第26話警察官


「ねぇ、あずあずは何で警察官になったの?」


抹茶アイスを食べながら熱いお茶を飲んでる梓に太郎は、聞いた。


「父親が、弁護士なんです。」


「ほえ、マジ?」


「それで、自分は中立な立場で仕事したいなって思って。」


「中立?」


1月の寒さで、アイスを食べながらこたつに入る太郎を見て梓は、少し複雑な顔をした。



「父は、若い時は、あまりお金にならない仕事ばかりしてました。でも、ある時から変わりました。」


「変わった?」


「父は、裏切れたって言ってました。それで、金回りの良い人間しか相手にしない弁護士になりました。父は、たぶん、依頼人を信じ過ぎていたんでしょうね。」


「ふーん、何か難しいね。」


太郎は、こたつに入って寝始めた。


最近、事件が無いので、梓は、太郎の家のいきものがかり担当になっている。


梓は、両親が経営する法律事務所を蹴って警察官になったので、自分から連絡出来ない関係になっている。


母からは、たまにメールなど来るが元気にしてるで、それ以外は何も言葉を送れないでいた。


居眠りをしる太郎を梓は、見つめて小さくため息をついた。


そんな時に、事件は起きる。


交番勤務の警察官が銃を奪われて右肩を撃たれ、犯人は拳銃を持ったまま逃走したが、すぐに逮捕された。


しかし、警察には、ダブルパンチな出来事になった。


拳銃を奪って逃走した人物は、警察上層部の人間の親戚関係にあり、しかも、警察官が拳銃を奪われて右肩を撃たれるなど警察側としては、隠蔽したい事件だった。


「ふーん、困ったね。」


「ですね。」


こういう事件があると世間からの風は冷たい。


「現場行かなくて良いんですか?」


太郎は、こたつから出て仮眠室を出た。


その背中を追って梓は、自分も仮眠室から飛び出した。


「どこ、行くんですか?」


「病院。」


「病院?」


ずいぶん、古い病院に着くと太郎はスタスタある病室に入った。


「久しぶりです。勝沼さん。」


右肩を包帯で巻かれた初老の男性がベッドに横たわっていた。


「木村か…。ずいぶんと久しぶりだな。」


「こちら、俺が交番勤務だった時にお世話になった勝沼弁蔵さん。」


「ん?女の相棒か?」


勝沼は、大きな瞳でジロリと梓を睨んだ。


「そうなんですよ。とても優秀で、岸谷梓さんです。」


「岸谷?…。あんた、もしかして岸谷守の娘か?」


「あ…。はい。父をご存知なんですか?」


「あぁ、少しな。木村よぉ、俺も落ちたもんだ。ガキにハジキ奪われて撃たれるなんて…。」


「定年間近で、とんだ災難ですね。」


太郎は、鼻を擦りながら呟いた。


「あぁ、去年、かみさんも死んで、俺は、何のために生きてるだかな?ガキが心臓撃ってくれたら犯人と揉み合って名誉の殉職だったのによ。」


「似合わないですね。勝沼さんにそんな言葉。負け犬ですね。」


「木村さん!」


梓は、あまりにも失礼な言葉だと思って太郎を注意した。


「良いんだよ、嬢ちゃん。木村の言う通りだ。」


「で?何か用事か?」


「その、ガキの、弁護士は?」


「お前、性格悪いぞ。嬢ちゃんの前で。」


勝沼は、渋い顔をした。


「もしかして、父ですか?」


「あぁ、嬢ちゃんには、悪いけど岸谷守は、こんな儲けにならない事件の担当になるとは思ってなかったけどな。ガキの親と繋がりがあるんだろうな。」


「ふーん、じゃあお大事に。」


太郎は、スタスタ病室出て行ってしまった。

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