第2話捜査会議



「であるからして、この手の事件には便乗型犯罪そして同一犯の連続生が懸念されるので早期解決を願いたい。以上。」


へー、すごい捜査会議ってこんな迫力あるんだ。


太郎に代打って言われた時はビックリしたけど、太郎が怠け者で良かった。


梓は、興奮ぎみに解散していく捜査官達を見つめていた。


「あずあず、どうした?」


「あ、猫田さん。」


「捜査会議なんて名ばかりだ。所轄は聞き込み聞き込み資料作りだ。まぁ、太郎は特別だけど。」


「え?」


「太郎は、刑事の勘があるんだよ。才能かな。だから、監察にも検死の方も太郎に進んで情報提供してくるぞ。でも、あいつは、人間失格だからな。あずあず、頑張れよ。」


猫田は、梓の肩を軽く叩いて行ってしまった。


ん?ってことは三年寝太郎は優秀?


「お蔵入りかもね。」


「え?どうしてですか?」


監察から上がってきた資料を見て太郎はため息混じりに布団の中で呟いた。


「だってさ、この性犯罪者早見表に今回の事件の被害者から取り出されたDNAと一致する人間がいるんだもん。」


「て、事はお手柄じゃないですか!」


梓は、興奮ぎみに太郎の顔に近づいて叫んだ。


「キスするよ!」


「いや、すいみません、わたしとした事が、つい興奮してしまって。」


真っ赤な顔になった梓はそれでも嬉しかった。


「あのね、DNA一致した人間は現在刑務所の中にいるんだな。」


「え?」


「え?でしょ?」


太郎は、ふて寝してしまった。


帰り身支度をしていると「あずあず!」と猫田から声をかけられた。


「あ、はい!」


「何、急いでデート?」


猫田が、冷やかすように言った。


「いえいえ。」


さすがベテラン刑事 鋭い。


「あのさ、太郎に、頼まれてた資料届けて欲しいのよ。」


「あ、でも帰っちゃいましたよ。夕方に…。」


「じゃあ、家にお願い。」


「でも、知りませんけど自宅までは。」


「あぁ、大丈夫、署の裏の独身寮に住んでるから。はい、お願い。」


「え?でも、木村さん奥さんいるんじゃ?」


「あれ?知らないかあずあずは。あいつの奥さんは3年前に死んだんだ。」


「ご病気か、何かで?」


少し、猫田の顔に陰りが出た。


「殺されたんだ。」


「え?」


「事件は未解決。あいつは、犯人までたどり着く前に過労で倒れてお蔵入りだ。」


「そうですか…。」


団地かな?


梓は、猫田から受け取った資料を持って太郎宅を訪ねた。


インターホンを押すと中から犬の吠える声がした。


「はい。」


「岸谷です!猫田さんから資料を渡すように言われて来ました。」


数秒間の沈黙の後に太郎が扉を開けた。


「ありがとう。」


昼間とはずいぶん違う雰囲気の太郎が存在していた。


扉の隙間から犬2匹が顔を出した。


「あれ!可愛い!」


梓は、太郎を押し退けて犬とブチューとキスをした。


「犬好き?」


「大好きです。」


「そうか、じゃあ、散歩に付き合って欲しい。」


「え?でも。」


「お願いします。」


太郎は、梓に頭を下げた。


「そうですか、奥さんが亡くなってから散歩拒否ですか。」


梓は、パピヨンとコーギーの間の子のパピコーのレナを抱きながら言った。


太郎は、ミニチュアダックのルナに引っ張られて歩いている。


「うん。犬って人間の気持ちが分かるらしいから。」


ぼそぼそとでも少し嬉しそうに太郎は話している。


「ルナは歩き始めだっただけどレナはまだ予防注射が終わってなくていつも妻が抱っこしてたんだ。ルナは、妻と僕が居ないと歩かなくてね。」


「そうですか。」


「ルナが立ち止まって妻を待ってる姿を見るのが何かかわいそうになってそれから散歩に行かなくなったんだ。」


太郎は、空の月を見つめながら言った。


とても寂しげに。


「ごめんなさい!遅刻しちゃって!」


「良いよ、今日から刑事課配属でしょ?」


渡部勉は、皿の上のステーキを切りながら梓に聞いた。


「変な上司でね。死体を見てわたしのスーツにゲロってしかも署では仮眠室で寝ててそれで愛犬家。初日から調子狂うよ。」


「もしかして、木村太郎?」


「勉君、知ってるの?」


「そりゃ、有名人だからね。ノンキャリアで凶悪犯罪者検挙率No.1男木村太郎だからね。」


「え?そんなすごい人なの!」


「まぁ、変人らしいけど。」


「でも、自分の奥さん殺されて狂ったって聞いてたけど。」


勉は、スープを飲みながら呟いた。


「木村さんの奥さんが殺された事件ってどんな?」


「三年前に起きた連続強姦魔殺人事件。」


「それって。」


「そう、犯人を追いつめて刑事が負傷して犯人を取り逃がしたアホな事件だよ。」


「そのアホって?」


「木村太郎だよ。」


「木村さんが...。」


「で、今日、河川敷で発見された女性死体。」


「それが?」


「同じ犯行手口ってわけ。」


「三年前と?」


「そう!」


勉は、ナイフを刃を肉に入れて言った。


「梓、木村太郎には気をつけろよ。」


「何で?」


「あいつは、裏では人間の皮を被った鬼畜と言われている。ヤクザ、暴力団、カルト教団がバックに蠢いている。でも、誰も奴の本性を暴けないままに奴の妻が殺害されて腑抜けになった。」


寂しげに月を見上げる太郎の横顔を梓は思い出した。


「検挙率No.1だったあいつは、あらゆるネットワークと裏取引をしてたらしい。じゃなきゃ、検挙率No.1なんてにはなれない。天才じゃない限り。」


「木村さんが天才だったら?」


「それはそれで厄介だな。今も奴は公安にマークされてる。」


勉は、赤ワインを飲んで


「白はいつか赤い血のように染まる」


と呟いた。


「梓、気をつけろよ。」

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