第10内通者


「木村太郎!」


喜多島春男が、仮眠室の扉を乱暴に開けて入って来た。


「あれ?あずあず、木村は?」


畳の上に大の字になっている梓に喜多島は聞いた。


「知りませんよ!こっちが聞きたいぐらいです。」


梓の剣幕に、喜多島は、たじろいだ。


「あずあず、何かヤサグレちゃん?」


「そりゃあ、ヤサグレますよ。で?何の用事ですか?」


「いや、木村がさ報告書と始末書が白紙で提出しやがったんだよ!」


「はい。」


梓は、報告書と始末書を喜多島に渡した。


「栄枝類って、賢いですね。元少年課で移動になって元上司がある加害者の少女と肉体関係だったのを理由に脅して刑務所から拘置所にBが護送される日時を聞き出して襲うなんて…。」


「あのな、あずあず、そういうのは賢くねぇ、バカ野郎なんだよ。気が付かなかった俺は、もっとバカ野郎だけどな。あいつ、優秀だったのに。」


「緑ちゃんは、大丈夫か?」


「はい。前よりパワーアップしててこっちが、気後れしちゃいますよ。」


「強いな。」


「内通者は、高梨さんだったんですね。」


「ああ、栄枝に脅されて助けて欲しいって元同僚の高梨さんに泣き付いて来たらしい。」


やっぱり、高梨さんは、仕事が出来る人だ。


梓の携帯電話に、太郎から電話が入った。


「はい。分かりました。」


「木村なんだって?」


「ルナが、わたしに会いたがって鳴いててうるさいから来て欲しいそうです。」


「あいつも、素直じゃねーな。」


「何がですか?」


「あ、いや、こっちの話しだよ。早く行ってやれよ。また、ドロンされたら困るだろ!」


「はい!」


仕方ないと思いながら梓は、少し軽くなった腰を上げて仮眠室から出て行った。

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