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港の事務所へ向かい車を走らせている間にも、ドンドンと砲撃の音は続いていた。


「カーーー、羨ましいぜチクショウ。楽しそうだなぁおい」


ハンドルを握るリッキーが口を尖らせる。


「楽しくたって、儲からねぇぜリッキー。こんなジリ貧の国、乗っ取ったところでどうなるっつーんだ。どっちに付いたって骨折り損だぜ」

「醒めたこと言うなよ、ジャズ。これだから最近の若者は。な、賭けねえか?どっちが勝つか」

「お国サマとテロリストがか?興味ねえな」

「ノリ悪いな。女子の日か?」

「うるせぇな、そんなんじゃねぇよ。どっちが勝ったところで、この街にゃ関係ないっつってんだよ」



ラナブロワ。

ブラワット語で"神の住む地"というのが、ここ、アタシらの街の名前である。


神の住む地。

それが、あの世を指すのだとすれば、ここほどその名に相応しい街は無いだろう。

お天道様の下で生きられない者ばかりが吹き溜まり、毎日毎日、誰かが誰かを殺している。



不機嫌に窓の外を眺めていると、リッキーが「ほらよ」とチョコレートの包みを差し出してきた。


「このクソ暑い中、ンなクソ甘ぇもん食えるかよ。煙草ねぇの?」

「自分のはどうした」

「事務所に忘れて来たんだよ」

「間抜け。あ、コラ、泥棒!」

「うるせぇな、後で返すよ」


リッキーの胸ポケットから勝手に箱を取り出すと、一本拝借して火を点けた。ジタンはあまり好きではないが、贅沢は言えない。



このオンボローーーというとリッキーが怒るクラシックカーには、パワーウィンドウなんて便利な機能は付いちゃいない。硬いハンドルを回して窓を開けると、時速六十キロの風に、煙を流した。


ふとサイドミラーに目をやると、白のカローラが二台、アタシらの車にぴったりとくっ付いて来ていた。

不気味に追走するだけで、撃ってくる気配がないところをみると、さっきのシゴトの報復ではないらしい。



「なぁリッキー。今日、来客の予定って、ジョーイに聞いてるか?」

「いや。だが、上客だな」



バックミラー越しに目が合ったリッキーが、右頬だけを吊り上げて、ニヤリと笑ったのと丁度同じ時、アタシの尻ポケットに入れていた携帯電話にメールの着信があった。



「ボスか?」

「うん。お客様がお見えだから、早く帰って来いってさ」

「そりゃ後ろのアンちゃんたちとは別クチか?」

「さあな。帰ればわかるだろ」

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