第47話 こんな時でもいつもの私たち
再び攻撃の手番が回ってきた私たちは、ショットガンからショートパスをつなぎ、じりじりと相手を追い詰めていく。10分もあれば、少々遅い攻めでも2タッチダウンは手が届く範囲。となれば相手は今回か次回で打開策を取ってくるはず。私はそう踏んでいた。
だから見逃さなかったの。こちらがファーストダウンを奪った後の相手の選手交代を。69ersはこれまで体力を温存していたスーパーサブをLBに入れてきた。彼はこれまでの試合で何度か後半から出てきてサックを成功させてきたブリッツ要員。私はセンターくんに作戦の指示を出す。
そして始まった1stダウン、指示通りパスの体制に入るジョンを目にした相手は、いきなりフルブリッツでディフェンスラインに殺到してきた。選手が連動してマークを受け渡しながら後陣のセイフティまでがこちらの両翼をカバーしてくる。交代で入ってきた相手LBがラインをかいくぐると、ジョンに向かって一気に特攻をかけた。
完成された69ersの一糸乱れぬ連携。でも事前にそれを知っていたからこそ、私は狙っていたの。あらかじめ下がっていたジョンが、相手LBをギリギリまでひきつけると、オフェンスラインの頭越しに山なりのパスを投げる。落下点には、ラインにまぎれてブリッツをやり過ごしたベンちゃんが走りこんでいた。ジョンの位置からは見えなかったけれど、事前の打ち合わせ通り、ラインの8ヤード先に投げこまれたボールを受け取ったベンちゃんは、快足を飛ばして誰もいない中央をひた走り、タッチダウン!
「よしっ! 三つ目!」
ついに1タッチダウン差に迫った私は思わずこぶしを握り締めていた。勢いは完全にノーブラだったし、勝利への手ごたえを感じていたから。
ところが、相手はさらなる打開策を取ってきた。なんとジョセフモンタナを外し、サブのQBを入れてきたの。正直これは予想外だった。スター選手のジョセフが交代させられることなんてこれまでなかったはずだし。
ジョセフを引きずりおろしたことは私にとっては溜飲が下がる思いだったけど、これはこれで非常に困ることになったの。マスターは完全にジョセフのパターンを見切っていたけど、新しいQBについては情報がなかったのよ。
そして迎えた敵の1stダウン、マスターが的確な指示を出せない中、彼らは中央へのランで時間を稼いできた。まるで我々が以前C&D戦でやったような時間攻め。
だけど私たちにとっては単純な時間攻めではなかったの。というのも、現在相手にリードされているだけでなく、フィールドゴールすら与えたくはない、という状況。フィールドゴールを決められると、タッチダウン1回では届かなくなってしまう。だから相手にハーフウェーライン、つまり残り50ヤードを超えて来られると、危機的な状況に陥ってしまうの。
2ndダウンで相手が8ヤードまで前進したところで、マスターは時計を止めるためタイムアウトを取った。
「敵味方合わせて残り10分、7点差。ミオ、あと2つ行けるか?」
マスターが聞いてきた。私は目をつぶり、一つ深呼吸して腹をくくって答える。
「どうせあと2タッチダウンは必要ですよね? 同点に追いついたところで延長戦ですし、キックが外れるかもしれませんから。ただ……5分は欲しいです」
「わかった」
そう言ってマスターは立ち上がると、戻ってきた守備陣に指示を出す。
「最悪フィールドゴールはしょうがないが、じりじりと時間を使われるのはじり貧だ。早いうちにマークを捨てて中からつぶしに行け」
「「オッス!」」
相手は時間を使うために、極力ランの中央突破で勝負してくる(サイドラインを超えると時計が止まってしまうため)から、そこを食い止めるように、ということと、若干ギャンブルになってもトミーとマイキーが後ろに控えているからタッチダウンは防げるし、パスならどんどんブリッツをかけていけ、ということね。今はゆっくりと10ヤードづつファーストダウンを取ってこられる方が嫌だからね。
そして迎えた相手の3rdダウン、相手の選択はショートパスだった。しかしそこで対応に回ったロブソンがあわてて反則を犯してしまい、ペナルティの15ヤード&ファーストダウン。これはまあ……しょうがない。チャレンジだしね。
その後は結局、残り8分のところでフィールドゴールを決められることになったんだけど、私は残り2タッチダウンをどうやって取るか、ずっと考えていた。マスターにはあんなことを言ったものの、まだ新しい作戦を思いついていなかったの。
10点差となってこちらの攻撃。あせらずにショートパスとランで相手の守備を切り崩していく。時間的にはぎりぎりだけど、手堅くじりじりと進めていきたい。実はこの状況、こちらも相手も怖いのは反則で、互いに読みが合っているというか、ややおとなしめで予定調和のねじりあいが続く。
そして、都合3分かけてなんとかタッチダウンまでこぎつけることに成功した。キックも決まって3点差。
残り5分で相手の攻撃が始まったけど、私はフィールドのほうは見ないことにした。もう一度ジョセフモンタナが出てきたらどうしよう、とか時間が足りなくなったらどうしよう、とか関係ないことをいろいろと考えてしまいそうだったから。だけどこのとき、一番つらかったのはマスターと守備陣のみんなだったと思う。できればこれ以上フィールドゴールを与えず、時間をかけずに攻撃につなげたい、そういう思いがこちらにもひしひしと伝わってきたから。
そしてちょうどその時だった。ひらめいたの。これしかない、という作戦が。私は頭の中でそのパターンを何度も何度もイメージした。最後のチャンスに全てがかかっているけれど、不思議と成功する気がしていた。うん。いける、いけるよ。
ふと気がつくと、ジョンとセンターくんがこっちを見ていた。
「なに?」
「いや、アネゴ、余裕あるなー、と思ってさ」
「そんな、全然ないよ……あ、いやいや、あるよ。余裕だし。勝てるから」
私のあわてぶりに二人とも大笑いした。つられて私も笑う。
「お前らうるせえ!」
「「「ごめんなさーい(笑)」」」
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