第8話孤島幽閉
最初は、半信半疑だったが梓は、鑑識の喜多島春男と車の中にいた。
「ふーん、双子か。可愛いだろうな、あの奥さんだしな。」
「そうですね、でも、意外でした。こんなに子煩悩だとは。」
梓は、頭をかいて呟いた。
「まぁ、特に家では凄味とかさ、威嚇は消してるんだろうな。良いな、俺もプライベートは仕事と切り離したいよ。でも、毎日死体なんて見てると心が冷たく凍って行くのを感じるんだよなぁ。」
「うーん。でも、あの人が本当に犯人なんですかね?だったらショックだし。また、わたし呪われてるとか噂になって…ああ、お祓いしてもらいに行こうかな。」
「まぁ、御愁傷様だよな。あの木村太郎にあずあず、気に入られてるからな。」
やっぱり、困るな。もう、お嫁に行けない。
「でも、太郎がこんなに信頼してるのは、あずあず、珍しいぜ。あいつ猜疑心の塊みたいだからな。奥さんが亡くなった時のあいつは、殺気だってて誰も近寄れなかったからな。」
「そんなに、奥さんを。」
梓は、俯いてしまった。
「仕方ねーよ。あいつ、ボンボンらしいけど、変人だから親とも絶縁してて奥さんしか味方居なかったからな。」
「そうなんですか。」
「それより、あずあず、約束守ってもらうぞ。」
「約束?」
「何だよ!太郎から聞いてないのかよ?今度うちの若いの1人連れて来るから、あずあずは、マスコットキャラクターの佐々木緑を連れて来てくれ。」
「ええ?緑ちゃんを…。いわゆる合コンですか?」
「正解。じゃなきゃ、こんな割に合わないサービス残業するかよ。太郎には了解得てるからな。」
勝手に、まぁ、良いか緑を連れ出す口説き文句はあるし。
「お、リビングを離れたな。書斎か。やべーな、パソコン立ち上げたよ。これは決まりか?」
「まだ、分かりませんよ、木村さんだって完璧じゃないんですから。」
「その通り、鋭いね、あずあず。」
後部座席に、太郎がよっと乗って来た。
「木村さん、どうしたんですか?」
「いや、祭りが終わったからね。」
「もう、七夕祭り終わりですか。」
確か、ひこぼしと織姫が年に1度だっけ会える日。
梓は、地元の七夕祭りにもう何年間も行っていない事に気がついて、子供の頃はあんな楽しみにしてたのになと少し寂しさを感じた。
「はい、二人に焼きそばとたこ焼きね。」
ほいっと喜多島と梓に太郎は渡した。
「アツ!バカ野郎投げんなよ。てか、頼んでた広島風お好み焼きねぇーじゃねーかよ!」
「細かいな、たこ焼きはお好み焼きを丸くしただけなんだから、たこ焼き!」
「確かに!タコ入ってなかったら同じですね。」
「バカ野郎!お好み焼きには、紅しょうがと青のり、キャベツの千切りが入ってるんだよ!」
「細かいですね。」
「うん、てか、春男ちゃん人間小さいよね。だから、彼女出来ないだよ。」
梓と太郎に喜多島は冷たく言われて固まってしまった。
「ふーん、でも、思ったとおり大天使の雷信者みたいだね。高梨仁は。」
「でも、高梨さん、ネットで見てるだけじゃないですか?」
少しむきになって梓は、モニター画面を見つめている太郎に抗議した。
「残念だね。あずあず、また、身近な人間が犯人だね。大天使の雷、犯行声明文が警察マスコミに流されて連続殺傷事件の犯人死刑囚Bが、刑務所から拘置所に護送中に襲われ死亡。まずいよね、死刑確定してて殺されたらダブルパンチだね。」
「その日時を襲った犯人に、高梨さんが教えたって事ですか?証拠はあるんですか?」
「無いよ、刑事の勘だよ。」
は?そんなの証拠にも何にもなって無い。
「あー、ヤダヤダ、変人には付き合いきれねーよ。」
「でも、内通者がいるんだよな。元少年課の刑事高梨仁は、大天使の雷であるとね。」
「え?内通者ですか?てか、高梨さん、少年課にいたんですか?」
「俺も初耳だな、てか、高梨さん、影薄いよな。何か交通課のお荷物的な感じだしよ。」
そんな事は、無い。ぶっきらぼうだけど仕事は正解で早い。人間性には、欠けるかもしれないけど、家族をこんなに大切にしてる。
「うーん。今回は俺の間違いみたいだね。」
太郎は、両手を組んで伸びをした。
「え?」
「は?」
「高梨さん、ネットを新聞がわりにしてるんだな。テレビ嫌いみたいだし、高梨家は新聞も取ってないみたいだしね。」
「だしね、じゃねーよ!あずあずと俺が必死で盗聴器と隠しカメラ着けたんだぞ!てか、どーやって合鍵なんて作れたんだよ?」
「え?高梨さんの奥さんに借りた。」
「は?」
「旦那さんが心配だったみたいよ。でも、奥さんには高梨さんが白なのは分かってたみたいだけどね。ほら、画面に向かって微笑んでる。」
「バカ野郎!俺も七夕祭り行きたかったんだぞ!こんな変態茶番に付き合ってらんねーよ!」
喜多島が怒り出した。
「良いじゃない、緑ちゃんをこれで紹介してもらえるなんて安いもんでしょ?しかも、どーせ、七夕祭り一緒に行く人居なかったんでしょう?春男ちゃん。」
「それを言うなよ!」
喜多島は、子供のように耳を真っ赤にしている。
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