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双眼鏡を覗くと、後方に灰色の船の頭が見えた。
「二隻・・・か?マレーシアの哨戒船ってオチは無ぇよな」
「哨戒ルートは外してるだろ」
「ボスがトチってなけりゃあな。機関砲・・・か?アレ」
「マジか、ちょい貸せ」
「あいよ。さて、アンタらもボンヤリしてんじゃねぇよ。ピクニックは終わりだぜ」
リッキーに双眼鏡を返し、王子とお付きを急き立てて船室へ戻ると
「やあやあ、お帰り。遊覧はどうだった?気分転換になったかい?」
操舵席からジョーイはニッコリ笑顔をこちらへ向けた。ジョーイの呑気はいつものことだ。
二人に、隅に座っているように指示しながら、ジョーイの肩越しにレーダーを覗き込む。目視で確認したとおり、船を示す点が二つ、後方から近付いてきている。
「あちらサンは機関砲積んでるっぽいぜ。振り切れるか?」
「うーん、ちょっと無理だねぇ。今ウチ、割と全速力なんだよね」
せめてどこか、地上戦へ引き込める島なり入り江なりでもあれば戦い方もあるのだが、生憎、インド洋の真っ只中だ。
「さて、どうしようね、ジャズ」
「どうもこうも無ぇよ。ったく・・・一戦交えるっきゃないだろ。オイ王子、ちょいソコどきな」
アタシは王子を立たせると、彼が椅子代わりにしていた黒い箱の蓋を開けた。
中身は何を隠そう、アタシの虎の子。対物ライフル、バレットM82である。
相変わらず不機嫌な王子の、侮蔑とも怯えともとり得る赤い視線を感じながら、武器を組み上げる。
「ジャズ」
「ん?」
「ハンドガンもちゃんと準備しておきな。近接戦になるよ、多分」
そうなる前に沈めるっつーの。
そう言い返したかったが、やめた。悔しいかな、こういうジョーイのアドバイスは、大抵当たる。
立ち上がると、尻のポケットにハンドガンのマガジンを突っ込んだ。
「んじゃ、ちょっくら仕事してくるわ。速度は一定に、」
「揺れは小さく、だね。判ってるさ」
「・・・あと、」
「ん?」
「ビップから目ぇ放すなよ」
「はいはい。じゃ、宜しく頼むよ」
左耳にインカムを付け直し、体の半分ほどもあるバレッタM82を担ぎ上げると、まるで焦燥感なくヒラヒラと手を振るジョーイに送り出され、アタシはデッキに戻った。
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