第9話神の手
梓は、新聞を持って急いで仮眠室に向かった。
太郎は、相変わらずいびきをかいて布団の中で寝ていた。
「木村さん!事件です。」
梓は、太郎の顔に新聞の1面をかざした。
「キスは、頬にして、昨日ニンニク食べたから。」
「また寝ぼけてんですか!起きろ!木村太郎!事件!」
急に太郎が立ち上がったので梓のオデコに太郎のオデコがぶつかって二人は痛みに悶絶した。
「あれあれ、また、襲われたのか。」
「今回は軽傷ですけど犯人はまた逃走しました。同一犯ですかね?」
「そうだね、あ!それより合コンはどうだった?」
いや、それが喜多島が熱を出して次回にと見送り。
「春男ちゃん、気合い入りすぎたのかな?」
「そんな事より、事件ですよ。」
「そんな事じゃない!男女の出会いは神秘的で動物的で純粋な本能なんだよ!それを忘れたらあずあず、カピカピのおつぼねさん直行だよ。バカだな。」
「バカ?失礼ですけどわたしはバカではないです。仕事熱心なんです。」
「ふーん、だから、刑事課に転属願いね。やめた方が良いよ。」
「それより、ちょっと相談があずあずにあるんだ。」
「何ですか?」
梓は、不審な顔をした。
「良いからちょっと耳貸して。」
「ええ!!」
「そんなに、ビックリしないでよ。これでも、俺は男だよ。」
梓は、複雑な思いが胸に流れた。
「分かりました。」
渋々、木村太郎のお願い事を聞く事にした。
「佐々木緑です。今日はお招きありがとうございます。」
「いやいや、無理言ってしまってごめんね。僕も、1度は、署内No.1の美人さんに会って話してみたくてね。」
「えー?いつでもOKですよ!いつも、梓が羨ましくて!」
玄関には、ルナとレナが梓に飛び付いていた。
「うん、ルナ、夏バテかな?何か元気ないね?」
「分かる?最近、ちょっとエサも残すし心配なんだ。」
「夏バテもですけれど低血糖なのかもしれません。ハチミツありますか?」
「うん。」
梓は、さっさと靴を脱いで小さな冷蔵庫を開けてハチミツを取り出してルナに舐めさせた。
「梓、何か奥さんみたい、怪しい。」
緑が大きな瞳を細めてからかい気味に呟いた。
「いや、カレーしか作れる料理なくてね。ごめんね。」
太郎は、後から来た喜多島の後輩栄枝類を交えた3人にカレーライスを出した。
「美味しい!木村さん凄い!検挙率No.1にして料理も上手いなんてわたし、お嫁さん立候補します。」
緑は、いつもの倍はしゃいでいる。
でも、木村太郎は、そんな気分にさせる雰囲気を持ってるのは認めたくないが梓も感じている。
「いやいや、僕は、もう30だし、26歳のお嬢さんの相手にはそぐわないよ。栄枝君、両手に花だね。同い年でしょう?」
「はい。でも、自分には心に決めた人がいるので。」
その割に栄枝は、目が緑に釘付けだ。
「春男ちゃん、泣いてないかな?」
ニヤニヤしながら太郎は呟いた。
悪い男と梓は、心の中で思った。
帰り道、3人は、夜道を歩きながら木村太郎について語り合った。
「木村さんって不思議な人。」
緑が、意外と静かな声で呟いた。
「何で?」
梓が気になって聞いた。
「内面性が霧みたいになってて見えないって言うか掴めないんだ。自慢じゃないんだけど、わたし何となく一回話すと大抵相手の心の中読めるんだけど木村さんは読めない。」
「もしかして惚れた?」
「うん。」
「えー?」
「て言うか、梓が分かんない。あんな面白い人の近くにいて好きにならない方が難しいよ。」
「そうかな?」
ずっと黙っていた栄枝が緑の会話を裂くように呟いた。
「俺は、ピリピリ感じたけど、限り無く黒に近い白い人間だって。」
栄枝は、乱暴な感じで感想を述べたので梓も緑もビックリした。
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「女には分かんないよ。あいつの野獣のような本能剥き出しの気配がさ。」
「木村さんの何を知ってるのよ!」
緑は、抗議した。
「知ってるさ、凶悪犯検挙率No.1男で、妻を殺されたアホだろ。」
「言ってくれるね!大天使の雷くん。」
路地裏から大通りに出る出前で木刀を肩に担いだ木村が待っていた。
え?大天使の雷?この男が?
「春男ちゃんに、ちょっと調べてもらったよ。君の経歴。ずいぶんと悲しい過去を引きずってるみたいだね。」
木村は、無表情の中に何故か温かい言葉を栄枝に投げた。
「お前みたいな、腑抜けに同情されたくないね。」
「栄枝類、大学生の時に部活の合宿で自宅を留守にしている間に家族3人が当時未成年の少年Bに殺される。」
「やめろ!」
「まだ、幼い妹に、少年Bは残酷にも父親と母親を殺し切断し家の庭に埋める手伝いをさせた後に同じ穴に蹴り落として生き埋めにした。」
「やめろ!やめてくれ、もう復讐は終わった。もう悪魔はこの世にいない。」
「そして、同様の手口で模倣した当時未成年少年Dに佐々木緑さんの家族も殺されている。」
栄枝は、バタフライナイフを取り出して緑を羽交い締めにした。
「そうだよ!だから、あいつも殺してやるつもりだったのに木村太郎!あの日、お前が警護になりすましてあのクソ野郎を守った。」
「佐々木緑さんは、君の妹さんに似ているんだね。」
「ああ、最初は、ビックリしたよ。同じ顔に同じ傷口を持っている人間いて。」
木村は、梓を自分の後ろに付かせた。
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