第14話 慢心、環境の違い

 そんなわけで、悩める私は食材集めについてティモニーさんに相談したのね。


 すると、


「いいわよ」


 一言で終わってしまった。なんでもエルフの里の新鮮な野菜や果物を転移魔法で直送してくれるサービスがあるらしい。世の中便利になったものね!


 ここだけの話、エルフの里は辺境の地と言われているけど、空気と水がきれいで高原野菜の品質は折り紙つきだし、寒暖が激しい盆地で作られる果実も糖質たっぷりで超有名。だけど今までは現地まで行かないと食べられなかった幻の食材だったの。ティモニーさんがどこまで知ってるかわかんないけど、独占契約を結びたいくらいなのよ。あれ? だったらあの有名なブランド酒の「エルフワイン」も手に入るんじゃない?


 早速ティモニーさんと一緒に話を聞きに行った私。やはり食材は申し分なかった。もちろん遠距離配送になるから多少割高にはなるんだけど、試合日のスポット対応に冷蔵庫を気にしないで済むのはとてもありがたい。肉や魚も頼めないかな? そしてもう少しリーズナブルにならないかな? と聞いてみたら、この運送業者さんが対応してくれるって! ありがとう相良急便さん!



 さてさて、第三クールを終えてわがノールランド・ブラウザーバックスは三連勝で首位に躍り出ました。私は知らなかったんだけど、これって下馬評をくつがえす快挙だったらしいのね。資金力でも集客力でも他のチームと大きく水を開けられていた我がチームは、これといったスター選手もいなかったし、選手数もギリギリのところでやってるからダントツの最下位候補だったんだって。


 もともとはラバーズと、まだ対戦していないクアドロップ・シックスティナイナーズが優勝候補だったみたいで、開幕前はマスコミもその2チームのスター選手をこぞって取り上げていたのね。もちろんまだ三クール終わった段階だし、春の珍事というか、勢いに乗っているだけと見る向きもあってか、マスコミがうちのチームを取材に来ることはあまりないんだけど、関係者としては気分がいいのよ。それもかなり(笑)。


 でも予想外に勝ちすぎたせいか、スポーツ協会からはあらぬ疑いをかけられることになってしまったの。


『ノーブラは選手に補助魔法をかけているのではないか?』


 という疑惑。もちろん根も葉もない噂だったんだけど、調査委員会の検査を受けることになったのね。


 実際は前節に極端に活躍したトミーに対し、事情聴収という名の筋力測定が行われたんだけど、尿検査の後、検査官の前での持久力、瞬発力テストであの子、検査官全員がビックリするような数値をたたき出したの。


 ざわざわ……。


『試合で活躍するのもうなずける』

『いやいや、彼の能力はまだフルに発揮されていないのではないか?』


 そんなひそひそ話がいくつか私の耳に入ってきた。


「そろそろいいでしょうか? 練習があるんで」


 そう言って疑いの晴れたトミーがグランドに入った後も、検査官たちは彼のことを興味深そうに見ていたわ。


 そして練習が終了後、検査官の1人が近づいてきて言ったの。


「ちょっと聴きたいのだが、きみの1日の生活を教えてくれないだろうか?」


 で、トミーは真面目に答えたのね。


  7時 起床・自宅で朝食

  8時 午前練習開始

 11時 午前練習終了

 12時 昼食・お店で勤務

 15時 午後練習開始

 18時 午後練習終了

 19時 夕食・お店で勤務

 23時 勤務終了

 24時 就寝


 聞いた検査官はびっくりしてた。まあ私のシフトも大差ないけど、トミーの場合はスポーツ選手だからね。だけどビッグクラブのスター選手ならともかく、弱小クラブの新米ロースターメンバーの生活なんてこんなもんよ。


 でね、ここまでの話で薄々気づいたかもしれないけど、この検査官集団、大手スポーツクラブチームのスカウトが混じっていたのね。シーズン終了後、ひょっとするとトミーは他のチームに引き抜かれちゃうかもしれない。そりゃ仲間としてはさみしいけれど、体が資本のスポーツ選手は稼げるときに稼ぐべきなのはある意味当然だし、給料の良いチームで活躍するのが本人にとって一番だと思うから、私はあえて何も言うつもりはないの。もちろん大手クラブのやり方は正直気に入らないけどね。


 でもトミーがこの時点ですでに私たちにとって特別な存在であることも間違いなかった。だって、世間一般では「ホークルがスポーツなんて」と思われていたし、実際ホークルの私でさえもそう思ってたもの。だからトミーは1試合の活躍だけでノールランドを代表するホークルのスターに押し上げられたし、全国のホークルの子供たちに希望を与える存在になったの。登録名にはスター性のかけらもないけど(笑)。


 当のトミーはいまだに自然体というか、お店の仕事も手を抜かないし、接客も笑顔だし、バカなところは変わらないけど、なかなかの好青年なのよね。そんな彼がマオとナオのどっちと付き合うのか気になった私は、それとなく聞いてみた。


「ねえあんた、いったいどっちがタイプなの?」


 するとトミーは顔を曇らせて、言ったの。


「……ミオは、俺の事どう思ってるの?」


 は?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る