第22話 決闘 道花 VS 勇一
剣は近づかないと届かない。
道花は走って距離を詰める。対する勇一は全く動こうとしない。
彼は両手に武器も持たず手ぶらで構えることもしなかった。
道花は不審に思って一度立ち止まることにした。
警戒した動きに、勇一は馬鹿にしたように挑発的な笑いを見せた。
「どうした? 道花。校長先生にも認められた天剣の武芸者ともあろうお方がまさか俺を恐れたんじゃないだろうな?」
挑発に乗ってやる義理はないが、こちらから攻めることは悪くない。
道花は彼の誘いに乗ってやることにした。
「今行くからね!」
一気に間近まで迫り、振り上げた剣を振り下ろす。
勇一は軽く片手を上げた。
衝撃は感じられなかった。だが、道花の剣は止められていた。
勇一の手に突如として現れた盾によって。勇一の目がキラリと光った。
「どうした? 最強。まさか自分以外の者が天剣を持っているとは思わなかったか?」
「やっぱりそれって天剣なの?」
「そうとも。これこそ俺の天剣スペリオルシークレットシールドだ!」
確かにこれが始めての天剣なら道花は驚いたかもしれない。
だが、もう豪の鬼岩斬や兎の氷天弓を見ていたのでそれほどの驚きは無かった。
道花はまだその能力を持っていないが、兎が何もない空間に氷天弓を出し入れするのも見ていたので、彼が盾を出したのもそれと同じ能力だと理解が出来た。
それよりも道花が強く思ったのは、盾まで剣のカテゴリーに入れるのかということだった。
今更突っ込むことでもないかもしれないが。勇一が不敵に笑う。
「お前の気持ちは分かるぜ。自分だけが天剣を持っていると己惚れていたんだよな。だが、こうして俺まで持っていたってわけだ。ざまあだぜ」
「そうだね」
道花はさらに天剣を閃くように繰り出す。
その剣を勇一は全て盾で防いでしまった。盾から剣をぶつけた衝撃が伝わっているはずだが、勇一はまるで平然として受けている。
この感覚は変だ。道花は一度下がることにした。
勇一は道花が下がるとすぐに挑発してくる。
「どうした、ナンバー1。まさか俺を警戒しているのか? ならばそろそろ俺の力を見せてやるか」
「レベル2!」
道花は相手の出方を待たない。天剣のレベル2の力を開放させた。風に舞い散る桜吹雪に会場がどよめき、勇一も驚いた顔を見せた。
「何だこれは。これもお前の力なのか?」
「兎ちゃんに教えてもらったレベル2だよ」
「レベル2?」
「行くよ!」
璃々が兎に力を見せないように忠告していたので誰もこの力を知らないようだった。
道花も正々堂々とした剣の勝負をしたかったので、率先してレベル2を使うことは無かった。
どよめく会場の空気の中、道花は桜の舞う風に乗り飛び立つ。高みから一気に降りて振り下ろす剣を勇一は盾でガードした。
相変わらず頑丈な盾だ。それだけでなく、これほどの威力を受け止めたのに勇一は後ずさることもしない。
「派手になってもただの剣だな!」
兎ぐらい天剣を扱う能力に長けていればレベル2での戦い方もあっただろうが、道花はそれほど搦め手は得意では無かったし、正面からの剣の戦い方を好んでいた。
桜吹雪を纏って振るう風で加速した剣を勇一は盾で次々と防ぎきってしまう。
「固い盾だなあ」
「つまらない悪あがきだったな。ならば今度はこちらから……」
「まだ!」
道花は剣を収めて拳を構えた。勇一は警戒しながらも盾を構えた。
「剣に頼れないと見て自暴自棄になったか? 悪くない手だが、通用しないのはお前の剣が悪いせいじゃないぜ」
「これは友達の教えてくれた技だよ!」
道花は拳を構えて飛び出す。勇一が盾を向けてくる。
その盾にもう道花は構わなかった。
突破できないなら横にどけるだけだ。
道花はその盾を殴ることなく掴んで横に払いのけた。勇一が驚いた顔を見せた。
「お前、それは無いだろ!」
「たああああああ! 兎殺し!」
そして、道花は驚愕する勇一の顔面に、兎に教えてもらった兎殺しを思いっきり叩きこんでやった。
「ふぎゃあああああ!」
勇一が吹っ飛んで倒れる。
「よし、まずは一撃」
狙いが当たったことに道花はひとまず満足する。
まだまだキレも強さも足りない。道花の兎殺しは教えてくれた兎の熟練した物とは程遠い。
天剣の武芸者ならこの程度なら余裕で立ち上がるだろう。
道花は油断しないように再び剣を抜いて構えるが、彼はなかなか立ち上がってこなかった。
審判が様子を見に行って確認して手を振り上げた。
「秋風勇一選手気絶により試合終了! 勝者、春日道花さんです!」
『わあああああああああ!!』
会場が盛り上がる中、道花はちょっと疲れを感じながら思った。
「あ、これで終わったんだ……」
何だかあっけなく思ったが、安心してしまうと今頃になって疲れと緊張が出てしまった。
ちゃんとした戦いが出来たか不安だったが、周りの観客達からは……
「さすがは天剣の武芸者だ」
「これが伝説に聞こえた天剣か」
「妖魔を払える武芸者の腕、見事だった」
賞賛の声が上がっていて、校長先生も偉そうな人達と楽しそうに握手していたので、良い結果が出せたんだなと安心したのだった。
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