第39話 有能女社長 マオ

 選手たちが控室で凱旋準備を始めていたころ、コロシアムではティモニーズが観客に懸命に呼びかけていたの。


「本日『イギーダの酒場』は完全に満席、余裕を持って楽しめないことが予想されます。ブラウザーバックスが勝利した本日は、市内の多くのお店で飲み放題サービスを行っております。是非ご利用ください!」


 後から聞いたんだけど、平均観客動員数が一万人を超えると聞いたマオが、市内の飲食店と共同戦線を張り、観戦者の分散化をはかったらしいのね。確かにグランドに一万人来られてもさばききるのは絶対無理だし、ノーブラの活躍がこの地域全体の活性化につながって多くの会社に貢献できるならファンもさらに増えるわけで、無理のない運営を目指す私たちにとっては最善の処置だと思う。送迎用の馬車もコロシアム出口とうちの店にたくさん来ていた。


 結果的に今回のグランドへの入場者は前回とほぼ同等だったんだけど、お店の売り上げは前回を余裕で超えた。コアなファンがしっかりお金を落としてくれたのね。


 私は厨房へ入ろうとしたんだけど、すでに選手登録されているからということで、ユニフォーム姿のまま無理やりチームに帯同させられた。というか、私だけでなく、マオもナオも近くにいる。そう、嫌な予感がしたと思った時にはすでに遅くて、観客席からマナミーズコールが沸き起こっていたの。みんな何しにここに来てんだよ(泣)。


 ダンスを練習するひまなどない私たちは、大勢の観客の前でグダグダなダンスを披露することになり、しっかり笑いを取ってティモニーズの前座を務めたのでした。


 その後も途中で抜けたマオとナオの代わりに盛り上げ役を仰せつかった私は、ティモニーズのダンスショーの後、ステージの上で一人芝居を始めることになった。


「みなさんこんばんは! このたび選手登録されました、ミオです」


「モヒカンじゃねーのか?」

「モヒカンにしろよ」

「「「モヒカン! モヒカン! モヒカン!」」」


「あ~、うちのマスターがモヒカンにしたら私も検討致しますので……」


「バカ言うな。髪は俺の命だ!」


 マスターの言葉で場内が白けてしまった。


 いきなり後がなくなった私は、同期入団の三人に活路を求める。


「続きまして本日デビューを飾った新人三名です! マイキー選手、ロブソン選手、ロドリゲス選手、こちらへどうぞ!」


 そう言って彼らを無理やり檀上に引っ張り上げた私は、さっそくインタビューを始めた。


「マイキー選手、今日は自慢のスピードで相手をマークし、パスを出させませんでしたね!」

「ミオさん、よく見てますねー(笑)」


「そりゃ見るのが仕事だもん。で、初出場で初勝利、いかがですか?」

「最高です!」


 おおーっ! と歓声が上がった。ノリのいい新人で良かったわ~。


「続きましてロブソン選手、CBとして相手WRに仕事をさせませんでした!」

「ありがとうございます! みなさまの応援が力になりました!」


 再び場内から歓声が上がる。なんか楽でいいわ~。


「ロブソン選手はデヴィッド選手を目標にノーブラに入られたとか? 本当ですか?」

「本当です。今は練習でマッチアップさせていただき、ひーひー言わされてます」


「容赦ない?」

「はい」


「鬼?」

「鬼ですね。やり方えぐいんですよ。捕球前にきっちり体をぶつけてきますからね~」


「お前! それ言うなや!」


 デヴィッドが情けない声をあげて観客がどっと沸いた。


「続きましてはオフェンシブラインで相手のホブゴブリンを完封したロドリゲス選手です!」

「……どうも」


「……身体の割に声小さいですね」

「……はい」


「本日初出場、いかがでしたか?」

「……緊……しました」


「あー緊張しましたか。でもしっかり対応されてましたね。反則もなかったですし」

「……はい」


「本当に緊張してる?」

「……」


「じゃあ、緊張に強いベンちゃんにステージに上がって来てもらいましょう!」


「え? いきなり~?」


 私は無理やりベンちゃんを上げ、吊し上げモードに入る。


「ベンちゃんは今日、素晴らしい独走タッチダウンを決めました。おめでとうございます!」


 私がベンちゃんを持ち上げようとしたとき、マスターが邪魔をした。


「タッチダウンは?」

「「「「ビッグ・ベン!!」」」」


「前から出すのは?」

「「「「リトル・ジョー!!」」」」


「みんなやめてよ~!」

「ちょ! 僕も?」


 いつものベンちゃんネタとそれに対する反応に選手たちがどっと笑った。いつの間にかジョンモンタナもマスターたちにネタにされてるし(笑)。


「ベンちゃんから先輩として、新人三人に一言お願いします」


「そうですね……まあ、アネゴには逆らわないでください」


 今度は客席からどっと笑いがおき、私は真っ赤になってしまった。


「えーっと、それではですね、ティモニーズのマリアさんとリリアさんにもステージに上がって来てもらいましょうか」


 私はやけくそでお二人に活路を求めた。


「マリアさんとリリアさん、この新人三人とベンちゃんの四人の中でお二人が選ぶのは誰ですか?」


「そうですね~、私はロドリゲスさんです」


 マリアさんの発言に場内から歓声が沸き、他の選手たちからは阿鼻叫喚の声が聞こえた。


「私はそうね……やっぱりベンさんかな?」


 リリアさんの空気を読む対応に再び歓声が沸き、他の選手から怨嗟の声が聞こえる。


「さすがお二人ともお目が高いですね!」


 しかしそこで、


「お前は~?」

「ミオの相手は誰だ~?」


 私はこの言葉をかき消すように、


「それでは毎回恒例、うちのマスターとティモニーさんの夫婦めおと漫才です。どうぞ!」


 そう言って二人にぶん投げた。



「どこが夫婦漫才やねん!」

「しょーがないでしょ。あんたには私しかおりませんから」


「ないわ~。このおっさんだけは絶対ないわ~」

「それがここだけの話、これでも私、なかなかモテましてですね」


「うそやろ? いつの話? っていうかあんた生まれたときからおっさんやったんちゃうんか?」

「そんなわけねーだろ!」


 とまあ、こんな誰得な掛け合いの中、お客さんは一人、また一人と帰っていったのでした(笑)。

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