さきゅのお母ちゃん、現る! 前編

 魔界は揺れていた。

 成績の発表も終わり、殿堂入りした4人のリリス――サキュバスでの中で殿堂入りした者たちだけがそう呼ばれる――が、いま、北のリリスの居城に一堂に会そうとしている。

 魔界は揺れていた。

 名づけて、秋の女帝祭り。この祭りに、毎年近隣の悪魔たちは恐れ戦くことになる。


 魔界は揺れていた。

 魔界は揺れていた。

 魔界は揺れて……。


 ……。

 ……。……。……。……。


 あーっ、もうっ。シリアスって疲れますね! しかも、ネタ続きませんね!

 あっ、申し遅れました。

 わたくし、今回の冒頭、及び会話以外の地の文を担当いたします、ストーリー・テラー、人呼んで『地の文』でございます。え? まんま? わざわざそんな説明しなくていい?っていうか、なんで出てきた?

 いやいや、そんなつれないこと言わないで下さいよ!

 だって、一人称小説の弱点って、本人が見たり聞いたりしてないものを語れないところにあるじゃないですか! それにね。昨今は短いことがいいことだとばかりに、長い文章はなにかと嫌われる傾向にあるし、ライトノベル、略してラノベの台頭で、会話文の掛け合いの面白さにばかり注目が集まってますけど、地の文にはたくさんいいことが詰まってるんですよ。

 まず第一に、『こんな難しい文章読める俺、すげー』と自分礼賛できるとこ。

 あと、果てしない想像力の広がり。

 ミロのヴィーナスを思い浮かべて御覧なさい。

 両腕がないからこそ、あなただけの両腕が手に入るんです。


 そう! ぼくらももっと目立ちたい!

 もっと褒められたい!

 そしてもっと、語りたい!


 この場をお借りして、地の文を代表して主張してみました。

 あっ、ちなみにぼくのことは(ここでは男の子の設定です! えっへん!)、かわいらしく「地の文ちゃん」、略して『ぶんちゃん❤』と呼んでね❤。

 わーい! ハートマーク二つも使ってみちゃった!

 かわいい? ぼく、かわいい?


 ……。

 ……。……。

 ……。……。


 え? どうでもいい? つーか、地の文ってただの説明文じゃん? 作者の都合のいいネタバレの場所だろ?


 いいじゃないですか!

 みんなじつは好きでしょ! ネタバレ!

「あれってじつは……」って話、みんなしたいでしょ?!


 え? そんなんいい? もうだいぶ文字数も使ってる? ただの文字稼ぎかよ?

 ……すんません。

 では、本編をどーぞ。


 さて、くどいようだが、魔界は揺れていた。

 なぜなら。


「もうそんな季節だっぺか」

「今年もとめちゃん、ダメだったんだってな」

「あんら~。じゃあ、おとめちゃん、また怒り心頭だべな」

「んだべ、んだべ」

「おそろしか~。くわばら、くわばら」

 そのとき、一筋の雷光が!

「あんら~。噂をすれば、だべ」


 以上の理由である。

 では、問題の城の内部に潜入してみよう。


「みなさま、御機嫌よう」

 北の”リリス”――マリー・テレーズ。

「御機嫌よう」

 東の”リリス”――ラプタ。

「御機嫌よう、お姉さま方!」

 西の”リリス”――ナリス(ナナちゃんのお母さんですよ! にしても、母がロリ系で娘がヅカ系。つくづく対照的な親子ですねえ!)。

 そして、南の”リリス”

「……」

 おとめ(乙女って書くんだよ!)さん。


 さすが、男を誘惑する悪魔たち。みなそれぞれに美しい!

 特に主催者たる、北のリリス様の美しさは群を抜いている! ここは魔界で、光が射しちゃいけないはずなんだけど、ああ、きらきら輝いていらっしゃる!

 中世ヨーロッパにおける『青い血』のような透きとおるような白い肌。金髪に青い目。そして、ぼんっ、きゅっ、ぼーん! の抜群のプロポーション!

 ああ……。願わくば、そのお姿を永遠に絵画に留めたい……。


 ――それに比べて。


「あら、どうなさったの? おとめ」

「その名で呼ぶんじゃないべ!」


 ……なんだろ。

 ブスじゃないんだけど、北のリリス様が大人の女……に対して、なんか……。


 ちんちくりん。


「ちんちくりんって何だべ!」

 反応しないように。地の文ですから。

 それに描写するには微妙な顔と身体なんです、あんた。

 強いて例えるなら……。


 エロい体した女子高生の一歩手前。


「何なんだべ! その微妙な例え!」

「ねえ」

 北のリリス様が口を開きました。

「さっきから、どうしたの? おとめ」

「な、なんでもないべ……」

 誰にも聴こえてない天の声、ならぬ地の文に反応するなんて、けっこう恥ずかしいことですからね。(にやり)おおっと、にらまれても怖くないですよー。

「そう。……ところで、おとめ」

「何だべや!」

 おや? 南のリリス様、北のリリス様に対して、ずいぶんな態度ですね。それもそのはず。なんたってこの二人は……。

「いいから、話を進めるべ!」

 おっ。今度は声を押し殺しながら言いましたね。

 わかりました。お二人の関係にこれ以上触れるのはやめておきましょう。

 では、いささか強引ですが。

「あなたの娘のとめちゃん、今年もワーストワンだってんですってね」

「うっ!」

「これで、十年連続ね」

「ううっ」

「しかも、ナリスの娘のナナの報告によれば、よりによってナナとわたしの娘と同じ町にいるんですってね」

「ううう……」

「気の毒に。今年もワーストワンとは言わないまでも、少なくともランキング1位はないわね」

 北のリリス様、淡々と事実を突きつけます。これ、なかなかきっついですねえ。このお澄まし面から察するに、決して悪気があるわけじゃあないでしょうが。

「きっと落ち込んでるわ。どう? せっかくだから、励ましに行ってあげては」

 勝者の余裕ってやつでしょうか。北のリリス様、ずいぶんお優しいお言葉です。

 さ、南のリリス様。どういう反応をなさるんでしょう?

「ふんっ! お前に言われなくても、行ってくるべ!」

 言うなり翼をパタパタ。南のリリス様は、窓から飛び出してゆかれました。……せめて玄関から出て行きゃいいのに。この辺り、むきになりやすい性格と、器の小ささが見てとれますね。

 ともあれ、こうして災厄の種は人間界に蒔かれることになったのです。もっとも、地獄は人間界の遥か地下にあるはずですから、正確には種が吹き出したことになるんですね。

 失礼しました。

 では、次からはいつもどおり、伊藤吉嵩くんに登場していただきましょう。


 吉嵩くーん!

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