれの立場ってもんがあるんだろうからいってやるな」

 シャノンは火をつけないままのタバコをくわえて、オイルライターのフタを少しだけ開閉することを貧乏ゆすりのように繰り返して小さなクリック音で遊んでいる。

「スケジュールは?」

「明日だ」

「そりゃまた急なことで」

「今日は飲まずに真っ直ぐ家に帰れ」

「わかってるさ」


 シャノンはタイムトラベラーである。彼は科学者たちが開発した秘術と、彼自身の心技体で獲得した能力でもって、一定の制限のもと時間の流れをさかのぼり飛び越すことが可能なのである。この能力を使って彼らがいうところのあるべき姿に歴史を修正してきた。

 シャノンたちの真の仕事については、役所の人間では市史編纂室の二人のほかには部長しか知らない。その部長でさえ詳しい実態は知らされず、ただとにかくハーディとシャノンを丁重に、しかし必要最低限のやりとりを心がけて扱うようにと本部の長官から直々に指示されたに過ぎない。歴史修正は彼らの国家における最高機密で、世界中の人間全体で見てもこのことを把握しているのは二十人程度である。無論のこと彼らの国家に属する以外の人間はだれ一人として関知していない。

 タイムトラベラーが行う仕事とは、数万人に一人の天性の素質に加えて、厳しい訓練に耐え得る知力と体力、冷酷な任務を遂行できる精神力、それから国家に対する高い忠誠心、これらすべてを兼ね備えた真に傑出したエリートのみに許された代物である。

 その存在は厳重に秘匿されており、シャノンですら自分以外のタイムトラベラーの存在を明示的には知らされていない。かかわる人々の口ぶりやいくつかの設備や手続きなどから、シャノンは自分以外にもあと数人のタイムトラベラーがいるらしき気配を感じていたが、どのみち彼にとってはさほど興味のない話であり詮索はしないでいた。

 シャノンはこれまでにタイムトラベラーとしては五件の任務を果たしていた。それが多いのか少ないのかシャノンは知らない。新聞屋のセールスのように目端を利かせて自分で仕事をほじくりだして膨らませるものでもないのだから、上に「やれ」といわれたことを完璧にこなすしかしようがない。彼があずかり知らぬところで彼の仕事ぶりが勝手に査定されて、ある日突然「お前はクビだ」と指を突きつけられる日があるかもしれないが、それならそれで構わないと思っていた。そういう事態も暗に含んでいるのだろう、あるいはまた、目先のくだらない金品や功名心に血迷わぬよう、シャノンらは既に一生食うには困らないだけの報酬をもらっていた。

 破格の報酬のわりには、シャノンがこなしてきた仕事は、少なくとも彼の目からすればどうでもいいように映るものばかりであった。

 彼が最初に行った仕事とはこんなものである。十年前のオリンピックで重量挙げ種目において金メダルを取った彼の国に所属する男がいた。その金メダリストは競技生活から身を引くと自称社会運動家となり、それが嵩じて数年前から現在の政府のやり方をおおっぴらに批判する言動が増えた。とはいえ、多くの国民にとってはその金メダリストは政治の世界では色物扱いで、たいして影響力があるわけではなかった。ほうっておいたところで国や政治がどうこうなるようにも思えなかった。

 だが、かつての国家の英雄が反国家的な言動をすることが純粋な感情として目障りに映るのは確かである。命令を受けたシャノンは二十年ほど時をさかのぼり、半年ほどかけてくだんの金メダリストが重量挙げどころかスポーツでもなく全然別の分野を生涯にわたる目標とするように工作した。そうして現在に戻ってみると、金メダリストの名はだれも知らなかった。たぶん、世に名をはせることもなく多くの市井の人々の中に埋もれて凡庸な人生を送っているのだろう。

 シャノンが二十年前の世界から戻ってきたことは、タイムトラベル装置を動かしていた技術者や科学者、計画に関与した事務官たちはみな把握していた。そのことは書類上にもきちんと記されている。しかしシャノンが果たした仕事をだれも実感していなかった。そんな金メダリストなぞだれも知らないというわけである。

 シャノン以外の人間は、歴史修正とはそういうものであると既に認識していたらしく、シャノンをからかってやろうとか、シャノンの仕事を疑うわけでもなく、「私はそんなやつは全く知らんが……作戦資料(これには特別な処置が施してある)には残っているし、何よりきみが誠実な男だということもよく知っている。うまくいったんだろうな」

といった反応であった。初めてタイムトラベラーとしての任務を遂行して、予感される栄誉に高揚していたシャノンは彼我の感情のギャップにはなはだ鼻白んだ。

 だが今にして思えばその仕事はまだましなもので、ほかには五十年前のパン屋の看板を極秘裏に撤去したり、一週間前に戻ってよその国の大使館に投石をしたり、なんの効果があるのか期待できないようなものばかりであった。

 しかし、まあ、シャノンはタイムトラベラーを務める前から優秀な情報局員であり、任務の意味だとか意義だとかにたとえ個人的に疑義を抱いたとしても、そんなことはおくびにも出さず冷淡に命令に従う作法をすっかり着こなしていた。それに、情報局においては万が一局員が敵国の手に落ちたとしても、任務の全貌を暴かれることがないように命令は各部署各班各員に細切れにして伝えられる。したがってシャノンにとっては祖国になんの利益も与えないように思える無意味な内容の任務だとしても、そこから出ている細くこんがらがった糸をたどっていけば、その先にはたいそうすばらしい大物がかかっているに違いないのである。

 だいたい、タイムトラベルには現状ではかなりの人的、物的コストがかかっているのである。科学者らの無邪気な好奇心を満たすためだけにシャノンを遊ばせているわけがない。それに、これは科学者らにはさんざ念を押されているうえ、シャノン自身もそうだと得心していることだが、この世の森羅万象は悠久の過去から連綿と続く複雑なドミノ倒しで成り立っているのだ。近視眼的にはなんてこともないようなつまらない一つの小さなピースのほんのわずかなずれが、そのはるか永遠の先まで連続していたあまたの事象を、趣向を凝らした仕掛けも大仰なギミックも、何もかも全くなかったことにしてしまうのである。科学者らの複雑怪奇にしてもはや神秘の域にすら達している計算の末に実行された、あのときに外したパン屋の看板ですらなにがしか祖国の役に立っているのだろうか?


「室長、あんたは物知りだから知ってるだろうが、海の向こうのどこかの国には『風が吹けばおけ屋がもうかる』って言葉があるそうだ」

「わしらの仕事もそうだというのか。まぁ、わからんでもないがな。そいつを考え

るのはわしらの仕事じゃない。隠居してからの酒のくだまきにでもとっておけ」


 そうなのだ。これまでシャノンがこなしてきた仕事というのは最終的には何かの利益をもたらすことになっているのだとしても、率直にいって笑い話のようにまどろっこしいものばかりだったのである。だからこそ、今度の直截に過ぎる案件には戸惑いさえ感じた。

 殺しが嫌だというわけではない。情報局員としてどこに出されても恥をかかないマナーとエチケットは体にしつけられている。好き好んでするわけではないが、シャノンも情報局員として既に十人は下らない人間を手にかけてきた。非情緒的な作戦資料と報告書、体温、触感、臭い、感情といった主観を取っ払った単なる文字、記録、超然とした客観に徹した紙切れの反復、その末に繊細なうぶ毛のような神経はとっくに擦り切れた。結局は平凡なベテランのパン屋が無感情な熟練の技術でうまいパンを焼くこととなんの違いもない。

 それに、カルマンという人物は職務を離れて私的な良心を思い出したとしても祖国のために殺すに足る人物である。ああ、その名を口にするだにいまいましい。やつのためにシャノンら情報局員はいうに及ばず、少なくない無辜の人々が生命と財産をおびやかされ失った。あの男を縛り上げて街の広場にでも転がせば、勤勉な善良なる人々の手によって人類史に特筆すべきおぞましい所業が繰り広げられることだろう。惜しむらくはやつを一度しか殺せぬことよ!

 カルマンは元々は政府の側の人間であった。若かりしころは総帥と祖国の将来について一晩語り合うほどの仲でもあった。それが徐々に政府本部の方針に反対していくようになり、ついに要職を解かれ辺境の地への軟禁を命じられると行方をくらました。地下に潜伏するとシンパをつのり、反政府活動へと身をやつすようになった。

 今は文字どおり地球の裏側に潜んでいるという。シャノンらの国と敵対的な立場をとる国が多く存在する大陸へと逃れ、そこで各地の工作員たちに指令を出していると考えられている。やつのねぐらを突き止めるため、これまでに何度もかの大陸の国々へ情報局員らが送り込まれたが有益な情報はいっこうもたらされず、また、だれ一人として戻らなかった。

 一度だけ、シャノンはタイムトラベラーとしてカルマンがかかわる任務をこなしたことがある。そこで彼は総帥閣下とカルマンとの一つの歴史を修正した。前の大きな戦争の犠牲者たちのために建てられた慰霊碑をバックに、愁いを帯びた表情の若い二人が並んで立っている有名な白黒写真がかつて世界にあった。シャノンは三十年ほど時をさかのぼると二人の旅行鞄からカメラを掠め取ってフィルムをだめにして、その写真をなかったことにした。今の正しい世界に二人の因縁を示す物的証拠はもはや存在していない。


 翌未明、シャノンは指定された場所へ指定された時刻に行った。指定の部屋には顔なじみの科学者が二名、それから事務官が一名待っていた。事務官は規則に従ってシャノンの指紋と網膜のデータを取って本人確認を行った。認証が通らない場合、この事務官にはやってきた正体不明の対象を誰何もなしに即座に射殺してもよい権限が与えられている。これまでに誤認証が起きた前例がないとはいえ、感情を馴らすことに長けた情報局員とてさすがにいい気はしない。

 シャノンは科学者からタイムトラベルのための装置を受け取り、事務官から新たな作戦指示を口頭で受け取った。直ちにまた別の場所に移動しなければならないようだ。

「装置は全部調整済みです。使い方も変わりません」

「どうも」

「よろしいか、エリック・シャノン。あなたの任務は約二十八年前に戻り、そこでカルマン……すなわち、ボリス・カルマンを殺すこと。目的のタイムトラベルに適したワームホール出現位置はA山頂上付近、正確な場所は例のごとくGPSに表示される。いまから三時間以内には起点への移動を完了しておかなければならない」

「拝承」

 これも六度目かと無意識に数えつつも、そのうち数えることをやめるんだろうなとシャノンは思った。受け取った装置は軽く触った感じではどれもきちんと動いている。ダブルチェックにトリプルチェック、それに白のソックスが好きなあの事務屋どもが、頭脳明晰な科学者度どもに心底うんざりするほど確認させたのだろうから間違いはない。

 科学者らと別れ、シャノンはすぐに目的地へと向かった。時間を考えると、丁度、山頂付近で朝日が昇るところを拝むタイミングになるようだ。この星に知的生命体が誕生してから気が遠くなるほど繰り返された光景でありながら、その実、宇宙開闢の瞬間を始祖とした一方向の物理現象が今日までたまさか継続しているだけの偶然の連続事象だ。人類は星が周回する日の出と日の入りを日常の不変の象徴としながら、同時に、うつろう時が見せる物体の崩壊の象徴とも位置づけた。我々は新しい日の光を浴びるたびに生まれ変わり成長して老朽化して陳腐化していく。今日も太陽は東から上り、西へと沈む。夜明け直前の最も冷たい空気が鼻孔を刺した。

 だがしかし――シャノンは一定のリズムで斜面を登り続けている――時の流れに従って周ることしかできない宇宙の無数の星々に向かって、おれたちはそうではないと心の中で勝ち誇った。

 目的地には情報局員が一人待機していた。その情報局員は不運にもタイムトラベラーにこそなれなかったがやはり抜群に優秀な男で、シャノンが来るまでに付近を巡回して安全を確保していた。

「付近に異常なし。だれにも会わなかったか」

「当然だ」

 シャノンはリュックからワームホール捕捉装置を取り出した。科学者たちの調査によれば、しばらくすればこの付近に二十八年前へとつながるワームホールが出現するとのことである。重さに閉口しながらもはるばるかついできたその装置を使えば、ワームホールを可視化して安定化させることができる。

 タイムトラベル実現の端緒は我が国が誇る叡智、セルゲイ教授の手による。セルゲイ教授は時間の流れが人間の主観ほどは均一で安定したものではないこと、更に、異なる時系列に飛び込むワームホールが人間が気づかないだけで無数に存在していることを示した。現在と過去か未来をつなぐワームホールはあらゆるところで自然発生と消滅を繰り返している。しかし、その穴は不安定でもろく、風が当たったぐらいで用意に崩れ去ってしまう。したがって、通常はこのワームホールに陥って、うっかりタイムトラベルをしてしまうことは起こり得ない。教授たちのグループは研究の末、ワームホールを可視化させて人間が通れるぐらいに安定化させることに成功したのである。


「どういったものかねぇ……理論的な正確性を度外視して説明するが……過去も現在も未来も異なる時間の世界において存在し続けている……例えるなら川の上流と下流が同時に存在しているように……わかるだろう? 時間は全くもって均等に隙間なく埋まっていない……あちこち伸びたり縮んだりしていて、中にはもつれて絡み合っているところもあるわけだが、そこで……」


 ただし、現状ではまだ解決すべき問題点がいくつかある。まず、仮に安定化させてもワームホールを通るにはなんらかの先天的な素質が必要である。それから、人工的に任意のワームホールを発生させられないこと。そのため、目的の過去なり未来なりに飛ぶためには、その時間に適したワームホールを探し出さなければならない。しかしながら、ワームホールの発生場所、頻度、飛び越せる時間について、頼りになる法則を見つけ出すことができていない。そのため、予算の許す範囲で国中のひとけのない場所にワームホール探知機を設置して、運良く使えそうなものが見つかれば直ちにタイムトラベラーを使役している。

 シャノンの目の前に開いた穴はだいたい二十八年プラスマイナス一年ぐらいの過去につながるワームホールだという。あと、十三分後にもっとも安定した状態になるので、その瞬間に穴をくぐればいい。穴をくぐるそのときにだけ、ほんのちょっとした企業秘密のコツがいる。それを知らない傍目からすれば、せいぜいクモの巣が顔について戸惑うマヌケにしか見えないだろう。

「時間だ」

「了解」

 時計を凝視していた見張り役の情報局員が、ようやくやることができたといった解放感を伴う風情で定刻を告げた。シャノンは返答の半分ぐらいを時間の向こう側に送りながら作戦を開始した。


 ワームホールをくぐった先は同じ場所の違う時である。正確な日時は不明だが、山を下りればすぐに分かることだ。事前の調査によれば、このころのカルマンは前の大きな戦争の志願兵を除隊後、半年だけ親戚がやっている会社に勤めたあとに退職、それからは特に何をするでもなく、近所の大学に立ち寄っては学生ども相手に政治談議を一席ぶったり、ゴミをあさる野良犬を蹴飛ばしたりしているはずである。

 時間の誤差はあれど、いずれにせよ相手は一般人として生活しているのだから楽な仕事だ。そもそもヒューマニズムを度外視すれば殺しほど雑で楽な仕事はない。ガキとの遊園地の約束を穏便に反故にする方がどれだけ困難なことか――ああ、ジョージ、我が息子よ、おれは悪い父親だった――。

 まして、今回の仕事は証拠を隠滅するとか逃走手段を確保するとか、そういったことを配慮する必要もないのだからますます気楽なものである。

 この時代のカルマンは理屈とアルコールが好きな素人に過ぎない。いわばお客さんだ。外出中のやつの部屋に侵入しておいて、何も知らないゆるんだ顔で帰ってきたところを陽気に出迎えてやればそれで終わる。あとは速やかにA山頂上から元の時間に戻ればいい。

 ――目論見どおり、カルマンはあっさり殺せた。特筆すべきことは何もない。困難の末ということはなかったのだが、やつにつけられた我々の傷を思えばさすがに感慨深いものはあった。さようなら、哀れな卑劣漢!

「終わった」

 シャノンはワームホールから元の時間に戻ってきた。装置を使ってワームホールを壊した。同じ場所で待機していた見張りの情報局員の視点では、入ったそばから出てきたように見えているはずである。見張りの情報局員に「カルマンを知ってるか?」とよほど尋ねたかったが、みだりに任務の内容を漏らすことはたとえ味方同士でも禁忌であるからぐっと言葉を飲み込んだ。ともかく、世界は平和になったのだ。いつになく朝日がまぶしい。長期の休暇を取って旅行なんていうのも悪くはなかろう。


 明くる日、世を忍ぶ仮の振る舞いを装い市史編纂室に入ると、珍しくハーディが先着していた。しかめっ面で腕組をしている。

「どうもまずいことになったらしい」

「おれはヘマをしたつもりはないんだがね。だれかがかぎつけでもしたのか」

 ハーディに答えながら、シャノンはルーチンとして職員メールをチェックした。今日はくだらない指示は回ってきていないようだ。

「そうじゃない。わしは今でもカルマンのやつをはっきりと思い出すことができる。いや、それどころかやつの悪事の数々もそのままだ」

「つまりそれは……」

「うむ。修正されていないようだ」

 シャノンはハーディと話すときの定位置に腰掛けると、手を振り回して抗議した。

「そんなバカな! おれは確かにやつを殺した。あれで生きてるっていうのなら、やつは人間じゃない、本物の悪魔だ。それともなんだ、やつの首でも取ってくればよかったっていうのか!」

「落ち着け。別にお前を責めてるわけじゃない。ただ、とにかく予期しない事態になってることは確かだ。カルマンがこの瞬間に地球のどこかで生きているかどうかはわからんが……とにかくわしらの記憶やおそらくほとんどの記録は何も変わっちゃいないようだ」

「本部の連中は?」

「同じさ。優秀なおつむを抱えながら雁首そろえて『わからん』といってる。来週、緊急で会議が開かれることだけがわかってる」

「まさかおれも行かなきゃならんのか」

「当事者だからな。せいぜい、ふてぶてしい顔をしておけ」

 それだけいうとハーディは部屋を出て行った。シャノンは引き出しから蒸留酒を取り出して一気にあおり、ソファで気が済むまで不貞寝した。


 果たして会議は重たい空気で始まった。報告書を読み上げているのは科学者たちのグループのトップから二番目か三番目のチームリーダーと呼ばれる男である。

 セルゲイ教授は体調がすぐれないだとかで欠席している。しかし単に厄介ごとを避けただけのサボりに思えてならない。技術的な問題点を明らかにしたいのであれば科学者同士で議論すれば事足りるわけで、こんな格式ばった事務屋相手に無理に平易な言葉でわかった気にさせる必要なぞないわけである。我が国の最高頭脳だけあって、教授は賢く、かつ偉いわけだ。

 もう一人の欠席者、自分には技術的なことはわからぬし科学者のしどろもどろの弁明を聞いたところでいらいらするだけ、あとで官僚が理路整然にまとめた報告を聞けばよい、と早々に合理的判断を下した我らが総帥閣下も、才知に長け、そして当然偉い。

「……というのが今回の事象です。しかしながら、これまでの実験結果から考えれば今回は……となるはずでした。これまではおおむね私どもの予想に従った結果を得られておりまして……例えば装置の……」

 科学者の報告とも弁明とも取れる暗いお話は延々一時間弱も続いた。久しくこの手の会議に出ていなかったシャノンは既にうんざりしていた。一同、席に着いてすぐに配布された資料に目を通して彼の話はとっくに承知している。だが、読み上げねばならぬものらしい、だれもろくすっぽ聞いてはいないというのに。

「はい、わかりました。それでシャノンさん、念のため確認ですがあなたはカルマンを殺したと?」

「ええ。確実に」

 チームリーダーの話が終わると、進行役らしい事務官が儀礼的にシャノンに話を振った。シャノンは手を机の上に投げ出すようなジェスチャーで人を食ったような態度をわずかににじませて返答した。こういうやりとりでつけこまれると結局冷や飯を食わされることは身にしみている。隣に座ったハーディはうんうんとうなずいている。

「なるほど。ではチームリーダー、あなたがたの予想に従えば、この時代にカルマンはもはや存在していないはずだと?」

「予想があっていれば……そのはずでした」

「しかしそうはならなかった。いや、いいんですいいんです。みなさんが難しいことをされてるということは私らなりには理解しているつもりです。ただ、やはり同じ失敗を同じように、同じ石に二度つまづくというやつですか、こいつはいただけない。原因を究明して、同じ過ちを繰り返さないようにしなければなりません」

 チームリーダーに続いて、大学を出たばかりのようなかなり若い科学者が答えた。

「いろいろ仮説は考えられます。もっとも有力なものは平行世界仮説。過去に干渉した瞬間に時間軸が分裂して、カルマンが死んだ世界とそうではない世界に分かれたのではないかと。ワームホールをくぐってシャノンさんはもともとのカルマンが死んでいない世界に戻ってきましたが、ワームホールの先ではカルマンが死んだ世界が存在しているというわけです」

「しかしその証拠はない」

「残念ながら」

「だいたい、これまでのタイムトラベルに関するすべての実験と実用ではそんなことは起こらなかった。過去に干渉することで現在を修正できていたはずでは?」

 ほかにもいくつか仮説やそのたぐいは出てきたのだが、結局は議論は堂々巡りを脱しない。これまではできていたのに、なぜ今回はできなかったのか? 落としどころや妥協点も見つからず、ただただ閉塞感に疲弊していく。シャノンはといえばこれまでのタイムトラベラーとしての任務についてとっくにわかりきったことを、議論の空白を埋めるためだけに確認されては無愛想に答えるだけで、いい面の皮である。これなら真冬の吹きさらしで張り込みをしている方がよほど辛抱できる。

「諸君、少しよいかな」

 会議開始から三時間は過ぎたころだろうか。出席者の中で最上座に座っていたハーディと同世代の男が、人差し指を立てながら手を挙げた。男はヘルムホルツという名の情報局に属する高官の一人で、シャノンは自分の辞令式に彼がいたことをおぼえていた。固めた前髪の下に威圧感のただよう額とわし鼻が目立つ容貌をしている。会議が始まってからずっと黙って腕を組んだ姿勢で瞑目したままであったが、かといって居眠りをしているようでもなかった。

 ヘルムホルツは椅子に深く座り直して背もたれに体重をかけ、参加者らを睥睨してからおもむろに口を開いた。

「技術的なことは我輩にはよく理解できないのだが……それでもまあ、一つの参考意見として聞いてもらいたい。諸君らの中にも知っているものがいるかもしれんが我輩の表の顔は弁護士である」

 疲労困憊していた参加者らは、根本的な解決が得られるかはともかく、議論の果て無き輪廻から抜け出せる話題がやってくることに淡い期待を抱いた。

「これまでの議論を聞いた限りでは諸君らはあまりにも道理や因果、つじつまあわせに拘泥し過ぎているのではないかな? なるほど、科学とはそういうものかもしれん。しかしだ、我輩の仕事ではそうではないことが日常茶飯事だ。例えば交差点の信号がどちらも青だったり、同じ人間が全く異なる場所に同時に存在したり、そんなことが少しも珍しくない」

「それは……はぁ……僭越ながら申しますと、ほとんどの場合は勘違い……とかではないのでしょうか」

 科学者連中の一人がおずおずと口を挟んだが、ヘルムホルツはまるで変わらぬ様子で相変わらず尊大な態度で続けた。

「左様。そういった不条理だとか矛盾だののほとんどすべては人間の嘘偽り、錯誤、誤謬、過誤、思い込みといった、神の視点から見ればただのつまらん過ちに起因している。諸君らにとってはくだらん理由に聞こえるかもしれんがな」

 カルマンが死んで、と同時にいま生きているという食い違い、こいつも人間の犯すつまらない過ちというやつなのだろうか? シャノンは思わず隣の席に視線を向けたが、ハーディも釈然としないふうに少し首をかしげて見せた。

「話は変わるが我輩が最近扱った案件に時効取得がからむ土地の境界に係る紛争というやつがあった。詳しい中身は守秘義務(この言葉を口にしたとき、ヘルムホルツはかすかではあるがニヤリと笑ったように見えた)というやつもあるし、諸君らも聞いたところで退屈極まりない話だから省略する。我輩がここで注目したいことは時効取得という制度である。ご存知のものもいるだろうね?

 時効取得とは端的にいえば他人の土地を一定の期間にわたって占有すると土地の所有権を獲得できるという制度である。法にうといものにとってはこれははなはだ奇妙な制度に聞こえるであろう。なぜこんな制度があるのだろうかといぶかしむかもしれない。だが法律というのは人間のために人間が作ったものであって、そこには人間の過ちや本音と建前を見越したものすらある。

 法律は基本的には安定した状態を重視する。そりゃあそうだろう、万人の万人に対する闘争を避けるために作られたものだからだ。同じ土地を十年もの間自分のものとして扱っていれば、本人はもとより、周囲の人たちだってその状態に合わせて生活していく。その状態が平穏なものなのであれば法によって尊重されねばなるまい。ほかの観点としては、十年もの間ほったらかしにしているのであれば、そもそももとの所有者にとってはいらないものだったのではないかという考え方である。法は権利を大事にしないものにはしばしば冷酷なのである。ここまで、よろしいかな」

 ヘルムホルツの話し方はゆっくりで、優雅とも余裕とも感じられるものだった。話それ自体はみな飲み込めたようなのだが、なぜ、いま、それを、という疑問符が会議室の天井にぷかぷかと漂っている。

「賢明な諸君らのこと、我輩の個別の話は理解していると思う。さて、なぜこんな話をいましたのかといえば、惟るに、今回の件は時効取得の考え方で理解できるのではないかね」

 それでようやく、この鷹揚な大人物の意図がみなに見えた。

「つまり、死んだはずのカルマンが生きているのは、歴史が長年にわたってカルマンが生きている状態で安定していたためである……ということでしょうか」

 科学者の一人が自信のなさそうな低いトーンで声を出した。ヘルムホルツや同僚、上司、そしていままでの自分が信奉してきた論理への遠慮が彼をそうさせるのだ。

「一つの考え方としてはそういうわけだ。ふん、カルマンのやつめはよほど我々人類の歴史に醜い傷跡をつけてきたらしいな。シャノン君、きみがカルマンを殺したというのは現に確かなことだ。諸君らには知らせていなかったが我輩の権限で話してしまおう、墓地を掘り返した情報局員からカルマンの遺体が埋まっていたとの報告が入っている。本来のやつは冷え切った白骨死体となっているのだ」

 それだけいうとヘルムホルツは席を立ち、いつ果てるとも分からなかった鉛色をした会議にあっさり解散を告げた。

「だがそれはやつかこちらの落ち度か勘違いに過ぎんのだ。ここから先は我輩の領分、任せてもらおうか。我輩もこの歳だ。最後の見せ場、やらせてくれたまえ」


 ヘルムホルツ翁が何をするのかと思っていると、まず彼は役所にカルマンの死亡届を探させてこれを全世界に大々的に発表した。すぐにカルマン陣営から「そんなものはでっちあげだ」というメッセージが出された。

 ヘルムホルツもそれぐらいの反応は予想していて、すぐさまカルマンの生死を確認する訴訟を起こした。裁判が始まると驚くべきことにカルマンの弁護士を名乗る人間が法廷にきちんと出席してきた。すぐさま腕利きの情報局員らがこの弁護士を拘束して締め上げたが、いま現在のカルマンはプロであるから、巧妙につながりを秘匿していて尻尾をつかむことはできなかった。弁護士で作る国際団体から「なんぴとたりとも弁護士をつける権利は保障されなければならない。たとえそれが人類最悪の人間だとしても」との抗議を受けて、以降はカルマンの弁護士に対して監視はつけたが明示的な接触はやめることになった。

 これに並行して、矢継ぎ早にいくつかの法律が制定された。そのどれもが変なものだった、死んだものは死ななければならない、とか、人命に関してはどれだけ過去にさかのぼったとしても、現在の状態よりも過去のいきさつを優先しなければならない、とか。

 あからさまに奇抜な法律を作ると世人の耳目を不用意に集めてしまい、更にはその内容を精査されて諸外国にタイムトラベルについてさとられてしまうおそれがあった。そのカモフラージュとして、時期を前後して意味不明であったり荒唐無稽であったりする大量の有名無実の法律や条令が作られた。人々はあの聡明をうたわれた支配者でさえ独裁の味に焼きが回って、ただの暗愚な為政者に成り下がったことを嘆いた。ほとんどすべての国民にはかすりもしない珍妙な法律をこしらえたこと以外は、別段、苛政をしいたわけでもないのだが。


「私は人々にたいそう蔑まされ、こけにされているようだな」

「否定はいたしません。ですが、百年後にはきっと閣下が正しかったことを人々は知るでしょう。それに、気休めですが少なくとも我々だけは……」

「百年後、か。まあいい――」


 シャノンはカルマンの一件についても数ある終わった任務の一つとして心の片隅に置き去り、いくつものタイムトラベラーとしての仕事をこなしていった。やはり無益に思えてならない中身ばかりだった。それでも、わずかずつでもそれが何かの役に立つことを信じて祖国に全身全霊を捧げ続けた。

「ヘルムホルツが死んだという話は聞いたか。医者がいうには寿命だとさ」

 あるとき、ハーディが市史編纂室にやってきた。市史編纂室の人員はシャノン一人になっていた。ハーディはもう役所は退職して、情報局員としても簡単な尾行や連絡係ぐらいしかやっていなかった。久しぶりに見たハーディは随分と老けたようで、顔のしわが増えて、頭髪が減り、体が活力を忌避しているかのように見えた。しかしそういうものなのかもしれない。

「そりゃ残念だったな。カルマンより先に逝っちまって」

 いま、あの裁判がどうなっているのかはシャノンにはもうよくわからなかったし、興味を持って追跡もしていなかった。あいかわらず、カルマンの弁護士が彼は生きているということをあの手この手で主張していることぐらいは知っているが。

「彼はわしの教官でね……歳は一つしか違わないが……わしは民間からスカウトされて……」

 ハーディのそんな身の上話は初めて聞いた気がした。ふと、シャノンは自分がヘルムホルツの孫弟子にあたることに気づき、少しだけ彼を哀悼した。

 カルマンが死んだという捷報は依然として届かなかったし、あいかわらず、やつの消息はつかめなかった。しかしその一方で、情報局ではカルマンの死亡説がかつてほどは否定的ではない文脈で語られるようになってきていた。

 それからしばらくしてハーディも死んで総帥閣下も死んだ。ハーディは交通事故だった。総帥閣下は脳溢血だかなんだか。シャノンは一線を遠のき、後続を指導したり教育したりする仕事の方が増えてきていた。

 シャノンはハーディの葬儀に呼ばれはしなかったがなんとなはしに参列した。ハーディの葬儀には親族はだれ一人として参列していなかった。彼が住んでいたぼろいアパート(ハーディは何に金を使っていたのだろうか?)の住人が義理で数人、それと、役所の文化部長が来ていた。驚くべきことに、文化部長は本当にハーディの古い友人だったようだ。最期の十数年はお互いが単なる職場の関係になったことを悔やんでいた。静かでよそよそしい葬儀だった。シャノンは途中で帰った。ああ見えて、案外、ハーディのじいさんは照れ屋だったから。

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