第40話 前半最終節に向けて

 翌日、チームはオフだったけど、私はスカウティングに余念がなかった。だって、次の試合でリーグの前半が終了し、ほぼ1カ月の中休みに入るの。それにこの一戦は現在の1位と2位の戦いで、大一番。


 あ、念のための現時点での順位表だけど、こうなってます。


1.ブラウザーバックス 7勝1敗

2.シックスティナイナーズ 6勝2敗

3.マルデラバーズ 6勝2敗

4.ダメンズ&ドラゴンズ 5勝3敗

5.クラウゼヴィッツ 4勝4敗

6.キャッツ&ドッグス 3勝5敗

7.ダークダックス 3勝5敗

8.ポメラニアンズ 3勝5敗

9.ワナビーズ 2勝6敗

10.ジャイアントカプリコーンズ 1勝7敗


 クラウゼヴィッツが4連勝で順位を5位にまで上げてきました。次回はあの強力なトロールのキャッツ&ドッグスと戦うみたいだけど、どんな試合になるのかしらね?


 だけど私にはよそ見する暇はないの。目の前の一戦に全力投球しなければ!


 で、その今回のお相手、クアドロップ・シックスティナイナーズの強みは、なんといってもQB。ジョセフモンタナという世界的に有名なスター選手なんだけど、名前の通り、うちのジョンモンタナのお兄ちゃんです。


 しかも監督はこれまたマスターと同じ世界から来た人で、その世界でも英雄扱いされる伝説的な存在らしいの。名前は確か、ペロさんだったかな? エレさんだっけ?


「お前な~、いい加減他人の名前を覚えろよ。まあ伝説だろうが王様だろうが俺には関係ねーがな。ただのエレクトできねーおっさんだ!」


 最近マスターは、そういうネタをどこかで覚えてきたらしい。


「ただ、奴の実力は本物だ。あいつが呪いをかけたチームは優勝できない」


 え? それ、やばいんじゃないの? っていうか、魔法じゃないの?


 実際、過去にマスターのチームが強かった時にもこの人に呪いをかけられたことがあったらしく、結局優勝できなかったんだって。マスターはそのとき試合に出場してなかったらしいんだけどね。マスターの元いた世界には魔法なんてなかったそうで、私の魔法説は一蹴されたけど『彼に呪いをかけられたチームは優勝できない』という伝説は本当にあるらしいの。


「だから俺は奴には近づかないようにしてるんだ。おかげで毎朝ビンビンだしな」


 そんなことは聞いてない。というかそれは関係ないだろ……。


「じゃあマスターは相手がどんなチームなのか、もうご存知なんですね?」

「もちろん。テクニックがすごいんだろ?」


「さすが!」

「もっとも、いくらテクニシャンでもたたなきゃ意味ないがな(ニヤリ)」


 だからそんなことはどーでもいい! 朝からする話じゃないから! いちいち私の精神力を削らないでください!


 でも、相手選手たちのテクニックがすごいのは事実なのよね。スターターにはスター選手が揃っているし、控え選手も含めてロースター全員の層が厚いから、スカウティングの段階で嫌になっちゃう。試合運びも序盤・中盤・終盤すべてに隙がない。


 だけど私は負けないよ。彼らが喫した2敗に何か手掛かりがあると思って、何回もその試合を見直したの。特にチーム力の劣るクラウゼヴィッツがどうやって勝ったか、丹念に見ていったのよ。


 で、クラウゼヴィッツはシックスティナイナーズ(以下69ers)に対し、私たちと戦った時とは違う、手堅い守備布陣を敷いていたの。パスを通されても、そこまでで抑えられるようゾーンで守り、何度ファーストダウンを取られてもギリギリのところで踏ん張る粘り強いディフェンスを続ける。第二クオーターでは1度タッチダウンを奪われたものの、その後はフィールドゴール1回に敵の攻撃を抑え、前半を終えた。


 一方の攻撃は、相手のプレッシャーをかわすようにショートパスをつなぐ作戦で、無理にタッチダウンを狙わず、フィールドゴールで得点していく。クラウゼヴィッツはキッカーが上手いのよね。私たちとの試合もそうだったけど、多少距離があっても確実にゴールを決めてくるのよ。そうこうしているうちに点差が追いつき、前半が終了したときには15-10とクラウゼヴィッツがリードしていたの。


 相手の個人技をある程度見極めたのか、クラウゼヴィッツは後半、守備をがらっと変えてきた。マンツーマンディフェンスに切り替え、相手を自由に動けなくしてきたの。そして、どの選手が出ても攻撃を通させない。マンツーマンって、目の前の相手に直接勝てる力がなければ通用しないけど、彼らは本当に69ersのスター選手たちの動きを見切ったのかしら、と思うくらい、きっちりとマークしてきた。


 一方、攻撃ではショートパスからラン中心に切り替え、引き続き確実にフィールドゴールを決めていく。第三クオーター終了時点で21-13まで差が開くと、69ersも敵陣の弱いところを突くランに作戦を切り替えてきたんだけど、今度は攻撃に時間がかかってしまい、その後、タッチダウンを1度奪うも、結局24-20でクラウゼヴィッツが逃げ切ったのね。


 実は私の印象だけで言えば、前半は69ersが押していて、後半は五分五分もしくはクラウゼヴィッツって感じだったけど、点数的には前半15-10、後半9-10と、印象とは真逆なの。たぶん後半はクラウゼヴィッツの時間稼ぎのため攻める時間が長かったせいかもしれない。印象なんて当てにならないものね~。


 いずれにしてもこれだけでは情報が足りない、と思った私は、69ersの他の試合も見てみることに。すると、ほとんどの試合で彼らの攻撃は相手の守備を手玉に取っていたの。69ersはパスでもランでも的確に弱点を突いてくるし、ほぼ1stダウンか2ndダウンでファーストダウンを取ってくる。クラウゼヴィッツ戦とはえらい違い。


 特に脅威なのはラン。パスは受け手さえ抑えてしまえばなんとかなるけれど、ランについてはRBの動きが神出鬼没で、これを抑えるのはなかなか難しく思えた。バリエーションが豊富で、ゴブリンたち並みに読み切るのが困難。96ersは状況によってWRとRBを入れ換えてくるんだけど、WRが多ければパスというわけでもないし、RBが増えたからといってランというわけでもないし、スクリーンプレーも多いから、普通に対処するのは大変な気がする。


 おまけにジョセフモンタナのスナップカウントが上手で、相手の反則を取りにくるの。スナップカウントっていうのは、QBがセンターからボールをスナップされるタイミングをコールする声のことで「Ready Set Go Go Go……」って感じの合図ね。何回目の「Go」でボールをスナップするのか毎ダウンごとに決めているんだけど、時々「Foo!」とか言うとそれにつられた相手のディフェンスラインが前に動いてしまって反則っていう、冗談のような話。クラウゼヴィッツは引っかからなかったけど、他のチームは何度も罰退を取られていた。


 ここまで考えて、私は確信した。クラウゼヴィッツはやはり、69ersの過去の試合から相手の動きを読んでいる、と。彼らだけジョセフモンタナのスナップカウントに引っかかっていなかったし、きっとどこかにジョセフのくせがあるのだと思ったの。


 私は69ersのこれまでの試合を繰り返し見直して、それがどこにあるのか調べた。ジョセフだけでなく、他の選手や、彼らの得意なプレーについても、わかりやすいサインがないか、徹底的に分析したのね。



 結果は……よくわからなかった。

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