第25話誘拐

不動産業を営んでいる夫婦の娘小学2年生が、学校の帰宅時に何者かに誘拐され、身代金一千万円が要求された。


その当時、太郎は、補助要員として駆り出された。


他の事件もあり人手が足りなかったのだ。


「邪魔すんなよ。」


同僚からは、そんな冷たい言葉を太郎は、浴びせられながら被害者宅に向かった。


太郎が、家に到着すると犯人から電話がかかってきた。


緊張で張り裂けそうな空間に太郎は、息苦しさを感じて大きなオナラをした。


そして、両親から受話器を奪い取ると


「お前、必ず捕まるから、さっさと子供殺して逃げろ。」


太郎は、皆が耳を疑うような言葉を吐いた。


「ほー、この誘拐ゲームに少しは骨のある刑事がいるなんて喜ばしい。」


「余裕ぶっこいてんなよ!俺の忠告をちゃんと聞け!ガキをさっさと殺して消えろ!」


「あんた!何勝手な事言ってるんだ!」


父親が、太郎を殴って受話器を奪い返した。


「これは失敬、俺は、素直な意見を告げたまでだ。」


太郎は、薄ら笑いを顔に浮かべながら家から出て行った。


自宅に帰宅した、太郎は、仏壇のまえで


かおりの命は、無駄にはしない。


と祈って鳴り始めた携帯電話を取った。


次の日に、誘拐されてた女の子をおんぶして太郎が現れた時、捜査員、家族が度肝を抜かれた。


「木村、どういう事だ?」


捜査員の1人が太郎に詰め寄った。


「近所の公園でブランコに乗ってたから、まさかなと思って連れて来たんだけどな。ここの子か。良かった。良かった。じゃあ。」


太郎は、鼻を擦りながら答えて家からさっさと逃げるように出て行った。


家を、出ると太郎の携帯電話が鳴った。


「刑事さん、一千万円確かに受け取りましたよ。いやー自腹切るなんてスゲーよ!あんた。」


「あれ?最初に俺の携帯電話教えた時に、忠告したよな?ガキを殺して消えろっての。」


「そんな必要無いだろ。こうして裏取り引き成立したんだからよ。」


「ふーん、甘いな、人を傷つけといてただで済むと思ってるの?」


「は?何言ってんだよ?あんた。」


太郎は、腕時計を見た。


「あと、10秒9…876543…21」


激しい轟音と同時に携帯電話が切れた。


その日、都内で走行中の車が爆破して辺りに大量の札が舞い散った。


その後、仮眠室で始末書の束を紙ひこーきにして飛ばしている太郎に、誰も何も言わなくなった。


「おい!木村、少しは目が覚めたか?」


春男が、目の下に隈を作って仮眠室に入って来た。


「何の事?」


「かおりさんの、弔い合戦は、お前が刑事でいる限り永遠に続くな。」


「まぁ、子供1人の命に比べたら一千万円なんて安いよ。」


「しかしなぁ、かおりさんの生命保険の一部を使うなんてな。お前らしいよ。」


「喜多島…。かおり少しは喜んでくれたかな?」


春男は、下唇を噛み締めて太郎の背中を強く叩いた。


「いて…。喜多島、泣いてるの?」


「違う!ただの寝不足だ。」


そう言って春男はメガネを外して小さな瞳を擦って仮眠室から出て行った。


太郎は、始末書の束を見つめて小さくため息をついて微笑んだ。

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