第27話 1000人かと思ったら2000人来ちゃいました
えーっと……コロシアムのお客さんがほとんど全員お店に来ちゃいました。
練習用グランドでの立食祭り、開催決定です。
まずは選手たちに旨いものを食べさせなければ、と思った私は、焼きたての肉を仮設テーブルに並べると、炊いていた釜飯を釜のまま、スープの鍋もそのまま外に持っていき、後はみんなに勝手にやってもらうことに。
バーベキューの準備は思いのほか大変だった。だけどエルフのお客さんもいるから野菜にも手間をかけないと。ミオと頑張りながら作った串と調味料をトレーにのせ、食べ終わった選手たちにナオのところに運んでもらったの。
コロシアムからのお客さんは続々とグランドに押し寄せて来る。私はトミーに酒樽を持てるだけ運ぶよう指示しつつ、お店の中のお客様のお会計をマオにお願いしてグランドに誘導してもらった。皆さん椅子の代わりに酒樽を持ってってくださいね~。
フロアから誰もいなくなったところで軽くテーブルを片付けて簡易休憩所に。トイレの紙を切らさないよう見えるところに積んでおき、冷えた飲み水も準備。そして私はお店のお金の番を兼ねてここに残る。今後はできるだけマオとナオにフロントに立ってもらわないといけないしね。
一通りの段取りを終えた私は、今日の売り上げをチェックする。この段階ですでに過去最高記録を更新していた。チームが勝った日はやっぱり違うね~。
最後のお酒の受け取りの際に相良急便さんに今日の仕入れ分についてまとめて支払うと、軽食の配送についての提案をもらった。手間のかからない軽食を一度に大量に仕入れられれば私としても非常に助かるし、それが地方の名産で美味しいのであればお客さんも喜ぶだろうから、こちらの条件と希望を提示しながらいくつかサンプルをもらうことにしたの。
それと、この店とは別件でコロシアムにオリジナル料理を展開する構想についてもそれとなく相談してみた。私が今日初めて試合を生で見て感じたのは「コロシアムには飲食に関わる施設が今のところ全然なくて、お店が入るスペースも余裕がある」ということ。今の我々にはこれ以上お店を増やす余裕はないけれど、せっかくのイベントなんだから試合以外にもいろいろと楽しめる工夫ができればいいな、と思ったし、コロシアムグルメを展開すればお客さんの増員につながると思ったの。だから、何か良いアイデアがないか考えてもらうことにしたのよ。
相良急便さんとの打ち合わせが終わると、グランドの方から歓声が聞こえ始めた。なにやら「ヒャッハーッ!!」って叫び声が響いてくる。ちょっと外をのぞいてみると、お客さんみんな総立ちで選手やティモニーズと盛り上がってるみたい。みんな、また楽しそうなことやってるな~って思ったし、私もあの中の雰囲気を味わいたかったけれど、今回はマオとナオに譲らなきゃ。すでに私はこれからもノーブラに関わることを決めていたから。チームを勝たせて、こういった機会をたくさん増やさなきゃって。別に私がフィールドで戦うわけじゃないけどね。
そんなことを思っていると、フロアに休憩のお客さんが入って来た。お水とおしぼりで出迎えると、初老の
ひょっとするとこのご夫妻のお子さんは先の戦争で亡くなられたのかもしれない。その後のお二人はしばらく、生きる希望を失われていたのかもしれない。何もすることがない中、たまたまノーブラの試合を見に来てくれたのかもしれない。で、実際に来てみると、いろいろと大変だったけれど、来てよかった、と思ってもらえたのかもしれない。
なんとなくお二人の雰囲気からそう感じた私は、一度厨房に戻ると、余っていた具材で自分用に作っていたサンドウィッチをお皿に乗せ「よろしければどうぞ」とお出ししたの。ご夫妻は私に「ありがとう」と言って数切れつままれた。もしかすると、お二人は若者たちの勢いに入れず、BBQにありつけなかったのかもしれない。
しばらくして、今度は女子トイレに長蛇の列ができ始めた。ああ、ここもまだまだ改善しなきゃ。次回までにグランドに仮設トイレを増設したほうがいいわ。ちょっとづつでもできることをやっていかないと。お店作りもチーム作りも一緒ね。
さらに少し経つと、
「ミオー、エール樽もう5個!」
「あとワイン10樽ほど!」
今度はお酒がどんどんなくなっていく。あなたたちどれだけ飲むのよ? って思ったけど、よくよく考えたら元々ここにいるお客様で数百人規模だったのに、さらにコロシアムから2000人近く集まってきているのよね。お酒を求めるお客さんは当然のように店内にも押し寄せてくる。お酒だけは絶対切らしちゃだめだから私は今週一週間分の在庫をぜんぶカウンターに出して、一人でお客さんをさばくことになったんだけど、今度はトイレ待ちの人とお酒待ちの人と休憩中の人とで店内が混雑しはじめた。
まずい……これじゃマオやナオと連絡が取れない……。
予想外の展開に私が焦りはじめたその時、先ほどの老夫婦が店内から椅子とテーブルを移動させ、フロアの中をトイレの列とお酒の列と小休止スペースに仕切ってくれたの。そのおかげで人の流れが幾分スムーズになると今度は、
「お手伝いしますよ」
そう言ってカウンターに入ると手際よく樽をさばき、裏からサポートしてくれた。私はお二人に感謝しながら一緒に小一時間奮闘し、なんとかピークを乗り切ったんだけど、ほっと一息ついた私が気がついたときには、お二人は店内から消えていたの。
「ミオ、どうしたの?」
マオとナオに声をかけられて我に返った私は、まるで夢か幻を見ているかのように放心状態だった。あわてて店内を確認すると、いつの間にかテーブルと椅子の位置も元に戻っていて、帰宅前に休憩中のお客さんが数名いるだけだったの。
いつのまにか眠っていたのかしら? いや、そんなことはなかった。店内に積まれた無数の空き樽を見ながら、私一人では無理な仕事を神様が助けてくれたんだと結論づけることにしたの。そうとしか考えられなかったから……。
そんなわけで今日一日いろいろとありましたが、今晩も何とか乗り切ることができました! 最後にマオとナオとお店を片付けたあと、とっておきのワインを出してきて三人で祝杯をあげたの。二人とも相当疲れていたけど、それ以上に楽しかったみたいで、三人娘のおしゃべりは深夜まで続いたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます