第13話 ババンシステム

 ノーブラの3戦目はリワード王国への遠征でした。私はいつも通りお店でお留守番。というかホーム戦でもアウェー戦でもお留守番であることに変わりはないわけだけど……。むしろアウェー戦の方がお客さんが多くて大変だったりする。


 さて、相手のマルデラバーズですが、これまでのチームと違うのは、相手が獣人である、ということ。しかも全員ワーライオンなの。リワード王国はワーライオンの国だったのね。もちろん人をとって食うようなことはしない人たちだけど、その力は人間離れしてて、優勝候補の一角なんだって!


 マスターは出発前に相手チームのスカウティング資料を見て


「なんだコリャ? ライオン丸のおっさんがたくさんいるぞ!」


 って言ってた。マスターが昔所属していたナショナルチームにライオン丸って呼ばれるカリスマ選手がいたんだって。ワーライオンはいろんな世界にいるんだね~。


 お店の方は昨今のノーブラ人気のせいか、試合開始前から満席になった。私にとってはうれしさ半分、悲壮感半分な複雑な思いです。あ、マオもナオも来てくれてる。


 で、試合が始まると、序盤から点の取り合いが続いたの。組織力のノーブラと個人能力のラバーズという感じで互いに一歩も譲らない攻め合いに、お客さんも一喜一憂でいそがしい。ただ、ホームのラバーズが若干優位にゲームを進め、前半終了時には7点差をつけられていたの。


 ハーフタイムに私がいつも通り死ぬほど働いていたら、ラバーズ側のチアリーダーグループのワイルドなアニマルダンスが始まったみたい。ワーライオンは女性も強いって聞くけど、水晶玉を通してもその迫力は伝わってきた。


 そのダンスが終わると、今度は我らがティモニーズの番。チームカラーの真っ赤なセパレートコスチュームと黒いサイハイブーツに身を包んだ10人が、長いブロンドをなびかせるティモニーさんを中心に黒髪の短髪少女が両脇を固め、刺激的でセクシーなダンスを披露したの。や、やるわー! 正直私も仕事の手を止めて、目が釘付けになりました。もちろんティモニーズは私たちだけでなく、現地の観客も魅了したようで、終了時には大きな歓声が起こっていました。


 試合の方は後半に入っても激しい攻め合いが続いたんだけど、疲れが出てきたせいか、互いにあと一歩のところでなかなか点が入らない。こう着状態っていうのかな。その時だったの、トミーが攻撃陣に加わったのは。マオとナオの黄色い声援が店内に響いたのが聞こえたから私も駆けつけたのね。


 そしてその直後のプレーだったの。ジョンモンタナのパスがトミーに向けて投げられたのは。


 いや、トミーに向けてというよりもトミーの場所よりもかなり前だったんだけど、トミーはボールの行方を目で追う相手ブロッカーの脇を一瞬ですり抜けると、たちまちトップスピードにギアチェンジしてあっという間にボールに追いついちゃった。そして他の相手ブロッカーの追随を許さぬまま独走し、いきなりタッチダウン!※


「キャーッ!」

「トミーッ!」


 マオとナオの絶叫が店内に反響した。他のお客さんも総立ちで拍手してる。これがノーブラの「ババンシステム」の初めてのお披露目だったの。もちろん私はタッチダウン後のトミーがゴールポストに戦いを挑んで返り討ちにあったのを見逃しはしなかったけどね(笑)。


 だけど勇者の快進撃は終わらない。そのまま守備に入ったトミーは相手のパスをインターセプトすると、そのままダッシュで敵陣を襲い、再びタッチダウン! これはインターセプトリターンタッチダウンって言うらしいんだけど、思いもよらない逆転劇とヒーローの登場に店内も大興奮で大変なことに。もちろん私はトミーがまた返り討ちにあったのを見逃さなかったけどね(笑)。


 その後はノーブラが攻守にラバーズを圧倒し、終わってみれば大差の勝利だった。優勝候補を倒して下馬評をくつがえしたチームに解説者も驚きの声をあげていたけど、この試合のMVPはもちろんトミー。お立ち台で「次は絶対にあいつを倒してやる!」とか言って司会の人を困らせていたけど、本当にバカだわね(笑)。


 私、今日はお店の外からも見える水晶玉とテーブルをセットして、オープンテラスっぽくしていたのね。お客さんがお店に入りきらないことはわかっていたから。それが通りを歩く人たちにも脚光を浴びて、お店を中心に人だかりができてしまったの。こうなると当然私一人じゃお店は回らないから、常連のエルフさんにお願いして魔法で即席で冷やしてもらったエール樽を外に置き、定額の飲み放題にしたの。もちろんマオとナオの食事代も無料にして手伝ってもらった。二人は私より全然かわいいから、お客さんも大喜びだった。



 こうして夜通し歌声が響く店を回しきった私はMVPに自分を推薦します(笑)。

おそらく今日だけでノーブラのファンは100名規模で増えたに違いないし。フードはあっという間に切れたけど。なんたって試合の再放送を水晶玉で延々と流し続けながら、飲みながら歌いながら踊りながらのお祭り騒ぎに200人近く集まったからね! もともと定員30人のお店だよ? ありえないよ(笑)。


 もちろん今日の売り上げは過去最高を大幅に更新したわけだけど、マスターに内緒でお店の前に再びスタッフ募集の貼り紙をはるところまで抜かりはなかったわ(笑)。


 そしてこれを機に、お店はイベントホールを兼ね備えた大型クラブハウスとして生まれ変わることが決定し、チームもビッグスポーツクラブとしての第一歩を踏み出すことになったんだけど、それはまた別の話。それよりも先に食材の仕入れ先を開拓しなきゃ!



※ アメフトのゴールポストはエンドゾーンよりも奥にあるため、そこまでボールを持って走りこめばそれだけで6点入ります(ゴールポストを倒す必要はありません)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る